平民から貴族令嬢に。それはお断りできますか?

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
45 / 47

45.

しおりを挟む
 
 
ルーズベルト様と街歩きをしていると、ルーズベルト様の知り合いらしい女性に声をかけられて振り返ると、そこにいた女性にナターシャはひどく驚かされた。

ひとことで言えば、『派手』。それしかない。


「メリッサ嬢、お久しぶりですね。こんなところでお会いするとは。」

「あら。ここは私の婚約者の店なのよ?ご存知なかったようね。」


思わず真横にあった店をルーズベルト様と2人して確認し、納得してしまった。


「ナターシャ、こちらはメリッサ・ベック侯爵令嬢。僕の元婚約者だよ。」


でしょうね。そんな気がしていました。


「あら。こちらが私からルーズベルト様を奪った可愛いご令嬢なのね?」


メリッサ様の言葉に、ナターシャは動揺を隠しきれなかった。


「ふふ。冗談よ。お店にどうぞ。」
 

店に入れと言われて戸惑ったナターシャを、ルーズベルト様は『大丈夫だよ』と苦笑しながら背中を押してくれた。




店の奥には応接室があった。

そこに、メリッサ様とメリッサ様が会いに来たという婚約者カールス様と私たちが座っていた。
 

「さっきはイジワルなことを言ってごめんなさいね。でも違ったかしら?」

「……いえ、そうです。申し訳ございませんでした。」


確かにナターシャはメリッサ様からルーズベルト様を奪ったのだから。


「ほら、やっぱり!私が予想した通りだったわ。」


メリッサ様はカールス様に笑顔でそう言っていた。


「私は今の婚約者であるカールス様と、劇的な出会いをしたと思っていたの。着飾ることが好きな私を理解してくれて、似合うものを勧めてくれて、意気投合して。彼となら毎日が楽しくなる。そう思ったわ。
ずっとデザインの勉強で外国を渡り歩いていた彼が帰国したのは運命だと思ったの。
だから父にルーズベルト様との婚約解消をお願いしたわ。あなたは私を否定しなかったけど、苦手に思っていたでしょう?」

「そうですね。僕自身、着飾ることが苦手なこともあって、あなたに申し訳なく思っていました。」

「でしょう?だから、婚約解消はお互いにいいことだと思っていたの。」 


それでも他の男性に心を移したことをメリッサ様は浮気と変わらないと心苦しく思っていたそうだ。


「それなのに、ルーズベルト様の新しい婚約者がカーマイン侯爵家の見つかったご令嬢だと聞いて、『あぁ、私たちの出会いはカーマイン侯爵様に仕組まれたのね』と気づいたの。」


ルーズベルト様の領地にいた見つかった令嬢。彼女が婚約するなら彼がいいと父親にねだった。
でもルーズベルト様には既に婚約者がいた。ではその婚約者に新しい出会いを紹介すればいい。

そんな感じだったのではないか。

だから、普段の彼女が招待されることのない服飾の展示会に招待され、案内人が意気投合しそうなカールス様だったのだ。
そしてその展示会の協賛にはカーマイン侯爵の名もあったという。

偶然というには出来過ぎの結果に思えたとのことだった。
 

「お二人の仲の良い姿を見ることができて安心したわ。」


ナターシャのことを知らないので、自分と婚約解消したせいでルーズベルト様がまた面倒な娘を押し付けられて婚約したのではないかと心配する気持ちがあったのだという。
まるで、弟を気遣う姉のような目線で……

心の憂いが無くなったとスッキリした顔でメリッサ様は言った。思ったよりも話しやすい人らしい。


「さあ!私たちが婚約祝いにお似合いのものをプレゼントするわ!」


ナターシャはメリッサ様に、ルーズベルト様はカールス様に連れられてあーだこーだと振り回された。

それでもまぁ、彼らが人に似合うものを勧める目を持っていたのは確かで、今までとは印象が違うけど身に着けてみたいと思うようなものを選んでもらえた。 

 
お気に入りの店になったと父にも報告しよう。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

彼女(ヒロイン)は、バッドエンドが確定している

基本二度寝
恋愛
おそらく彼女(ヒロイン)は記憶持ちだった。 王族が認め、発表した「稀有な能力を覚醒させた」と、『選ばれた平民』。 彼女は侯爵令嬢の婚約者の第二王子と距離が近くなり、噂を立てられるほどになっていた。 しかし、侯爵令嬢はそれに構う余裕はなかった。 侯爵令嬢は、第二王子から急遽開催される夜会に呼び出しを受けた。 とうとう婚約破棄を言い渡されるのだろう。 平民の彼女は第二王子の婚約者から彼を奪いたいのだ。 それが、運命だと信じている。 …穏便に済めば、大事にならないかもしれない。 会場へ向かう馬車の中で侯爵令嬢は息を吐いた。 侯爵令嬢もまた記憶持ちだった。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◆エールありがとうございます! ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆なろうにも載せ始めました ◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

処理中です...