上 下
19 / 20

19.

しおりを挟む
 
 
飲み物を取ろうと思っていたら、旦那様が踊ろうと言ってきて驚いたわ。


「大丈夫だ。僕に委ねて。隅のほうに行こう。」


どうするのかと思えば、旦那様は私の腰を掴んで浮かせるように抱きしめながら踊り始めたの。
足を床につけようと思えばつけられたので、怪我をしていない方の足で自分でも弾むようにステップを踏んだわ。だから楽しかった。
これは夫である旦那様以外の男性とはできないわ。だって、はしたないほど密着しているんだもの。


「これはこれで楽しいな。鍛えていてよかったよ。あ、リアは軽いよ?だけどひ弱だったら10秒も持たないだろうし。」

「もう踊ることなどないかと思っていました。ありがとうございます。」

「僕がリアと踊りたかったんだ。エルビスが娘がだったら腕に乗せて踊ってみるのにな。娘ができたら可愛いだろうな。子供は2人欲しいと思ってるんだ。」


そう笑顔でおっしゃった旦那様に驚いてしまったわ。 


「あっ……違うぞ。エルビスが男だったことを批判しているわけでも可愛くないわけでもないぞ?」


焦って旦那様はそうおっしゃったけれど、私が驚いたのは娘も欲しいと思っていることの方よ?
先ほどのご令嬢たちに離婚する気はないとおっしゃっていたわよね。となると、その娘(息子かもしれないけど)を産むのは私ということになりますわよ?


「僕はリアにいらないと思われても当然の夫だった。いや、今もそう思っているかもしれない。
夫婦と言えなかった3年間は確実に僕が悪い。特にエルビスのことに関して無責任だった。申し訳ない。
だけど僕はこの数か月一緒に過ごして来てリアのことが好きになった。改めて夫婦になりたい。リアは兄妹でもいいと思っている気がしないでもないけど、僕は夫婦でいたい。」


旦那様、あなたの好意はわかり難いわ。女として好かれていることに気づかなかったもの。
ひょっとしてロザリーさんに対してもそうだったのかしら。だから彼女は逃げた?どうでもいいけど。


「つまり娘ができるようなこともしたい、ということかしら?」


あら。想像してしまったのかしら?顔が真っ赤になったわ。やっぱり旦那様は初心ね。


「あっ…えっとだな、……そうだ。君を抱きたい。」


最後は物凄く小さな声だったけど聞こえましたわよ?仕方がないので絆されてあげましょうか。


「ふふ。わかりましたわ。産まれたのが息子でも落ち込まないでくださいね?」

「もちろんだ。」


とても嬉しそうに旦那様が返事なさった時に1曲が終わりました。
旦那様は私を椅子に座らせて、飲み物を取りに行かれましたわ。

すると、すぐ近くから声がかかりました。


「ロザリア……夫人。久しぶりだな。」


私の元婚約者様でしたわ。ええ。踊れない妻は要らないと婚約解消した方です。


「お久しぶりでございます。疲れておりますので座ったままで失礼しますわ。」


足に後遺症があることをご存知ですもの。無礼だなんておっしゃいませんよね?


「君の夫はすごいな。抱き上げて踊るとは思わなかった。」

「ええ。私も驚きましたがこの足ですし、夫婦の初めてのダンスだからと周りからはお目こぼししていただいていると思っておりますわ。」


私の足のことを知らずに無作法だ、破廉恥だと思っておられる方もおられるでしょう。でも、事情を知ればほとんどの方は納得されるでしょうし、夫婦だからこそ許されることでしょう。


「……君には申し訳ないことをした。怪我のことも、婚約解消のことも。自分が若く愚かだったと今は思っているよ。」

「もう過去のことですわ。」

「ああ。君の後に婚約した今の妻はダンスの息が合って結婚したんだ。だが浪費が酷くてね。マナーも君と比べれば全然で。ダンスなど社交のほんの一部で日常生活での価値観が合うことの方が大事だったと結婚後に気づいたよ。」


前の婚約者と比べるのは良くないわ?誰だって不愉快ですもの。私に敵意が向かないようにしていただきたいわ。


「……私たちは長い付き合いだったからでしょう。夫が戻ってまいりましたわ。」


飲み物を手にこちらに向かってくる旦那様の姿が見えたわ。だから離れてくれないかしら?


「君の結婚生活は上手くいっていないのかと思っていたが、勘違いだったようだな。羨ましいよ。幸せにな。」

「ありがとうございます。」


奥様の愚痴を言われても困るわ。選んだのは自分でしょ?私には何もできないわ。

 

「何かあったのか?」


旦那様は私が話しかけられていたのが見えていたのね。何かって言われても?


「旦那様が私を抱き上げて踊ったことに対する賛辞をいただきましたわ。」


とでも言っておきましょうか。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の婚約者は、妹を選ぶ。

❄️冬は つとめて
恋愛
【本編完結】私の婚約者は、妹に会うために家に訪れる。 【ほか】続きです。

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず
恋愛
 こんなことがあるなんて、予想外でした。  わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。  元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?  あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?

処理中です...