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しおりを挟むナターシャは使用人棟の部屋で暮らすことになり、ジュリさんに案内されて部屋に入ると既にカバンも置いてあった。
「ナターシャは家事はできるのよね?」
「はい。ただ、2,3人分だったので……」
「ふふ。大丈夫よ。ここには使用人がたくさんいるから。ナターシャならメイドから侍女になれるかもしれないわね。ずっとここで働くなら、だけど。」
「平民でも侍女に?」
「ええ。なれるわ。覚えることはたくさんあるけどね。でも、平民が苦手なマナーや言葉遣いがきちんとしていると、伯爵家の方々のお側で仕事をさせてもらいやすくなるのよ。
今から頑張れば、ルーズベルト様の奥様になられる方やそのお子様付きになることができるかもしれないわね。」
メイドよりも侍女の方がお給金がいいのだろうなぁ……というくらいにしか思わなかった。
今はひとまず、衣食住が確保できそうということだけで満足なのである。
そしてその後、ルーズベルト様に呼ばれて魔力を顕現させて見せることになった。
屋敷の裏手、畑が見えるところだった。
万が一を考えて、人目に晒されず、事故が起きても問題ないような場所を選んでいるのだと思う。
部屋の中ででもできるが、魔力の量と加減を調整できなければ大惨事になるから。
ルーズベルト様と、執事のジョージさん、領地の騎士団長コイルさんが見届け人となるらしい。
王都にいる伯爵様に嘘偽りなく伝えるためだろう。
「ナターシャ、火と水だったね。出してみて。」
「どの程度でしょうか?」
「調整できるの?じゃあ、まずロウソクくらいで。」
ナターシャは人差し指をロウソクに見立てて、火を出した。
「……大きくできる?」
灯した火をそのまま大きくした。ナターシャの背丈ほどの球にすると、ルーズベルト様が慌てて止めた。
「わかった、火はもういい。次は水を。えっと。……どんな感じで出せる?」
どんな感じとは?水球?それともホース?それともジョーロ?バケツに溜める?
「畑の水やりは?」
「じゃあ、それで。」
ナターシャは目の前に広がる畑一面に雨のように水を降らせた。
「……わかった。ありがとう。なぁ、コイル。ここまでの平民、いたことある?」
「いえ、初めて見ましたね。貴族の中でも多い方じゃないですか?」
「だよなぁ。僕より多いかも。」
あら。落ち込ませてしまった?本当は風も土も使えると言ったら怪しまれるよね。
平民は多くても2属性だと聞いたから。
貴族でも4属性持ちはすごく少なくて、現在は10人程度だと聞いたことがある。
王族と高位貴族しかいないらしいけど。
……お母さん、いったいどこの貴族と縁続きだったのかなぁ。私、ヤバくない?
「騎士団に来てほしいよ。」
コイル騎士団長は口調はからかい気味に、しかし表情は真面目にそう言った。
「コイル、気持ちはわかるが、ナターシャはまだ12歳だからな。」
多分、どこの騎士団でも15歳から入団できるのだろうけれど、15歳になっても遠慮したい。
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