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しおりを挟む旦那様と結婚する前の婚約解消の経緯を話すと、旦那様は泣きそうになっていたわ。
「足が?気づかなかった。痛みは大丈夫なのか?」
「ええ。たまに少し痛む程度まで良くなりましたわ。」
気づかなかったのは、旦那様が歩く私の姿をほとんど見たことがないからよ?
「旦那様も共にダンスが踊れない妻はお断りでしょうか?」
「まさかっ!ダンスなどできなくても問題ない。社交のほんの一部のことじゃないか。だが、すまなかった。僕が全然君を夜会に誘わなかったから気づくことができなかった。」
「いえ、大丈夫ですよ。逆に私の足のことを知っている人たちは、踊れないから夜会に来ないのだと思っているはずですので。出産もありましたし、まだ爵位の継いでいない若い夫婦は似たようなものですわ。」
妊婦や産後などは一定期間はどうしても夜会に姿を見せることはないわ。
私の場合、結婚して3年と少しだけど、そのうちの1年半ほどは妊娠中と産後だもの。
産後は母乳が出たり、体形が変わったりしてドレスを着るのが難しいのよね。
以前と変わらない体形に戻るまで夜会には出ない人もいるそうだし。
「踊らなくてもいいじゃないか。そのうち君と夜会に行きたい。君が妻だと紹介したい。」
「……ありがとうございます。」
これは……復縁というのも変だけど、旦那様はやり直しを望んでいらっしゃるということよね?
うーん。エルビスのためにはその方がいいかしらね?もうちょっと様子見だけどね。
「あ、君は両親からリアと呼ばれているのか?」
「そうですね。使用人の方にもそう呼ばれています。皆さん、ロザリーさんのことをご存知ですので。
似た名前の私をロザリアと呼ぶとロザリーさんが頭にチラつくそうなのです。ですのでリアと。」
まさかそういう理由だとは思ってなかったのね。旦那様の顔が引きつったわ。
「あぁ、なるほど。……わかる気がする。身勝手な彼女のことを怒っていた者もいたからな。愛称でロザリーと呼ばれていたんじゃないのか?すまないな。呼び名まで。」
「いえ、リアと呼ばれることもありましたので大丈夫ですよ。」
「僕もリアと呼んでいいかな?」
「ええ。構いませんわ。」
その時、夕食の準備ができたと声がかかった。
「またリアの話を聞きたい。それにエルビスのことも。」
「そうですね。お仕事の合間や、終えられてから少しずつお話しましょう。」
「ありがとう。リアのこと、エルビスのこと、伯爵家のこと。知ることがいっぱいある。」
いやいやではなく嬉しそうにそう言った旦那様は、本当に知りたいのでしょう。
結婚当初から今の旦那様だったら良かったのに、と思ったけれど、元婚約者のロザリーさんが忘れられない訳あり男だったからこそ、婚約を解消された私に声がかかったのだものね。
今日から新たにやり直しね。婚約時代からかしら?もう子供もいるけれど。
旦那様は私の歩幅に合わせてエスコートしてくださったわ。
私の足の状態を把握しようとしておられるのね。
家の中ではヒールを履いていないから、あまり違和感なく歩けるの。
私の様子に旦那様も安心したお顔をされていたわ。
優しい人なのね。
家族揃っての初めての食事ね。エルビスも時間が合えば一緒に食べるの。
エルビスもご機嫌だわ。旦那様を嫌がらなくて良かったわ。
旦那様を見てエルビスが泣いたら、笑ってやろうかと思っていたけど。
それにしても、なぜ旦那様は食事中に何度も私を見ているのかしら?
「アドバス、お前どうしたんだ?」
同じく疑問に思ったのか、お義父様が聞いてくださったわ。
「いや、リアの髪色が違って見えて。前にも似たようなことを思ったことがある気がして。」
あぁ、今は照明に照らされて髪の表面が金色に見えるでしょうからね。
前に眉をひそめていたのも、どこで見たのか思い出そうとしていたのかしら?
「あら。思い出したの?リアはあなたの初恋の女の子よ?」
お義母様の言葉に、旦那様は狼狽えた。
「え?違うよ、だって……初恋の相手は、え?ロザリーじゃなかったのか?」
そうらしいわ。旦那様が勘違いしてるってお義母様から聞いたもの。
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