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しおりを挟むナターシャが僕との結婚を望んでくれた。
嬉しくて叫びたいくらいだ。
王弟殿下が嫌だから、コダック伯爵領が好きだから、社交が最低限だから、ルーズベルトしか貴族の男を知らないから、理由はどんなでも構わない。
僕という選択肢が彼女の中にあったということが嬉しい。
ナターシャは短い期間にいろいろと考えて、侯爵家に行ったんだな。
あの前の晩、メリッサとのことを聞いてきたのも、どうしても貴族として嫁ぐ必要があるのであれば、相手がルーズベルトであれば住み慣れたコダック伯爵領で過ごせると探りを入れてきていたのだろう。
僕がメリッサに好意がないと知り、取引として父である侯爵に婚約解消を望んだ。
昨日のベック侯爵の様子からも、メリッサの新しい婚約者に文句はなさそうだ。
カーマイン侯爵は、メリッサに望ましい相手をあてがったのだろう。
カーマイン侯爵夫妻もようやく見つかった娘が平民になりたいということを阻止できた。
父である侯爵を利用するなんて、ナターシャ、頭いいな?
週末、正式に婚約を交わすため、カーマイン侯爵家を訪れた。
先にナターシャと話がしたいと頼み、2人で庭園に出た。
「ここでの暮らしには慣れた?」
「そうですね。想像していたよりは。……ルーズベルト様、勝手なことして怒っていませんか?」
「勝手なことって婚約解消のこと?むしろ、有難かったよ。僕もどうにかしようと思っていたから。」
「よかった。円満が取引の条件だったから、上手くいかない場合も考えて前もって言えなくて。」
「向こうも満足してるから、心配ないよ。それより、貴族でいていいの?」
「平民になっても家族は家族だと思うのですが、両親にとっては生き別れの感覚みたいで。
父が取引を成功させたから、私も平民ではなく貴族として生きることを決めました。」
そうは言うけれど、ナターシャは出会ってしまった家族を捨てられないと思ったのだろう。
お互いの妥協点がこの婚約。そういうことだ。
ルーズベルトはナターシャの手を取って、言った。
「ナターシャ嬢、あなたをお慕いしています。私と婚約していただけますか?」
ナターシャは驚いた後、少し不満な顔をした。
「ナターシャ、僕は君が好きだよ。僕と婚約してくれる?」
砕けて言うと、ナターシャは笑顔になった。
彼女が望んでいるのは堅苦しいことではない。
「はい!嬉しいです。よろしくお願いします。」
僕は少しでもその願いを叶えていこう。
そしてナターシャは『自惚れてよかった』と言った。
つまり、僕の好意を察していたのだろう。
ナターシャだけに土産をやり、一緒にお茶も飲んで、恋心を自覚してからは好意がダダ洩れだったかもしれない。
手をつないで部屋に戻った僕たちは、両家の親に微笑ましく見られながら2人の婚約を成立させた。
その数日後、14年前に攫われたカーマイン侯爵令嬢が見つかったということは社交界に知れ渡った。
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