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領地のコダック伯爵家には、現伯爵の両親が住んでいる。

メイドとして働いているナターシャはこれまであまりお会いする機会はなかったが、ルーズベルト様が王都に向かってからはよく声をかけてくれるようになった。

どうやら、ルーズベルト様からいろいろと話を聞いていたらしい。

 
「そう。上手よ。その辺の男爵令嬢よりも様になっているわ。」


……何故か、前伯爵夫人がナターシャに貴族の礼儀作法を教えてくれることになっていた。

今日は挨拶として欠かすことのできないカーテシーだった。
何度も繰り返したことで足がプルプルしそうになっていたが、ようやく褒められた。

この後には、一昨日教わったお茶の作法の復習が待っている。
一日おきに声をかけられているのだ。


「ナターシャは、今は子供だから呼ばれることはないけれど、そのうち手が空いていればお茶を入れるように頼まれることもあるでしょう。メイドでも、いつでも応対できるようになってほしいわ。
領地にあるこの屋敷には、商人や領民もよく来ます。
そのために、今からお茶を入れる侍女をよく観察なさいね。」

 
飲む作法だけでなく入れる作法も。
というか、ナターシャはメイドであり、なっても侍女なのだ。
飲む方ではなく、入れる方だけで十分なのに、なぜ飲む方を先に学んだのか。
こんな貴族令嬢のような作法を学んでどうするというのだ。

そう言いたいが、前伯爵夫人のお遊びというか、楽しそうな顔を見ると付き合わざるを得ない。
 
息子に爵位を渡して王都にもあまり行かなくなり、穏やかな余生を過ごしておられるのだ。
暇つぶしにナターシャをいじっていても、周りは微笑ましいと見て去るだけだった。

ナターシャばかり贔屓されていると思われては困るので、同じようなメイドで礼儀作法を学びたい者がいれば誘っていいかと前伯爵夫人に聞いて了承を得たが、誰も誘いに乗ってくれず、結局ナターシャ一人なのである。

なんとなく礼儀作法の基礎ができているナターシャと、何もしたことのないメイドとでは教わる難易度が違って見えていたことに気づかなかった。
誰もがメイドから侍女になれる可能性があるというわけではないことも。


そしてお茶の入れ方を学びつつ、復習としてお茶の飲み方を確認されたのだった。


次第に、祖父母という存在がいなかったナターシャにとって、前伯爵夫人は甘えられる存在になっていった。 

いつの間にか、ナターシャが入れるお茶を飲みに前伯爵様までもが席につくようになったが、前伯爵様はいつもナターシャの言動をじっくり見るだけで、あまり口を挟むことはなかった。

 




 
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