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しおりを挟む夜会の日以降、私と旦那様は夫婦の寝室を使うようになりましたわ。
ええ。ようやく夫婦です。同居人でも友人でも兄妹でもなく、夫婦。
何だかもう一度結婚した気分になりましたわ。
お義父様とお義母様は本当に旦那様とやり直し、いえ、新たに夫婦として始めていいのかと真剣に聞かれましたが、戻ってきてからの旦那様に不快な言動はありませんし、元々期待しておりませんでしたので問題ありませんわ。
そしてエルビスが3歳の誕生日を迎えてすぐ、私は妊娠していることがわかりました。
旦那様はご自分が望んでいたにも関わらず、狼狽え始めましたのよ?
「リア、ベッドで寝ていなきゃダメなんじゃないのか?僕が運んで行こう。」
「リア、階段を降りて来たのか?危ない。部屋を1階にしないと。」
「リア、エルビスを膝に乗せるのは負担になるからよくない。」
毎日毎日、口うるさくて困ります。
「旦那様はご存知ありませんでしたが、妊娠は2回目ですので大丈夫ですわ。妊娠は病気ではありませんので過剰な心配をされると逆に気持ちが疲れてしまいます。
旦那様は騎士をされている時に、街で妊婦をご覧になったことはありませんか?私は妊婦が腕に1歳くらいの子供を抱いて更に3歳くらいの子供の手を引いて歩いているところを見たことがありますの。さすがに3歳のエルビスを抱いて歩くことは致しませんが、まだお腹がせり出していない今は膝に乗せるくらい平気ですわ。」
ちょっと嫌みたらしく言ってしまったかしら。落ち込んでしまわれたわ。
だけど心配ばかりして喜んでくれないから。
「旦那様、私、まだ聞いていませんわ。娘かどうかは産まれるまでわかりませんが、もう一人子供が欲しかったのではなかったのですか?旦那様の子供を身籠った私に言う言葉はありませんか?」
ハッとした顔で旦那様は私を見たわ。
「嬉しい。子供ができて。身籠ってくれて。ありがとう。ごめん。不安になりすぎた。」
私は手を広げました。旦那様は気づいて抱きしめてくれます。
妊娠がわかって以来、心配するばかりで旦那様は触れてくれませんでした。
「こうして抱きしめ合うと安心しませんか?私は旦那様に抱きしめられると安心します。
左程日常は変わりませんよ。いつもより少し意識して行動するだけです。多少コケたところで手のひらと膝を打つくらいですし。足のリハビリでは何度もコケましたのでコケ方も上手いと思っていますし。お腹の子というのは意外と強いそうですよ?
もっと気を楽にして、産まれてきてくれるまでの時間も楽しみましょう?」
「……うん。そうだな。リアを抱きしめて落ち着いたよ。」
旦那様は心配性なのですね。不安にさせないように少しは私も安心できるように協力しましょう。
そして産み月となり、産まれたのは旦那様ご希望の女の子でした。良かったわ。
女の子でなければ、もう一人産むことになっていたかもしれません。
女の子の名前や服を準備してくださっていましたからね。……本当に良かった。
いつの間にか旦那様に愛され、子供も2人。義両親とも仲良く幸せな毎日。
元婚約者に未練タラタラだという方との結婚のお話をいただいた時はどうなることかと思った結婚でしたが、結果的には上手くいきました。
私が旦那様のことを『もういらないんだけど?』と思っていたあの時期に元婚約者のロザリーさんが問題を起こしてくれて良かったですね?
でないと、旦那様は平民になっていたことでしょうから。
そう考えると、旦那様は運のいい方なのでしょうかね?
一度結婚を諦めた私も運がいいと思います。今がとても幸せですから。
<終わり>
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