41 / 47
41.
しおりを挟むナターシャが綺麗な姿勢で作法通りにお茶を飲む姿を見て、周りは驚いているようだった。
中には、自分の娘を見て叱責している親までいた。
あるいは、その親自体が動揺でカチャカチャと音を立て、周りから失笑されてしまったようだ。
ナターシャは、半年も経たないうちにお茶会に行くと言った母に驚いたが、ずっと貴族令嬢として過ごして来てもこの程度しかまだできないのだと言うことをナターシャに見せたかったのだろう。
そして、貴族になって半年にも満たないナターシャより娘が劣るのは恥ずかしくないのかと周りの貴族夫人に見せつけているのだろう。
つまり、侯爵令嬢であるナターシャのことを舐めるなと知らしめたのだ。
こうしてナターシャのお茶会デビューは、大勝利?に終わった。
月に1,2度、お茶会に行くようになったが、親を伴わない令嬢だけのときは、少し砕けた感じになることもわかった。
しかし、親の目を離れた分、言動に大きく個性やそれぞれの貴族家の考え方の違いが出る。
この日は、さりげなくナターシャを貶める発言をする令嬢がいた。
「平民から貴族になれたとしても、どんなに頑張っても染みついたものは変えられないと思わない?
私は生まれも育ちも貴族でよかったわ。苦労しなくて済んだもの。」
その令嬢の発言に、同意する者と眉をひそめる者とに分かれた。
「そうよね。平民ってあくせく働いて、たとえこんなドレスを買えても着ていくところもないわ。」
「でも、そのドレスを作ってくれているのも平民なのよ?」
「うわっ!それは言わないでほしいわ。平民の手垢がついているだなんて、想像したくないし。」
「手垢って……食べ物もそうよ?貴族が育てたり収穫したりしているんじゃないわ。」
ちょっと面白い。彼女たちの言い合いを、ナターシャは口を挟まずに聞いていた。
「何なの?あなたも貴族なんだから、平民をこき使ってる方じゃない!責めるように言わないでよ!」
「責めてないわ。立場は違うけど、同じ人間だと言いたいだけよ?」
「同じじゃないわ。お父様は天と地ほど尊さが違うとおっしゃってるわ。」
「そうかしら。あなたが平民になる可能性もあるのに?」
そう言われた令嬢は想像したこともなかったのか、絶句した。
「例えばね、あなたの領地にいる領民たちが、『領民を大事にしてくれない領主の下では働きたくない』と言って領地を出て行ったとするでしょう?そうすると、あなたの領地の特産である小麦は作られなくなるわ。
そうなれば、領民はいないから税を納めてくれることもないの。収入がなくなるの。わかる?」
「父は収入が減れば税をあげればいいって言っていたわ。」
この令嬢、ちょっとおバカ?
「だから、その税を納めるためには領民が小麦を作って売ってお金にしなきゃだめでしょ?その領民がいないの。」
「それがどう私に関係するの?」
「領地からの収入がなければ、今のような暮らしはできなくなるわ。だって入ってくるお金がないのに、出て行くお金ばかりだもの。使用人のお給金や毎日の食事代、購入したものの支払。
貯蓄があってもいずれは底をつくわ。
領民を大事にしなかった領主ということで爵位を剥奪されたら、あなたは平民になるのよ。」
「……え?そうなの?」
どうやら基礎知識すらなかったらしい。
「それよりも、税を上げられた領民が怒って、暴動を起こすことの方が現実的ね。」
そうでしょうね。どうやら彼女の父親は、あまりいい領主ではなさそうだから。
ナターシャはこの賢い令嬢が好きになった。
1,322
お気に入りに追加
2,031
あなたにおすすめの小説
花嫁は忘れたい
基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。
結婚を控えた身。
だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。
政略結婚なので夫となる人に愛情はない。
結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。
絶望しか見えない結婚生活だ。
愛した男を思えば逃げ出したくなる。
だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。
愛した彼を忘れさせてほしい。
レイアはそう願った。
完結済。
番外アップ済。
これは一周目です。二周目はありません。
基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。
もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。
そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。
彼女(ヒロイン)は、バッドエンドが確定している
基本二度寝
恋愛
おそらく彼女(ヒロイン)は記憶持ちだった。
王族が認め、発表した「稀有な能力を覚醒させた」と、『選ばれた平民』。
彼女は侯爵令嬢の婚約者の第二王子と距離が近くなり、噂を立てられるほどになっていた。
しかし、侯爵令嬢はそれに構う余裕はなかった。
侯爵令嬢は、第二王子から急遽開催される夜会に呼び出しを受けた。
とうとう婚約破棄を言い渡されるのだろう。
平民の彼女は第二王子の婚約者から彼を奪いたいのだ。
それが、運命だと信じている。
…穏便に済めば、大事にならないかもしれない。
会場へ向かう馬車の中で侯爵令嬢は息を吐いた。
侯爵令嬢もまた記憶持ちだった。
嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした
基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。
その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。
身分の低い者を見下すこともしない。
母国では国民に人気のあった王女だった。
しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。
小国からやってきた王女を見下していた。
極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。
ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。
いや、侍女は『そこにある』のだという。
なにもかけられていないハンガーを指差して。
ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。
「へぇ、あぁそう」
夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。
今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
魅了から覚めた王太子は婚約者に婚約破棄を突きつける
基本二度寝
恋愛
聖女の力を体現させた男爵令嬢は、国への報告のため、教会の神官と共に王太子殿下と面会した。
「王太子殿下。お初にお目にかかります」
聖女の肩書を得た男爵令嬢には、対面した王太子が魅了魔法にかかっていることを瞬時に見抜いた。
「魅了だって?王族が…?ありえないよ」
男爵令嬢の言葉に取り合わない王太子の目を覚まさせようと、聖魔法で魅了魔法の解術を試みた。
聖女の魔法は正しく行使され、王太子の顔はみるみる怒りの様相に変わっていく。
王太子は婚約者の公爵令嬢を愛していた。
その愛情が、波々注いだカップをひっくり返したように急に空っぽになった。
いや、愛情が消えたというよりも、憎悪が生まれた。
「あの女…っ王族に魅了魔法を!」
「魅了は解けましたか?」
「ああ。感謝する」
王太子はすぐに行動にうつした。
【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
共に伯爵家の令嬢と令息であるアミカとミッチェルは幸せな結婚式を挙げた。ところがその夜ミッチェルの体調が悪くなり、二人は別々の寝室で休むことに。
その翌日、アミカは偶然街でミッチェルと自分の友人であるポーラの不貞の事実を知ってしまう。激しく落胆するアミカだったが、侯爵令息のマキシミリアーノの助けを借りながら二人の不貞の証拠を押さえ、こちらの有責にされないように離婚にこぎつけようとする。
ところが、これは白い結婚だと不貞の相手であるポーラに言っていたはずなのに、日が経つごとにミッチェルの様子が徐々におかしくなってきて───
生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる