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しおりを挟むコダック伯爵家でメイドとして働いて1週間。
ここで働いている女性たちは比較的穏やかな人が多いのか、虐められるようなこともなく楽しく過ごしていた。
もちろん、正式に雇われているメイドとしては最年少である。
一人部屋だし、メイド服はあるし、食事もおいしく、何も文句はない。
ただ、女性の標準よりもまだまだ背が低いので、洗濯物を干す仕事や高いところを掃除する仕事は戦力外と思われているし、夜勤も免除になっているので、通常のお給金より減るらしい。
そのくらい、別に構わない。
母を亡くしたばかりなので、することがあって誰かと話していると悲しみを忘れられるから。
お昼を食べて、午後のお仕事を、と思ったところでコダック伯爵が領地へ戻ってきたらしく、ナターシャを呼んでいると言われて慌てて向かった。
「君がナターシャか。両親を亡くしたと聞いているが?」
「はい。2年前に父を、少し前に母を亡くしましたので、伯爵様に保護をお願いに来ました。」
「ああ。……君は本当に平民か?」
「はい。ずっとこの領都の街で暮らしてきました。」
「そうか。魔力の顕現はルーズベルト達が確認して問題ない。君を正式に保護する。
保護すれば、コダック伯爵家の者の許可なしに違う者の保護を受けることはできないが、いいか?」
「構いません。」
「領地内の災害時には、助けを求めることもあるが、いいか?場合によっては報酬も出す。」
「はい。」
「ではこの魔石に君の魔力を込めてほしい。」
渡された魔石はナターシャの掌くらいの少し大きめの石だった。
それに魔力を込めると複雑な色に輝いた。
「……うん。これでいい。ナターシャは2属性持ちだから色が単調ではないのだが……まぁいい。
万が一、君の行方がわからなくなればこの魔石が君の魔力を辿って行方を教えてくれるんだ。しかし、亡くなった場合はこうなる。」
見せてくれた魔石は黒くなっていた。
「だから、亡くなってしまっている場合は探し出せないと思ってくれ。」
まぁ、その場合は死んでいるのだから、早く探しに来てとも思えないし。
「屋敷内には我が伯爵家の者はもちろん、子爵家や男爵家出身の者や、ナターシャ同様に保護した平民など、魔力を実際に使う者たちも多いが、できる限り、屋敷の外で使うことは避けてくれ。
騎士団に付いて魔獣退治に向かうのであれば構わないが。」
いやいや、伯爵様までまだ12歳の小娘を騎士団に入れようとしないでください。
それにしても伯爵様、ひょっとして隠した属性に気づいた?
まさか、魔石に魔力を込めると色が光るなんて知らなかったから意識せずに魔力を流してしまった。
でも、聞いてこないところをみると、ナターシャが自分でも知らないと思ったのかも。
伯爵様の保護下にある間は何も言われないかもしれないけれど、多分、違う領主に保護されたいと許可を求めても却下されるかもしれない。
でも、お母さんが伯爵様に保護を願ったのは、伯爵様ならナターシャのことを預けられると信じたからだと思う。
だから、伯爵様のことを信じよう。そう思った。
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