王太子殿下と婚約しないために。

しゃーりん

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あと2週間ほどで1年生が終わる。

そして、ひと月の休みがあり2年生が始まるのだ。
その頃には内定者を決めなければならない。
その2か月後に王太子ラミレスの17歳の誕生日があるからだ。

つまり、あとひと月と2週間で婚約者を決める必要があった。



ベルーナが卒業して学園からいなくなったことを知ったその週、ラミレスは休んだ。
翌週からは出席したが、まるで抜け殻のようだった。
そんなラミレスをパンジーは甲斐甲斐しく世話し続けた。

そのままひと月の休みに入ってすぐ、パンジーとの1対1の交流があった。


「殿下、失恋がつらいのはわかります。
 お慕いしているあなたに、私もフラれ続けているのですから。
 彼女を忘れてくれとは言いません。ですが、私も見てくれませんか? 
 あなたを支え続けたいと思っています。
 ですが、一方通行のままでは私の心はいつか折れてしまう。
 少しずつでも私に心を寄せていただくことは無理なお願いなのでしょうか。」


公爵令嬢パンジーの告白と涙は効果てきめんだった。

美女が自分を思い慕ってポロポロと泣いているのだ。
心を動かされないわけがなかった。

ラミレスはこのままではいけないと、ようやく気を持ち直した。

 
「パンジー嬢、情けない姿を見せ続けて悪かった。
 こんな愚かな私を支えてくれると言うのなら、私は君の思いを受け止めたいと思う。
 私は、君を婚約者に選びたい。受けてもらえるか?」

「ああ、殿下。とても嬉しいです。お受けいたします。」


涙を拭って、笑顔で答えるパンジーに、ラミレスは驚いた。

いつも淑女の笑顔しか見せたことのないパンジーの心からの笑顔だったからだ。
何年も交流を続けてきて、いかに自分が打ち解けようとしてこなかったかが悔やまれる。

彼女たち一人ひとりにも感情があるのに。
………ベルーナにも感情があるのに、自分の気持ちばかり押し付けていたんだ。

パンジーは一番身近でラミレスの愚かな姿を見てきたはずなのに慕っていると言ってくれた。
彼女の気持ちに応えたい。

私は王太子なのだ。
国を背負い、担う一人で、地位のある立場なのだ。
パンジーは王太子妃に相応しい。
こんな私に愛想つかすことなくベルーナが去った後も寄り添い続けてくれたのだから。


さようなら、ベルーナ嬢。君の幸せを祈っているよ。





ベルーナ様の助言のようにしたら、殿下が立ち直ってくれたわ! 

しっかりしたところと、それでいて少し弱いところ。
普段見せない涙と、淑女らしくない子供の頃のような笑顔。
失恋直後に、自分を慕っている令嬢がいる。しかも気持ちがわかると言ってくれる。
男は笑顔と涙に弱く、普段と違う言動に心動かされやすい。

ラミレスの興味を引き、パンジーに婚約者になってほしいと思わせる方法だった。





王家にはラミレスしか王子はいない。
ラミレスは頭もいいし、執務にも問題はない。
ただ、ベルーナのことでだけ愚かな男になるのだ。
正しい婚約者を選べば、良い国づくりのために協力し合えるのだ。
愚かなことを仕出かして廃太子にせざるを得ない状況になる前にベルーナを候補から外すことができた。

国王は、心から安堵し、ベルーナとパンジーに感謝した。 


  
 


 
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