王太子殿下の子を授かりましたが隠していました

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
1 / 27

1.

しおりを挟む


 *
 
 ──ある日。ユキマサの父、稗月木枯ひえづきこがらしはパチスロへと足を運んでいた。

(雨だ……今日はパチスロ日和だな)

 さて、何を打つか……

(パチンコなら〝ホスト無双〟スロットなら〝パシリスト絆〟だな……悩み所だ……)

 顎に手を当て、小遣いである一万円札を握りしめ、木枯は朝イチのパチ屋の入場抽選を待つ。

 抽選の順番は10番、平日の特にイベントでも無い日としてはまあまあの入場順だ。

(よし、今日はパシリストだ! 絆を打つぞ!)

 木枯は決意を固める。
 そうして打つこと100回転前後、木枯はフリーズを引いた。

「おいおい、マジか!?」

 引いた木枯自身が驚く。

 結果、この日、木枯は5000円でフリーズを引き、なんやかんやで8000枚(16万円)と大勝利を果たした。 

 ご機嫌なテンションで木枯は帰路に着く。

 家に着くと、木枯は吹雪の前で正座していた。

「──あぶく銭です」

 稗月家にはこんな家訓がある。
 〝汗水垂らして稼いだ金は自分達の為に使え、あぶく銭は可能な限り他人のために使え〟

 この家訓の為の吹雪の対応である。

「ま、待ってくれ、今までスッたのを計算するとそんなに勝ってないんだ!」
「あぶく銭です!」

 ニッコリと吹雪が笑う。

「まあ、家族で外食ぐらいは行きましょうか」

 その場にぐったりと木枯は膝を吐く。

 その日、家族6人で食べ放題の焼き肉チェーン店に晩飯を食べに行き、残った金は母さんが全額孤児院に寄付していたのだった──。

 *

「夏祭り?」

 理沙が口を開く。

「ああ、今日の夜だ! 屋台、見に行こうぜ!」

 俺は楽しげに理沙に言う。

「で、でも……」

 チラりと母さんを理沙が見る。

「いいじゃない、せっかくのお祭りよ、理沙ちゃんも見てきなさいな」
「う、うん!」

「よっしゃあ、決まりだな!」
「いや、何で親父が一番嬉しそうなんだよ?」

 まあ、ということで、その夜──

「こ、混んでるね」
「理沙はお祭り来たこと無いのか?」

「うん、来たこと無い」
「まじかよ」

「あ、理沙ちゃん、はい、お小遣い!」

 と、理沙に母さんが5000円を渡す。

「え、こんな大金、受け取れないよ」
「いいのよ、むしろ店の手伝いをしてくれてるんだから、普通ならこの100倍ぐらい渡したい所よ」

 100倍って……まあ、一年以上店を手伝ってるんだからそれぐらい出ても、何ら不思議じゃないか。

「じゃ、じゃあ、ありがとう、な、何、買おうかな」
「たこ焼き、焼きそば、りんご飴、唐揚げ、ポテト、早く回らないとだな」

「ユキマサはどれだけ買うつもりなの?」
「ん? 制覇に決まってるだろ? 名がすたる」

「俺はユキマサに賛成だ、金は俺が持つ、好きに食べてこい」
「流石は親父だ、分かってるな!」

 ガシッと、腕を絡ます俺と親父。

「はーいはい、理沙ちゃんバカは放っておきましょ、それより、花火の場所取りをしてくれてる、お義父様とお義母様を探さなきゃね」
「……うん」

 *

「たこ焼き1つ」

「焼きそば1つ」

「りんご飴1つ」

 そんな感じでどんどんと俺は屋台を回る。

「おい、ユキマサ、そっちはどうだ?」
「どうだも何も、俺は飲食系の屋台を回ってるだけだぜ? 親父こそ、そのキツネの面はどうしたんだよ?」

 いつの間にか、キツネの面を斜めにかける親父は上機嫌で話しかけてくる。

「あ、やっと見つけた! おかーさんが探してたよ」

 と、現れたのは理沙だ。
 だが、理沙の手にはりんご飴とわたあめが握られており、どうやら理沙も理沙で夏祭りを満喫しているみたいだ。

「理沙か、どうだ? 祭りは?」
「うん、すごい楽しい、おばーちゃんにりんご飴も貰ったし──美味しいね、これ」

「にしし、だろ?」
「何でユキマサが誇らしげなのよ?」

「おい、ユキマサ、理沙、そろそろ花火が始まるぜ? 吹雪達と合流しなきゃな? 理沙、案内頼むぜ?」

「あ、うん、こっち」

 理沙に案内され、かき氷、大判焼き、お好み焼き、を買いながら俺達は母さん達と合流する。

 と、その時だ、ヒュ~ン、ドッカーン!

 大きな花火が打ち上がる。

「綺麗……」
「にひひ、だろ? 花火は良いよな」

 感動したような声で理沙が呟き、俺はその隣で楽しく笑う。花火は良い、特に誰かと見る花火は格別だ。

「おーい、理沙、ユキマサ、かき氷の屋台があるぜ! 夏の醍醐味だ、食おうぜ、さて何味にするか?」

 俺と理沙の間に割って入り、右手を俺に、左手を理沙の頭の上に乗せる親父は子供のように笑顔だ。

「親父、花火見ろ、花火! もう始まっちまったじゃねぇか! ブルーハワイ!」
「バカ野郎! 花火の下で食う、かき氷ってのが乙なんだぜ? お前もやってみろ?」

「な、花火の下で、かき氷だと……!?」

 最高に決まってる。
 く、馬鹿は俺だ。

「私はイチゴにしようかな」
「お、いいねぇ。俺は変化球でコーラ味だな。よし、おやっさーん! かき氷3つ、ブルーハワイ、イチゴ、コーラで頼むぜ!」

 でも、時間は無駄にはしまいと、さっさかと親父は注文と会計を済ませる。

「ありがとな、親父」
「ありがとう。おとーさん」

 かき氷を受けとる、シロップもケチケチせず、たっぷりだ。
 しかもよく見るとシロップはかけ放題らしい。気前が良いね。

「おうよ。ゆっくり食べな、キーンてなるからな? さ、じゃあ、食いながら、吹雪たちと合流しようぜ」

 サクッと刺し、パクっと食う。うん、美味い。
 ブルーハワイのこの青色が実に涼しげだよな。

「ていうか、おとーさんもユキマサも手荷物いっぱいだね。どれだけ買ったの?」

 かき氷を食いながら、ビニール袋に入った屋台の食べ物を両腕にこれでもかとブラ下げる俺と親父を見て理沙が驚き半分呆れ半分といった様子で見てくる。

「ん? 目に止まった物、全てだが?」

 も当然かのように答える俺に、理沙はやはり呆れ気味だ。

 花火の打ち上がる空の下、俺と理沙と親父は、席を取っていた母さんと爺ちゃん婆ちゃんと合流する。

「あら、遅かったですね、花火始まってますよ」

 母さんが少しズレて、俺たちの席を開ける。

「おい、木枯こがらし、早くせい、先にもう飲んどるぞ」
「あらあら、飲み過ぎないでくださいね」

「いいねぇ。屋台で色々買ってきたぜ、皆で食おう」

 親父がビールをグラスに爺ちゃんに注いでもらいながら返事を返す。

 ヒュ~ン、ドッカーン!
 花火が打ち上がる。

「どうした理沙?」

 ふわぁ、と、感動したように花火を眺める理沙に俺はイタズラ気に声を掛ける。

「うん、綺麗だなって!」

 花火に負けない明るい笑顔だ。

「理沙ちゃん、理沙ちゃん、たこ焼き食べる?」
「食べる、お婆ちゃんも一緒に食べよ」

 婆ちゃんの隣に座り、たこ焼きを爪楊枝で食べ始める。理沙は、たこ焼きを食べると、花火が上がると、少しオーバーなぐらいのリアクションを取る。
 でも、凄く楽しそうだ。婆ちゃんも笑ってる。

「本当に綺麗、たこ焼きも美味しい──」

 笑みを溢す、理沙。

 ──花蓮理沙は、この日見た花火を生涯忘れない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

【溺愛のはずが誘拐?】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!

五月ふう
恋愛
ザルトル国に来てから一ヶ月後のある日。最愛の婚約者サイラス様のお母様が突然家にやってきた。 「シエリさん。あなたとサイラスの婚約は認められないわ・・・!すぐに荷物をまとめてここから出ていって頂戴!」 「え・・・と・・・。」 私の名前はシエリ・ウォルターン。17歳。デンバー国伯爵家の一人娘だ。一ヶ月前からサイラス様と共に暮らし始め幸せに暮していたのだが・・・。 「わかったかしら?!ほら、早く荷物をまとめて出ていって頂戴!」 義母様に詰め寄られて、思わずうなずきそうになってしまう。 「な・・・なぜですか・・・?」 両手をぎゅっと握り締めて、義母様に尋ねた。 「リングイット家は側近として代々ザルトル王家を支えてきたのよ。貴方のようなスキャンダラスな子をお嫁さんにするわけにはいかないの!!婚約破棄は決定事項です!」 彼女はそう言って、私を家から追い出してしまった。ちょうどサイラス様は行方不明の王子を探して、家を留守にしている。 どうしよう・・・ 家を失った私は、サイラス様を追いかけて隣町に向かったのだがーーー。 この作品は【王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!】のスピンオフ作品です。 この作品だけでもお楽しみいただけますが、気になる方は是非上記の作品を手にとってみてください。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...