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翌日、両親と共にルーズベルトはナターシャに話をすることになった。
 

「ナターシャ、よく眠れた?」

「はい。客室に泊めていただいてよかったのでしょうか?」

「うん。君に大事な話があるんだ。心して聞いてほしいんだけど、大丈夫かな?」

「はい。なんでしょうか?」


ルーズベルトはナターシャの目を見つめながら、誤魔化すことなく言った。


「君の亡くなった両親は本当の両親ではないかもしれない。」

「…………………は?ちょっと、意味が理解できません。」

 
やはりナターシャは亡くなった両親を親だと思っていたようだ。
本当の両親は別にいると聞かされたことはないのだろう。


「君が両親だと思っている母親は元子爵令嬢。貴族だった。だが、父親は平民。
君のような魔力の多い子供が生まれるとは少し不可解なんだ。絶対とは言い切れないけれど。」
 
「やはり母は貴族だったのですね。そんな気はしましたが、一度も聞いたことはありませんでした。
ということは、父が別人ということなのでしょうか?」
 

まぁ、そう思ってしまうよな。


「はっきりした経緯はまだわからない。だけど、君は約14年前に攫われた令嬢の可能性があるんだ。」
 
「……攫われた?令嬢って貴族ってことですか?」

「うん。それで……」

「いえいえ、今更本当の両親が誰とかどうでもいいです。知らなくていいです。貴族令嬢になんてなりたくないです。お断りします。」


思いもよらなかったナターシャの拒否に、ルーズベルトはもちろん、話を聞いていた両親も驚きを隠せなかった。
 


気まずい空気が流れたが、引き下がるわけにはいかなかった。
 

「ナターシャ、君が攫われた令嬢かどうかは調べてみないとわからない。違う可能性もあるんだ。」

「調べる方法があるのですか?聞いたことがありませんが。」

「魔力がそこそこあれば、親か兄弟と触れ合って魔力を流せばわかるんだ。
血の繋がりがあれば流れる。なければ反発を感じる。」

「ということは、誰かと会う必要があるってことですよね?家族かもしれない貴族ですよね?」

「……ナターシャ、貴族が嫌いなの?」

「そういうわけでは……だけど、自分が貴族かもしれないっていうのはお断りです。」


なぜだ?どうして?こっちも意味が理解できないと言いたい。


「ひとまず貴族になるならないは置いておいて、君のご両親はこの14年間ずっと君を待っているんだ。」 


そう言うと、ナターシャも少し悩んだようだった。


「でも違った場合、傷つけますよね?」

「それは否定できない。だから、ご両親ではなく君の姉かもしれない令嬢と姉妹かどうか調べてみようと思っているんだ。」
 
「姉、ですか。」

「うん。君の双子の兄かもしれない兄弟もいるよ。」

「双子の兄、ですか。」


姉と兄がいるかもしれない。そのことで少し気持ちは揺れただろうか。


「私がそこの娘だとわかっても、平民のままでいることはできますか?」

「それは……僕たちコダック家では決められない。本当のご両親と話し合うべきだろう。」

 
ナターシャは項垂れて考えていた。


「3日後までに返事がほしい。どうしても嫌なら強制はできないから。」


そうは言っても、ジェシカ嬢のためならクレメンスが動くかもしれないが。
 
  
 


 
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