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しおりを挟むその後アドバスは、同僚たちとサルボア公爵にはグレッグに指示された内容で通した。
「元婚約者が今の妻に危害を加えないか不安で見張ろうという思いが強かったのです。グレッグと話をした時に改めてサルボア公爵が捜索の依頼を出したのが元婚約者ではないかということに気づいて、ダンスパーティーで関係者に顔を確認してもらおうと思いました。事前に顔を確認してもらうこともできたかもしれないけれど、ロザリーの逮捕が大勢に知られていれば王都に居づらくなって妻と関わることもないと考えたのです。勝手なことをしてしまい、申し訳ございません」
同僚たちは納得したような、しないような顔だった。
なぜなら、僕がずっと宿舎にいて妻と過ごしていないからだろう。
白い結婚を狙っているとまで思われているのだ。妻を気遣うことを不思議がられても仕方がない。
「実は僕はもうすぐ騎士を辞めます。5年間という約束で騎士になりました。騎士の間は全力で打ち込みたかったのです。自分勝手なのはわかっているのですが家族が許してくれたので。」
これでようやく納得してくれたようだった。許してくれたのは両親で妻ではないのだが。
上司たちには正直に、未練のあった元婚約者との再会に浮かれて捜索依頼を聞いていなかったこと、家からは月末までに元婚約者との関係を切らなければ貴族籍を抜くと言われていたことまで話してしまった。
呆れた顔をされたが、次に聞かれたことには驚いた。
「もしロザリーが妊娠していた場合、お前の子供の可能性はあるか?避妊は確実だったか?」
「え……?ロザリーが妊娠?」
「だから、もしもの話だ。囲っていたお前が一番可能性は高くなるが、男を連れ込んでた可能性もあるしな。で?どうなんだ?」
「いえいえ、僕はロザリーを抱いていません。妊娠していても僕の子供ではありません。」
「は?お前、わざわざ部屋まで借りて囲ったんだろう?」
「離婚してから、と思いましたので。」
さっきよりももっと呆れた顔をされた。みんな、勘違いしていたようだ。
既婚者でも娼婦や一夜の浮気程度は見逃されるが、愛人を囲うのは体裁がよくないためバレれば減俸処分なのだ。
「……変なとこ、真面目だな。彼女は隣国で子供を一人産んでいるが置き去りにして逃げた。隣国では国外追放扱いになっている。いろいろ盗んで売りさばいた罪もあるらしくてな。隣国に入国すると捕まる。
本来であればそんな女を匿ったお前にも何らかの処分をするところだが、グレッグに感謝しろ。
あいつの機転でお前のやらかしが同僚にバレなかったんだからな。次期伯爵が笑われずに済んだな。
騎士を辞めるまであと少しだろ?最後まで励め。」
「はい。申し訳ございませんでした。」
子供まで産んでいたとは……驚きだ。
ロザリーは、平民でありながら公爵令嬢の許可なく話しかけた不敬罪に、身体的特徴を貶した(胸を育てろと言われた=貧乳)侮辱罪で労役が課せられた。
その上、王都への立入禁止に元婚約者アドバス・パドレ本人及び伯爵家家族・伯爵領への立入禁止、関係を持った令息たちへの接触禁止なども言い渡された。
もちろん僕は、月末に再来月の家賃を払うことはなくなったので、貴族のままだ。
妻は、ロザリーが王都にいたことや令息たちとの関係のことを知っていたのだろう。
おそらく、父が調べて妻に教えた。
公爵令嬢への罪が重なったことでややこしくなってしまったけれど、妻の意図したところは『娼婦同様に体を使って稼いでいた元婚約者を受け止めて平民になる覚悟があるか』ということだったのだろう。
娼婦を辞めさせて僕と2人で平民として夫婦になる。彼女が捕まらなければ、あり得たかもしれない未来。
確かに、僕は愚かにも仕事がなく稼ぐために彼女は嫌々、娼婦になったと思った。
僕が辞めてくれといったら辞めただろうか。
あるいは、泣きながら辞めたいと言われたら僕が面倒を見ると言っただろうか。
……言った気がする。
再会した時のように、涙に騙されてしまうだろう。
そうして彼女を選び平民になった僕は?………彼女に捨てられたかもしれない。
今となってはそう思う。
浮気をして僕に直接顔を合わせて謝りもせずに駆け落ちをしたロザリー。
彼女のどこに信じられる要素があったのか、未練を残していたのか、もはやわからない。
今度こそ、ロザリー、さよならだ。………また顔を合わせて別れの言葉は言えなかったが未練はない。
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