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屋敷に帰ったベルーナは、濡れた髪は既に乾いたが気持ち悪かったので風呂に入ることにした。

その間にラミレスが心配してやってきたそうだが、いつも通り体調不良で追い返したそうだ。

というか、まだパンジーが水をかけた犯人たちを懲らしめてるんじゃないの?
それを放って王太子殿下は何をしているの?
婚約者云々よりも、王太子殿下の教育をやり直した方がいいのではないかしら。


夜になって、ベルーナに嫌がらせをしていた令嬢の家名一覧が届けられた。
おそらく、令嬢たちはもう学園には来れないだろう。
親にはどんな処分が下ることか。

それに、アゼリアも確実に婚約者候補から外されて伯爵家にも処分が下される。


王太子殿下の婚約者候補はこれで4人になった。


そのまま2日、学園を休み、王太子殿下と1対1の交流日となった。

毎日毎日しつこいので、病欠にしようかと思っていたけれど会うことにした。


「ベルーナ嬢、大丈夫だったかい?
 まさか、アゼリア嬢が嫌がらせの指示をしているなんて思ってもみなかったよ。
 これからは君が被害に合わないように護衛をつけようかと思うんだ。」


真剣な顔をして馬鹿なことを言うラミレスに誰のせいだと怒鳴りつけたくなった。


「殿下、やめてください。特別扱いは不和を招くのです。
 今回がいい例でしょう?殿下の態度によってアゼリア様は行動されたのです。」


少し怒りを滲ませて、あなたも悪いのだと言ってみた。


「そ、そうか。すまない。護衛はやめておくよ。
 今回の出来事で嫌がらせでも処分されるのだと知らしめることができた。
 他の令嬢が同じような愚かなことをするはずはないな。そうだそうだ。」


どうしよう。この王太子殿下、本当に大丈夫なのかな。

私が絡む時だけこうなの?
王太子としての執務は真面なの?

お父様に確認してみようかしら。


「それはそうと、前にベルーナ嬢が言ったことをこの何か月かでじっくり考えてみたんだ。
 まず、公務や執務だけど、これは減らして出来ることだけしたらいいんじゃないかな。
 それに、後継者も君が産めないなら、他の者に産んでもらおうと思う。
 つまり、側妃に君の仕事を全部任せたらいいと思うんだ。」


どうだっ!と自信満々に言うラミレスに殺意が沸いた。


「……王太子妃や王妃がする仕事を側妃に任せて、私は何をするのです?」

「ベルーナ嬢は私の側にいてくれたらいいんだ。」

「……どこに私を正妃とする意味があるのでしょうか。
 私はあなたの人形なのですか?
 あなたは私という人間の意志を無くそうとしているのですか?」

「い、いや、そんなつもりはないんだ。
 ただ、君が笑顔で側にいてくれるだけで幸せに感じると思うんだ。」

「……笑顔?私、殿下に笑顔を見せたことがありましたか?
 何を言っても理解してくれない殿下に笑顔を向けた覚えはありません。
 私の望みはただ一つ。婚約者候補から外してください。それだけです。では失礼します。」


感情が高ぶり、ベルーナの目からはボロボロと涙が零れていた。
怒りに足がもつれそうになったところ、ベルーナの従者がサッと横抱きにして部屋を出た。

残されたラミレスはベルーナに言われたことを思い返していた。
笑顔。……そう言えば、挨拶程度の微笑みしか見たことがないかもしれない。
彼女の笑顔を見たのは……10歳の時だ。母親と楽しそうにしていた、あの時の……

 
だけど、笑顔を見せてくれなくても、ベルーナに側にいてもらいたい。

そう思う私は、ただの我が儘なのだろうか。

 



 
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