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しおりを挟むひと月後、コダック伯爵家は困惑していた。
ベック侯爵家からメリッサ嬢とルーズベルトの婚約解消が申し込まれたからだ。
「メリッサから聞いていたが、どうやらルーズベルト君との仲はあまり進展しなかったようだね。」
「申し訳ございません。僕は着るものに無頓着なもので……」
「その方がいいかと思って君と婚約させたのだが、それはそれで張り合いがなさ過ぎるらしい。」
メリッサ嬢にはルーズベルトの前にも婚約者がいた。
しかし、その元婚約者はメリッサの派手さを一緒にいたくないと非難したらしい。
それにより婚約解消。
そして次に選ばれたのが無頓着なルーズベルトだったのだ。
ルーズベルトは一緒にいたくないとは言わなかったが、苦痛に思っていたことは確かだ。
「実は、メリッサと意気投合した男がいてね。彼もメリッサとの将来を望んでくれているんだ。
メリッサを押し付けるように婚約させておいてすまないが、解消して構わないかな?」
「あ、はい。メリッサ嬢に、お幸せにとお伝えください。」
「うむ。君もいい縁談に恵まれることを願っているよ。」
ベック侯爵は婚約解消の手続きを終えて帰って行った。
あれ?
メリッサ嬢との婚約解消に向けて、本格的に動き始める前に終わってしまったぞ?
首を傾げていると、父が言った。
「よかったじゃないか。あちらから申し出てくれて助かったよ。」
「そうですね?」
あれ?
これでナターシャに婚約を申し込める?
でもまだ、カーマイン侯爵家はナターシャのことを公にはしていない。
それは、彼女が平民になりたいと言っていることが原因なのではないか。
平民になるつもりでいるナターシャに婚約を申し込むことなんてできるのか?
ルーズベルトは自分がどうすればいいか混乱していたが、近いうちにナターシャに会いたいと言ってみようかと思った。
彼女の近況を聞きたいからだ。
あるいは、婚約を解消したことを報告して、告白してみるのも一つの手ではないか。
ルーズベルトを選んでくれたら、貴族になることを選ぶということだし、父が望んでいたナターシャの魔力もコダック伯爵家に戻ってくることになる。
もう少し、婚約解消が早かったら……なんて図々しいことを思ってしまった。
先日、ナターシャが14歳になったからだ。
婚約者のいる身としては、2人で会ってプレゼントを渡すなどということはできないため、カーマイン侯爵家宛に花束を贈った。
お礼の手紙には、14年分の誕生日を祝ってもらってプレゼントの山だったと書いてあった。
ルーズベルトも花ではなく形に残る物を贈りたかった。
そう言えば、ナターシャはコダック伯爵家で保護していて、それを手放すことについて父は何も言わなくなった。
カーマイン侯爵と何か取引をした様子もなかった。
だが、ルーズベルトが知らないだけで、領地で大災害が起きた時には優先的に人員を優遇するとでも約束したのかもしれないな、と思った。
しかし、翌日、父から言われた言葉に驚いた。
「ルーズベルト、お前に婚約の申し込みが来ている。」
「え……昨日の今日で?婚約解消を誰が知っていたのですか?」
「カーマイン侯爵家だ。」
ニヤッと笑って言った父を、ルーズベルトは呆然と見返すことしかできなかった。
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