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朝食後、父に呼ばれて一緒に執務室へと向かった。


「ナターシャ、10日後から礼儀作法と家庭教師を呼ぶことにする。それまではゆっくりしなさい。」

「……お聞きしているかと思いますが、私が平民のままでいたいということは叶いませんか?」
 
「今日にでも正式にナターシャをカーマイン侯爵家の次女として登録し直したいと思っている。」

「今、私は二重に戸籍があるということですよね?こことコダック伯爵領にあるのと。」

「そうだな。コダック伯爵領で保護されていることに関しても、伯爵と話し合う必要があるな。」


伯爵様は保護のためだけに領地に戻ったくらい、ナターシャの魔力を期待していた。


「娘は見つかったけれど、平民のままでいたいと言った。それでどうにかなりませんか?」

「……ナターシャは平民のままでどうしたいんだ?」

「どうって、今まで通り、コダック伯爵家で働きたいです。」

「侯爵家の令嬢が?」

「元、になれば、変ではないですよね?お屋敷には子爵家や男爵家の人も働いていましたし。」

「まぁ、コダック伯爵家は、伯爵家としては上位だからな。
それでも一度、侯爵令嬢として努力をしてはくれないか?ナターシャはもうすぐ14歳だ。15歳で学園に入学になる。あと1年と4か月後くらいか?
18歳で卒業し、婚約者がいれば結婚に向けて。就職先が決まっている者は働きに出るのが普通だ。
だから、一先ずそれまで侯爵令嬢として過ごしてくれないか?」

「それはつまり、18歳まで婚約を結ばないと約束してくれると言うことでしょうか?
18歳で平民を選べば許してくれると?」
 
「……それは。18歳までに婚約者がいないということは侯爵令嬢としては滅多にない。
申し込まれる相手によっては、受けざるを得ない場合も。」

「婚約者が出来てしまえば、貴族を辞めることは難しくなりますよね?
それなのに一先ず18歳までって矛盾していませんか?」


この父は、言い包めようとしているとしか思えない。


「……ナターシャは13歳なのに、賢いな。驚いた。
だが、本気で騙そうとしたわけではない。婚約の申し込みがあればナターシャの意見も聞くつもりだった。
格下からであれば断れる。だが、ナターシャは魔力が多いからそれ目当てに格上から申し込まれる可能性はないこともない。だから、その場合は平民にはなれないということだ。」 

「こんな、平民育ちでも申し込みがあると?」

「あるだろう。……一番不安なのは、王弟殿下だ。絶対に断れない。」


王弟殿下?今の国王陛下って30歳過ぎてなかった?その弟?


「王弟殿下って何歳ですか?」

「……28歳だったか?それくらいだ。魔力が多く、魔獣を倒すために国中を回っておられる。」


立派な方とは言えるけど、ずいぶん年上だし未婚なのが不思議。


「その、15歳ほど年上の王弟殿下に申し込まれる意味は?」

「……魔力の多いお前と魔獣退治に明け暮れるためだ。王弟は戦闘狂みたいな方なのだ。平民育ちのお前なら、自分のことは自分でするから連れ回せると喜びそうだ。」


魔力を役立てたいけれど、そこまでの未来、求めていません。
 
だから、目をつけられる前に貴族令嬢に仕立て上げておこうという考えなのでしょうか。


どうしても18歳まで貴族を試してほしいけど、厄介な婚約者が出来る可能性もある。
そこは父も葛藤するところらしい。

 
「ではお父様、一つ取引をいかがでしょうか。」


ナターシャは決意した。
 

 
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