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ルーズベルト様の後について部屋に入り、先に中にいた2人の姿を目にした。

ナターシャは女性の姿を見た途端、姉であろうことを理解した。向こうもそう思ったらしい。

ポロポロと泣き出す姿に驚いたが、隣にいた男性が涙を拭う姿が自然だった。
仲が良さそうな2人だなぁと思いながら見ていた。
想像していたような、冷たく見定めるような視線を向けてくることはなかった。


予定では笑顔で迎えてくれるはずだったらしい。

そして、感じた通り、彼女は姉に間違いなかった。
 
コダック伯爵領で働いていた時にも使用人仲間に抱き着かれたり頭を撫でられたりすることはよくあったけれど、侯爵令嬢という高位貴族でも抱き着いたりしてくるんだと少し驚いた。


それにしても、クレメンス様もジェシカという姉も思った以上に強引で暴走気味な性格ではないか。

太刀打ちできない。

そんな予感をひしひしと感じていた。




姉ジェシカが落ち着き、店員に飲み物を運んできてもらってからクレメンス様が話し出した。


「ジェシカに、もうすぐ妹かもしれない女性を呼んでいると話したらすごく驚いたんだけど、その後は君が来る前はしゃべり通しだったんだ。
貴族的な笑顔だと冷たいと思われたら嫌だから朗らかな方がいいかなとか、スイーツをいっぱい並べておいた方がいいかなとか、もし姉妹じゃなくても来てくれたお礼をしたいなとか。」 

「もう!恥ずかしいから言わないで。」


姉はなんだかとても可愛い人らしい。


「ルーズベルト、俺はお前がなんでもっと早く気づかなかったのかが不思議でならない。」

「確かに、今ならわかりやすいかもしれないけど、ナターシャはこの半年の間にすごく成長して雰囲気が変わったんだ。
ジェシカ嬢のこと、学園に入る前は、クレメンスの婚約者だと知っていたし、まじまじと見ることもなかっただろう?僕は領地にいることが多くて、あまりお茶会とかも出なかったし。
クラスメイトになってクレメンスと話すから、僕とジェシカ嬢も話すようになったんだ。
だから、前期の間ではそんなこと、思いもしなかったんだよ。ジェシカ嬢に攫われた妹がいたことも知らなかったし。」 


確かに、ナターシャは自分でも変わった自覚がある。

それに、攫われたのが14年前なので、その当時の大人ならともかく今でも話題になるはずがない。


「あら。ディオルと一緒ね。ディオルも小柄で年齢よりも下に見られて嫌がっていたけれど、半年くらい前から急に成長し始めて、雰囲気も変わったわ。さすが、双子ね。」


ニコニコと嬉しそうにそう言われた。

双子の兄はディオルという名前らしい。成長時期という妙な共通点が兄だと認めざるを得ない。


「ナターシャ、今から家に帰りましょう?」


へ……?それは急すぎるのでは。家族には何も言っていないのでしょう?




 
 



 
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