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その後、ずっと気分が高揚し続けていたであろう母は夕食時に飲んだお酒の影響もあって、コテンと眠ってしまったらしい。

部屋に来た姉にそう聞いて苦笑してしまった。

この部屋は、攫われた次女のための部屋で、定期的に模様替えをしてきたらしい。

幼いころ、少女時代、そして今。 

まだ可愛らしい、13歳なら喜びそうな部屋なのだろう。

ナターシャとしては、もう少し落ち着いた部屋でも構わないのだけれど。
 

「どうかしら?実家に戻った気分は。」

「申し訳ないのですが、まだまだ気持ちが追いつきません。」

「そうよね。知らない人が家族になったのと同じだものね。」

「でも、温かいなって思いました。」

「ふふ。両親は恋愛結婚なの。仲がいいからそう感じてくれたのなら嬉しいわ。」


両親の仲は、子供にも影響を及ぼす。姉や兄の雰囲気が柔らかく温かいのもそのせいだろう。

貴族にしては珍しいのではないか。まぁ、コダック伯爵家も似た感じだったけど。


「クローゼットに服がたくさんあるのですが。」

「あれはナターシャのよ。あなたのサイズを持ってきてもらったの。私が着ていた服もあると思うわ。」


昼に別れてから家族に話をして、ナターシャを迎えに来るまでに服の手配もしたってこと?

ここで何日過ごすのですか?というほどあったけど?

といっても、今後のことを話し合わない限り、今の自分はここ以外に行く場所はなくなったのかも。


「ねぇ、ナターシャ。お願いがあるの。
明日は、お父様、お母様って呼んであげてくれないかしら?」


そうだった。ナターシャは一度も呼ばなかった。
両親も、呼んでほしいと強要しなかった。

亡くなった母のことを、育ての母と何度かナターシャは言った。
両親は、ナターシャが心の中で母と思っているのがその人なのだと感じ取ったのかもしれない。

姉のことも、兄のことも、まだ誰のことも呼んでいない。 

彼らはナターシャが呼ばなくても、いつか呼ぶまで待ってくれると思う。
 
だけど、姉は両親が落ち込んだ、悲しんだことがわかったのだろう。

ここでナターシャが嫌だと言っても、姉は怒らないだろう。
いつか呼んでね、と言うだけで、いつか、が来なくても受け入れるかもしれない。
 
別にナターシャは意地で言わないわけではない。
どこか、違和感と、後ろめたさと、恥ずかしさと、タイミングが問題なだけで。

 
「わかりました、お姉様。」


姉ジェシカにそう言うと、ジェシカは喜んでナターシャを思いっきり抱きしめてきた。

いつか、この姉に窒息させられるかもしれない。



そう思った翌朝。


「おはようございます。お父様、お母様。」


ナターシャがそう言うと、今度は母に思いっきり抱きしめられて窒息させられそうになったのは言うまでもない。 







 
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