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しおりを挟む聡いクレメンスはすぐにこちらの思惑に気づいた。
「……最初の調査では、ナターシャを生んだのは亡くなった元子爵令嬢に間違いないとの報告だった。
だが、カーマイン侯爵の不貞ではなく、攫われた娘だったのなら、どうしてそんな報告になったのかと再調査し始めることにしたんだ。
それと同時に僕の婚約解消も動くことにした。ナターシャが侯爵家の娘だと認められた時に婚約を名乗り出ることができるように。
だけど、それはこちら側の打算でしかない。娘を、妹を待っている侯爵家には関係ないことだ。」
「……そうだな。」
「父は魔力の多いナターシャを手放したくないし、僕もナターシャのことが好きだと気づいた。ナターシャからは意識してもらっていないのはわかってる。だから、自分のことがズルいと思ったんだ。
調査や婚約解消の後に侯爵家に知らせようだなんて、姑息だろう?それでナターシャと婚約ができたとしても、後ろめたく感じるかもしれない。
先にしなければならないことは、ナターシャがカーマイン侯爵家の娘かどうかだと気づいたんだ。」
「……ああ、そうだな。正直、お前がその選択をしてくれたことが嬉しいよ。
貴族にはどうしても駆け引きや交渉が付きまとう。だが、侯爵家の心情を思いやってくれたことに感謝する。
ジェシカに関わることじゃなければ、怪しまれない程度に報告を遅らせることに俺も協力していただろう。
好きになった女を手に入れたい。それは正攻法ばかりが正しいとは限らないからな。
俺とジェシカが友人だから、後ろめたく感じたんだろ?わかるよ。
もしお前が、婚約解消後に話を持ってきていたら、わだかまりが残ることになっていただろうな。」
やはり、そうなっていただろうとクレメンスの言葉で改めて思った。
同じことをカーマイン侯爵が思っても不思議ではない。
知らせてくれたのは有難いが、気づいていたのにわざと遅らせたんじゃないか?と。
ナターシャと婚約できたとしても、心からの信頼は得られなかっただろう。
だから、これが正しい。
「そのナターシャという子はまだ領地にいるんだろう?」
「ああ。ジェシカ嬢には事前に知らせた上でナターシャと会う方がいいか、いきなり会わせる方がいいか、どっちがいいと思う?」
「……そうだな。会わせる日に俺がジェシカに話す。彼女の様子を見て、お前たちを呼ぶ。それでどうだ?」
確かに。事前に聞いてしまえば、ジェシカ嬢は家族に話したくなったり挙動不審になるかもしれない。
話したければそれでもいいのだが、家族全員が落ち着かなくなるだろうし、全員が来たら困る。
それに、ナターシャを前にして、ジェシカ嬢の妹かもしれないと言うのもどうかと思う。
クレメンスがジェシカ嬢に話す間、近くでナターシャと待っていて、呼ばれたら対面させる。
うん。それがいいだろう。
「領地から呼び寄せて、本当の家族が別にいるかもしれないと告げなければならないだろう?
まだ13歳、もうすぐ14歳か?どんな子かは知らないが、その子を落ち着かせる時間も必要だ。
10日後の週末でどうだ?」
「わかった。そうしよう。」
そうだった。ナターシャも狼狽えるに違いないのだ。
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