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しおりを挟むナターシャとルーズベルト様の婚約の経緯を事実と少し変えることにしたのは、みんなで話し合ってのことだった。
事実は公表できるわけがない。
実際にナターシャが父に取引として願ったことは、婚約者の略奪と言えるのだから。
それを知られないためにも、ナターシャはコダック伯爵領でずっと暮らしていて縁があった領地であり、ルーズベルト様の婚約解消を知って、カーマイン侯爵家からコダック伯爵家に婚約を持ち掛けたということにしたのだ。
それも、決して間違いではないのだから。
「だからね、ナターシャ。これからはどんどんルーズベルト様と街に出て、デートしなさい。
2人の仲を見せつけて、それでいてナターシャが高飛車でも傲慢でもないことをわからせるのよ。
そして、あなたの後釜を狙う令嬢たちを蹴散らせなさい!」
「え……?後釜?」
「そうよ!あの令息の従妹がナターシャのことを悪く言うのも、ルーズベルト様の伯爵家に嫁ごうと狙っているからなのよ。子爵・男爵令嬢からすれば伯爵家は憧れなんだから。」
公爵家・侯爵家に嫁ぎたいというような世間知らずな下位貴族令嬢は稀に現れるが、大抵が怒らせた結果、修道院か強制労働者になるのが現実である。
そのため、狙い目はやはり伯爵家となるのだ。
「ナターシャとの婚約が公になっていない時の縁談の申し込みはすごかったそうよ?」
ルーズベルト様は苦笑いをしていた。『全部丁重にお断りしたから』と言ってくれたけど、選ばれたのがナターシャだと知って、悔しがった貴族も多かったのだろう。
そっか。お父様も言っていた。コダック伯爵家は伯爵位の中でも上位だと。
貴族は、人柄など二の次でより良い貴族家と縁を結ぶことに必死になる。
万が一を期待して縁談を申し込みし、やはりダメだったとわかっても、何とかして壊せないかとナターシャに対する悪意ある噂をバラ撒いているということらしい。
……貴族ってほんと、面倒。
「ナターシャ、週末、街でデートしよう。」
つまりは、ルーズベルト様はこれを言うために姉に我が家まで連れてこられたということらしい。
今まではどちらかの屋敷か、少し離れた公園でピクニックをしたくらいだった。
ナターシャも、ルーズベルト様も、人込みよりも自然が好きだから。
だけど、2人一緒の姿を見てもらうには、街に行くのが一番らしい。
レストランやカフェ、劇場などの貴族向けの場所を訪れると、必ず誰かに会うものだから。
人に見られてコソコソと噂されるのは嫌だけど、手を繋いだり腕を組んだりして街歩きデートするのも楽しいかも。
自分たちの仲が良好だと何度か見せつければ、どうせ興味はすぐ他に移るから。
貴族というのは話題に尽きない。
人は、羨ましいと思うことよりも、他人の不幸や失敗の方が長く噂されるのだ。
つまり、ナターシャとルーズベルト様が幸せを見せつければ、話題も狙いも次へ行く。
それが姉からの指示だった。
そして訪れた週末。
ルーズベルト様と少しカジュアルなレストランで食事をしてから街歩きをしていると、声をかけられた。
「あら、ルーズベルト様。ごきげんよう。」
女性に声をかけられたルーズベルト様と共に振り返ると、そこにいた女性にナターシャは目を見開いた。
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