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カーマイン侯爵家からルーズベルト宛に来た婚約の申し込み。
 
父から震える手で受け取ったその中には、相手にナターシャの名前が確かに書いてあった。

 
「ナターシャと……え、本当に?どうして?」

「はっはっはっ。どうだ?嬉しいだろう?私も嬉しい。」


どうやら父は経緯を知っているようだった。どういうことなのだろうか。

 

父が話してくれたのは、ナターシャがカーマイン侯爵家に住み始めた少し後のことだった。

ルーズベルトが学園に行っている間に、カーマイン侯爵が伯爵家を訪れた。
 
そのことは父から聞いていた。
ナターシャを保護して、しかも攫われた娘ではないかと知らせてくれたことを感謝された、と。

しかし、それだけではなかったのだと言う。

父と侯爵の会話はこうだった。


「実は、ナターシャに平民になりたいと言われていてね。」

「確かに、そう言っていましたね。」

「どうやらコダック伯爵家で楽しく過ごしていたらしい。」

「彼女はとても可愛がられているようでしたね。両親もとても好いていました。」

「なので堅苦しい貴族にはなりたくない、と言って。だがこちらもせめて18歳まで試してみないか、と娘に頼み込む有様で。」

「もう少し幼少であれば違ったのでしょうがね。もう14歳になる彼女はしっかりしていますから。」

「そうなんだ。言い包めようとしたら見透かされてしまってね。婚約させられたら貴族でいるしかないと気づいてしまったんだ。」

「もう婚約の予定が?」

「いや、そうではないが、王弟殿下が気がかりでね。」

「ああ……確かに。魔力が多いと知れば連れて行きそうですね。普通の令嬢ではないところも喜びそうです。もしくは、魔力と属性の多い子供を何人も産ませようとしそうですね。」

「そうなんだ。それもあって、まだ公表を控えている。王弟に掴まるのも困るし平民になることも困る。」 

「難しいですね。」

「するとナターシャが取引を申し出てきた。」

「取引?どんなです?」

「伯爵の息子、ルーズベルト君の婚約を円満に解消させることができれば、侯爵令嬢としてルーズベルト君と婚約する。できなければ、その時点で平民になる。」 

「へ……?え……ルーズベルトと、ですか?」

「悪くない話だろう?伯爵は魔力の多いナターシャを手放すのは惜しいと思っていたはずだ。」

「それは……そうです。」

「ルーズベルト君は、婚約者のことを苦手に思っている。」

「ええ、はい。」

「そしてナターシャは、コダック伯爵領が好きらしい。」

「嬉しいことです。」

「ルーズベルト君も領地が好きで、社交の時期だけ王都にいればいいと思っている。」

「……息子の言いそうなことです。」
 
「ルーズベルト君はナターシャのことを好いてくれているのでは?」

「ええ。おっしゃる通りです。」

「ナターシャが恋しているかは疑問だが、ルーズベルト君と結婚してもいいと思うほどには好意がある。」

「……泣いて喜びそうです。」

「よって、ナターシャを貴族として嫁がせるためにも、ルーズベルト君の婚約を解消させようと思う。」

「何か妙案が?」

「私に任せてくれたまえ。ひと月ほど経てば、円満に解消することになるはずだ。」

「よろしくお願いいたします。」


ということだった。


 
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