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しおりを挟む乗せてもらった馬車はすぐに屋敷の前につくだろう。
それでもナターシャは、馬車を汚さないように気をつけて座った場所から動かないようにした。
「僕はルーズベルト。ここの息子だ。君は10歳くらいに見えるけど、一人で来たの?」
彼はやはり伯爵家の息子だった。
正面の門から入れる素通りの馬車なんだから、そうだろうなぁとは思ったけれど。
それにしても、10歳に見えるかぁ。少し悲しい。
「私はナターシャといいます。12歳です。亡くなった母に、ジュリさんを通して領主様にお会いするようにと言われたのでやってきました。」
領主の息子なら、話しても大丈夫だろうと思ってここに来た目的を話した。
「そっか。お母さんが亡くなったんだね。じゃあ、ナターシャは12歳で一人になったのか?」
「はい。」
「ジュリを通して父に会いたいってことは、君は魔力が普通より多いのかな?」
「はい。」
「魔力を顕現できる、ということだね。何を?」
「火と水、です。」
ルーズベルト様は少し何かを考えたようだった。
「ナターシャは平民として、ここの領地で暮らしていたんだよね?いつから?」
「ずっと、だと思いますが。」
ナターシャはここの街以外は知らない。
そんな会話をしていると、屋敷の前についたようだった。
「ついておいで。」
ルーズベルト様について屋敷の正面玄関から入ってしまった。
これはいいのだろうか。
ナターシャは少し身を竦めながら後を追った。
「ジュリを呼んで。」
ルーズベルト様は誰かにそう言って歩いて行ったが、ナターシャはどこに行けばいいかわからず足を止めてしまった。するとルーズベルト様が後ろを振り返って、再び『ついておいで』と言った。
私の荷物は?と思ったが、こんなところで誰も盗むはずもないだろうから無駄な心配をやめてルーズベルト様について行った。
入った部屋の中を見て、服も靴も脱ぎたくなった。
こんな高そうな物がある部屋には、みすぼらしい格好だし、歩いて来たので汚れているからだ。
しかし、そんなナターシャの心境に気づかずに、ルーズベルト様はソファに座るように言った。
座ってすぐ、開いていた扉から女性の声がした。
「失礼いたします。ルーズベルト様、お呼びでございますか?」
「あぁ、ジュリ。彼女はナターシャ。君を訪ねてやってきた。父の保護を求めている。」
ナターシャはジュリに母からの手紙を渡した。
「はい。確かにナターシャの母親と約束していました。……ミオナは亡くなったの?」
ミオナというのは母の名前だ。ジュリにそう聞かれてナターシャは頷いた。
「そう。残念だったわね。ミオナからは、娘さんが魔力の顕現ができるから自分が亡くなった後に旦那様の保護をお願いしたいと言われていたの。来てくれてよかったわ。」
ジュリさんは母と知り合いだったのだろうか。
このお屋敷に友人がいると聞いたことはなかったけれど、なんとなく、自分の死後のことを頼んだだけの関係には見えないと思った。
でも、それは今確かめなくてもいいだろう。
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