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しおりを挟む病気で母が亡くなった。父も数年前に亡くなっている。
兄弟もおらず、親戚にも会ったことがないナターシャは一人ぼっちになった。
ナターシャを一人にすることを心配した母は、最期の時まで繰り返し遺言のように言った。
「ナターシャ、あなたは魔力が多いわ。必ず領主様が保護してくださるはずよ。お母さんが死んだら、迷わず領主様のお屋敷に向かいなさい。わかったわね?」
「はい、お母さん。」
一人にしないで、と泣き叫びたいが、母の命が消えるのはもうどうにもならないことだとわかっていた。
だからナターシャは母が安心して旅立てるように、涙を流しながらも微笑んで看取った。
荷物は多くない。
母が自分の死期を悟ったように、いろんなものを処分していたから。
自分のものと大切な思い出をカバンに詰め込み、大家さんに家の鍵を返してナターシャは領主様の屋敷へと向かった。
ここの領主はコダック伯爵。
屋敷の門に辿り着いたナターシャは、母から聞いていた名前を門番に言った。
「すみません。ここで働いているジュリさんという侍女長補佐をされている方にお会いしたいのですが。」
「ん?ジュリさんにか?お嬢ちゃん、約束はしてるかい?」
「いえ、母が亡くなったのでジュリさんを頼りなさいと言われて来ました。」
領主様に会いたいと言うのは屋敷の中に入ってからでないといけないらしい。
子供が領主様に会いたいなどと言うのは、2つ考えられるという。
1つ目は、領主様の隠し子だと主張する場合。
2つ目は、魔力の多い子供が保護を求める場合。
ナターシャの場合は2つ目になるが、領主様の保護を得られる前に例え門番といえども保護してほしいと伝えるのはよくないらしい。
追い返したり、後日来るようにと言っておいて、攫うという事件があったからだ。
善良な領主の元で働いているからといって、そこで働く者すべてが善良ではない。
なので、母は事前にジュリさんにナターシャのことを伝えているので、まずジュリさんに会うように言ったのだ。
「あぁ、メイドになるんだね。じゃあ、ここよりも通用門に回って……でも、お嬢ちゃん、歩き疲れてそうだなぁ。」
門番のおじさんは優しい人のようで、ナターシャの心配をしてくれたようだ。
どうしようかと悩んでくれているが、ナターシャは見かけよりも体力はあるし想像するより子供でもない。
「あの、通用門まで歩けますよ?」
「そうかぁ?……あ、ちょっと待って。馬車が来た。おじさん、仕事しなきゃ。」
そう言うと、門番のおじさんはもう一人のおじさんと一緒に大きな門を開けた。
馬車はこの家のものらしく、そのまま通り過ぎるかと思えば停止した。
「どうしたんだ?その子は?」
「はっ!メイド希望者らしくジュリさんに面会希望だそうです。」
「そうなのか。じゃあ、一緒においで。」
そう言って、ナターシャよりも少し年上の男の子が馬車の扉を開けてくれた。
ナターシャは戸惑ったが、門番さんがナターシャの荷物を馬車に積んだので、構わないらしい。
こうしてナターシャは、コダック伯爵の敷地内へと入ることになった。
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