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魔物の誘い
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「お初にお目にかかります。郡方の黒須新九郎にござります」
新九郎は頭を下げて両手をついた。
城戸流斎は再び咳き込んでから、
「儂が城戸流斎である。そちのことはよく聞いておるぞ」
「よく……?」
新九郎は顔を上げた。
「うちの者どもに調べさせておる。一刀流の戸沢道場で常に席次上位を争っていたほどの剣の腕だけではなく、学問もできる非常に優秀な若者だそうだな」
流斎は、顎を撫でながら目を細めて新九郎を見た。
だが新九郎は苦笑して、
「買いかぶりでござります。それがし、常に己の非才を嘆いております」
「はっはっ……性も良いのう。謙遜にもほどがあるぞ。とにかく、そちが素晴らしい武士であるのはわかっておる。だが、一つ残念じゃの」
流斎が薄笑いを浮かべた。
「何でございましょう?」
「そちの父、新兵衛が昔にやった公金横領のことじゃ」
新九郎の眉がぴくと動いた。
「黒須家は上士格ではないとは言え、天正期より代々城戸家に仕えて来た家。その上、新兵衛がすぐに潔く自裁したので黒須家は存続を許されたが、家中では未だにそちを白い目で見る者がいるそうではないか」
「一部の者だけでございます。それがしは気にはしておりませぬ」
「ほう。だが、やはり新兵衛の件のせいで、そちの出世は難しいのではないか? 家禄も半分に減らされ、暮らしも苦しいであろう」
流斎はにやりとしながら言ったが、
「出世よりも忠義、己の暮らしよりも民の暮らし。それが武士の道と心得ております」
新九郎は即座に堂々と言い切った。
「ほ、言うではないか」
流斎は目を見開いて、扇子を畳についた。
「しかし、そちは次席家老の大鳥に目を掛けられているそうではないか。大鳥家は我が藩随一の名家であるが、あの順三郎自身がどうにもいかん。何かと筆頭家老の小田とぶつかり、藩政を混乱させておる」
新九郎は小首を傾げてから、
「恐れながら、大鳥さまは誰よりも殿に忠義篤く、誰よりも国と民のことを想い、より良き政をなさろうと懸命に働いております。それ故に、小田さまとぶつかることもあるのでしょう」
「ほほう、これはまた言うではないか」
流斎は再びにやりと笑うと、またゴホゴホと咳き込んでから、
「じゃが、あ奴は家老を務めるには才覚も器量も足りぬ。近いうちに失脚するのは目に見えておる。そうなった場合、大鳥に目を掛けられておるそちはもっと苦しくなるのはないか? 場合によっては、新兵衛の件を蒸し返されて黒須家は今度こそ取り潰されるかも知れぬぞ」
「その時は仕方ありませぬ、受け入れまする」
流斎はやや大仰に驚いた風を見せて、
「なんと……その覚悟は立派であるが、藩祖頼龍公以来の黒須家がもったいないではないか。そうなった時に備えて、何か手を打っておいても良いと思うがの」
新九郎は、真っ直ぐに流斎の目を見た。
「どういうことでござりましょうか」
流斎は顎を撫でて薄笑いをしながら、
「うむ、はっきりと言おうか。黒須よ、儂に味方せぬか?」
「流斎さまにお味方を……?」
新九郎は眉をしかめた。
「そうよ。今からでも儂に味方すれば、大鳥が失脚しても、そちと黒須家の無事は約束しよう」
「なるほど。それはわかりましたが、今一つ解せませぬ。大鳥さまから離れるとしても、ここで隠居同然の暮らしをなさっておられる流斎さまにお味方して何故そのような約束ができるのでしょうか?」
新九郎は、わざと何も知らぬようにとぼけて言った。
流斎は鼻で笑った。
「儂は一応政龍の後見人ぞ」
「…………」
「儂はな。常々、大鳥に近い人間、しかも優秀で若い者を味方につけたいと思っておった。そちはそれにぴったりじゃ。そちはそのまま大鳥一派の中におれば良い。大鳥の味方のふりをして、大鳥一派の情報を儂に知らせるのだ。そうして事が成った暁には、そちの父の罪を完全に無かったものとし、黒須家の加増はもちろんのこと、大きく取り立ててつかわそうぞ」
「事……流斎さまの言われる、"事"とは何でございましょうか?」
「今は言えぬ。いずれ自然とわかるであろう」
流斎は冷笑して扇子を開いた。
新九郎は、下を向いてしばし無言となった後、再び流斎を見た。
「先ほどからどうも話が通じていないと思っておりましたが、流斎さまは誤解をなさっておられるようです。それがしは大鳥さまのお味方をしているわけではございませぬ」
「何?」
「それがしは殿のお味方です。我が黒須家は、祖先が戦国期に城戸頼龍公に仕えて以来、代々、城戸家の殿に忠義を尽くして来ているのです。それがしも同様、常に殿に忠義を尽くし、民の為に働きたいと思っております。そして、大鳥さまは執政衆の中でも最も殿に忠義篤く、最も領民のことを考えて働いておられます。それ故に、それがしは大鳥さまのお手伝いをしているに過ぎませぬ」
流斎は、はっはっ、と高く笑った。
「面白い。詭弁を弄するのう」
「はて、どこが詭弁でございましょうか。」
新九郎が首を傾げて見せると、
「手伝い、すなわち味方ではないか」
「味方ではございませぬ。大鳥さまが正しい行いをしている故のお手伝いでございます」
「それが詭弁じゃと言うておる!」
低く鋭い声が響いた。
流斎の温和そうな顔に朱色が走り、垂れ気味の眦が吊り上がった。
流斎のその様子に、空気が凍り付いたようであった。
上段の間の脇に控えていた虎はもちろんのこと、左右に並んでいる家士、濃紺装束の者たちの間にも緊張が走ったように見えた。
新九郎は落ち着いて、丁寧に両手をついて頭を下げると、
「申し訳ございませぬが、流斎さまの申し出にはお応えできませぬ。帰らせていただきとうございます。それがしの刀をお返し願えませぬか」
「…………」
流斎は、上段から冷たい目を新九郎に向けて黙っていた。
その顔は、もはや温和な色など失せ、鬼のような表情に変わっていた。
返答など来るわけがない――新九郎は躊躇うことなく立ち上がった。
「今は無理ならば、後日取りに参ります。今日のところはこれにて失礼させていただきとうございます」
張りつめる緊張感で静かな中、新九郎は歩いて広間から出て行こうとした。
その背へ、再び鋭い声が飛んだ。
「いずれわかって後悔するぞ。この国の真の主が誰であるかを!」
新九郎はゆっくりと振り返った。
「それこそ詭弁でございましょう。この国の主は城戸備後守様でござります」
そしてまた歩き始めると、流斎は開いた扇子を口に当てて、くっくっと笑い、「虎よ」と呼びかけた。
虎は流斎を見て頷き、新九郎の背に低い声で言った。
「この屋敷で今の話まで聞いても我らの味方にならぬと言うのならば、生きて帰れるわけがなかろう」
同時に、多数の立ち上がる音、衣擦れと刃物の音が響いた。
それを背後に聞いた新九郎の額に汗が浮かんだ。腰に二刀は無い。
――一気に駆け抜ける!
踵を浮かせ足下を蹴ろうとした、その瞬間であった――
突如として、広間に耳をつんざく爆発音が響いた。同時に、白い煙が濛々と立ち込めた。
「何だ? 目が」
「ここに曲者だと?」
家士や濃紺装束の連中が驚愕と狼狽の声を上げた。
「殿をお守りせい!」
虎は流石であった。咄嗟に大声で叫ぶと、流斎の側に駆け寄った。
その流斎は刀を引き寄せて立ち上がったが、顔を青くしている。
突然起こった混乱。
新九郎も驚いたが、彼にとっては天の助けとしか思えぬ好機である。新九郎はすぐに庭に降りて履物を履くと、門の方へと庭を疾走した。
流斎の側に寄りながらもそれを見逃さなかった虎、
「梟、大蛇、奴を逃がすな!」
と、膨れ上がる白い煙の中へ怒鳴った。
新九郎は壁沿いに門へ走った。
どうやって歩いて来たかは覚えている。
――その先を右に曲がれば門だが、そう上手くは……
新九郎は横目で舌打ちした。
ーー行くわけないな。
鉄の大門はしっかりと閉じられていた。
新九郎はそのまま玄関前を突っ走り、更に左に曲がって走ると、大きな土蔵の横壁が見えた。
その前まで走ったところで、新九郎は話し声を耳にして立ち止まり、壁際に置かれていた大八車の影に身を潜めた。
――ここで足止めはまずいな。
土蔵の入り口前に、家士らしき中年の男がいて、何やら奉公人たちに指図をしていた。
「三日後には江戸に向けて送り出すからの。縮が湿気で駄目にならぬように、しっかりと梱包するのじゃぞ。特に、後から菓子も挟む故にな」
家士の言葉がはっきりと聞こえ、新九郎は胸を刺されたような衝撃を受けた。
江戸に送り出すと言うーー藩の特産品である縮をだ。
まさに、城戸流斎が不正に小物成を横領し、抜け売りしている証拠であろう。しかも、菓子を挟むと言っている。菓子とは、山吹色の菓子とも言い、黄金小判のことを指す。
売りさばく為の縮だけではなく、何故小判まで送るのか。これこそ、以前に大鳥順三郎が推測した通り、江戸にいて旗本となっている嫡男を通して幕閣に賄賂を送る為であろう。
ーーついに掴んだぞ、流斎様の不正の証拠を。
だが、新九郎は口を引き結んだ。
ーーいや、これだけでは駄目だ。その現場を押さえなければ。三日後か……何としてもここを脱出して……
と、忙しく考えていた時であった。
「貴様、何奴じゃ」
不意に右から声をかけられた。
はっとしてその方を向くと、驚いた顔をしている若い家士が立っていた。
新九郎は頭を下げて両手をついた。
城戸流斎は再び咳き込んでから、
「儂が城戸流斎である。そちのことはよく聞いておるぞ」
「よく……?」
新九郎は顔を上げた。
「うちの者どもに調べさせておる。一刀流の戸沢道場で常に席次上位を争っていたほどの剣の腕だけではなく、学問もできる非常に優秀な若者だそうだな」
流斎は、顎を撫でながら目を細めて新九郎を見た。
だが新九郎は苦笑して、
「買いかぶりでござります。それがし、常に己の非才を嘆いております」
「はっはっ……性も良いのう。謙遜にもほどがあるぞ。とにかく、そちが素晴らしい武士であるのはわかっておる。だが、一つ残念じゃの」
流斎が薄笑いを浮かべた。
「何でございましょう?」
「そちの父、新兵衛が昔にやった公金横領のことじゃ」
新九郎の眉がぴくと動いた。
「黒須家は上士格ではないとは言え、天正期より代々城戸家に仕えて来た家。その上、新兵衛がすぐに潔く自裁したので黒須家は存続を許されたが、家中では未だにそちを白い目で見る者がいるそうではないか」
「一部の者だけでございます。それがしは気にはしておりませぬ」
「ほう。だが、やはり新兵衛の件のせいで、そちの出世は難しいのではないか? 家禄も半分に減らされ、暮らしも苦しいであろう」
流斎はにやりとしながら言ったが、
「出世よりも忠義、己の暮らしよりも民の暮らし。それが武士の道と心得ております」
新九郎は即座に堂々と言い切った。
「ほ、言うではないか」
流斎は目を見開いて、扇子を畳についた。
「しかし、そちは次席家老の大鳥に目を掛けられているそうではないか。大鳥家は我が藩随一の名家であるが、あの順三郎自身がどうにもいかん。何かと筆頭家老の小田とぶつかり、藩政を混乱させておる」
新九郎は小首を傾げてから、
「恐れながら、大鳥さまは誰よりも殿に忠義篤く、誰よりも国と民のことを想い、より良き政をなさろうと懸命に働いております。それ故に、小田さまとぶつかることもあるのでしょう」
「ほほう、これはまた言うではないか」
流斎は再びにやりと笑うと、またゴホゴホと咳き込んでから、
「じゃが、あ奴は家老を務めるには才覚も器量も足りぬ。近いうちに失脚するのは目に見えておる。そうなった場合、大鳥に目を掛けられておるそちはもっと苦しくなるのはないか? 場合によっては、新兵衛の件を蒸し返されて黒須家は今度こそ取り潰されるかも知れぬぞ」
「その時は仕方ありませぬ、受け入れまする」
流斎はやや大仰に驚いた風を見せて、
「なんと……その覚悟は立派であるが、藩祖頼龍公以来の黒須家がもったいないではないか。そうなった時に備えて、何か手を打っておいても良いと思うがの」
新九郎は、真っ直ぐに流斎の目を見た。
「どういうことでござりましょうか」
流斎は顎を撫でて薄笑いをしながら、
「うむ、はっきりと言おうか。黒須よ、儂に味方せぬか?」
「流斎さまにお味方を……?」
新九郎は眉をしかめた。
「そうよ。今からでも儂に味方すれば、大鳥が失脚しても、そちと黒須家の無事は約束しよう」
「なるほど。それはわかりましたが、今一つ解せませぬ。大鳥さまから離れるとしても、ここで隠居同然の暮らしをなさっておられる流斎さまにお味方して何故そのような約束ができるのでしょうか?」
新九郎は、わざと何も知らぬようにとぼけて言った。
流斎は鼻で笑った。
「儂は一応政龍の後見人ぞ」
「…………」
「儂はな。常々、大鳥に近い人間、しかも優秀で若い者を味方につけたいと思っておった。そちはそれにぴったりじゃ。そちはそのまま大鳥一派の中におれば良い。大鳥の味方のふりをして、大鳥一派の情報を儂に知らせるのだ。そうして事が成った暁には、そちの父の罪を完全に無かったものとし、黒須家の加増はもちろんのこと、大きく取り立ててつかわそうぞ」
「事……流斎さまの言われる、"事"とは何でございましょうか?」
「今は言えぬ。いずれ自然とわかるであろう」
流斎は冷笑して扇子を開いた。
新九郎は、下を向いてしばし無言となった後、再び流斎を見た。
「先ほどからどうも話が通じていないと思っておりましたが、流斎さまは誤解をなさっておられるようです。それがしは大鳥さまのお味方をしているわけではございませぬ」
「何?」
「それがしは殿のお味方です。我が黒須家は、祖先が戦国期に城戸頼龍公に仕えて以来、代々、城戸家の殿に忠義を尽くして来ているのです。それがしも同様、常に殿に忠義を尽くし、民の為に働きたいと思っております。そして、大鳥さまは執政衆の中でも最も殿に忠義篤く、最も領民のことを考えて働いておられます。それ故に、それがしは大鳥さまのお手伝いをしているに過ぎませぬ」
流斎は、はっはっ、と高く笑った。
「面白い。詭弁を弄するのう」
「はて、どこが詭弁でございましょうか。」
新九郎が首を傾げて見せると、
「手伝い、すなわち味方ではないか」
「味方ではございませぬ。大鳥さまが正しい行いをしている故のお手伝いでございます」
「それが詭弁じゃと言うておる!」
低く鋭い声が響いた。
流斎の温和そうな顔に朱色が走り、垂れ気味の眦が吊り上がった。
流斎のその様子に、空気が凍り付いたようであった。
上段の間の脇に控えていた虎はもちろんのこと、左右に並んでいる家士、濃紺装束の者たちの間にも緊張が走ったように見えた。
新九郎は落ち着いて、丁寧に両手をついて頭を下げると、
「申し訳ございませぬが、流斎さまの申し出にはお応えできませぬ。帰らせていただきとうございます。それがしの刀をお返し願えませぬか」
「…………」
流斎は、上段から冷たい目を新九郎に向けて黙っていた。
その顔は、もはや温和な色など失せ、鬼のような表情に変わっていた。
返答など来るわけがない――新九郎は躊躇うことなく立ち上がった。
「今は無理ならば、後日取りに参ります。今日のところはこれにて失礼させていただきとうございます」
張りつめる緊張感で静かな中、新九郎は歩いて広間から出て行こうとした。
その背へ、再び鋭い声が飛んだ。
「いずれわかって後悔するぞ。この国の真の主が誰であるかを!」
新九郎はゆっくりと振り返った。
「それこそ詭弁でございましょう。この国の主は城戸備後守様でござります」
そしてまた歩き始めると、流斎は開いた扇子を口に当てて、くっくっと笑い、「虎よ」と呼びかけた。
虎は流斎を見て頷き、新九郎の背に低い声で言った。
「この屋敷で今の話まで聞いても我らの味方にならぬと言うのならば、生きて帰れるわけがなかろう」
同時に、多数の立ち上がる音、衣擦れと刃物の音が響いた。
それを背後に聞いた新九郎の額に汗が浮かんだ。腰に二刀は無い。
――一気に駆け抜ける!
踵を浮かせ足下を蹴ろうとした、その瞬間であった――
突如として、広間に耳をつんざく爆発音が響いた。同時に、白い煙が濛々と立ち込めた。
「何だ? 目が」
「ここに曲者だと?」
家士や濃紺装束の連中が驚愕と狼狽の声を上げた。
「殿をお守りせい!」
虎は流石であった。咄嗟に大声で叫ぶと、流斎の側に駆け寄った。
その流斎は刀を引き寄せて立ち上がったが、顔を青くしている。
突然起こった混乱。
新九郎も驚いたが、彼にとっては天の助けとしか思えぬ好機である。新九郎はすぐに庭に降りて履物を履くと、門の方へと庭を疾走した。
流斎の側に寄りながらもそれを見逃さなかった虎、
「梟、大蛇、奴を逃がすな!」
と、膨れ上がる白い煙の中へ怒鳴った。
新九郎は壁沿いに門へ走った。
どうやって歩いて来たかは覚えている。
――その先を右に曲がれば門だが、そう上手くは……
新九郎は横目で舌打ちした。
ーー行くわけないな。
鉄の大門はしっかりと閉じられていた。
新九郎はそのまま玄関前を突っ走り、更に左に曲がって走ると、大きな土蔵の横壁が見えた。
その前まで走ったところで、新九郎は話し声を耳にして立ち止まり、壁際に置かれていた大八車の影に身を潜めた。
――ここで足止めはまずいな。
土蔵の入り口前に、家士らしき中年の男がいて、何やら奉公人たちに指図をしていた。
「三日後には江戸に向けて送り出すからの。縮が湿気で駄目にならぬように、しっかりと梱包するのじゃぞ。特に、後から菓子も挟む故にな」
家士の言葉がはっきりと聞こえ、新九郎は胸を刺されたような衝撃を受けた。
江戸に送り出すと言うーー藩の特産品である縮をだ。
まさに、城戸流斎が不正に小物成を横領し、抜け売りしている証拠であろう。しかも、菓子を挟むと言っている。菓子とは、山吹色の菓子とも言い、黄金小判のことを指す。
売りさばく為の縮だけではなく、何故小判まで送るのか。これこそ、以前に大鳥順三郎が推測した通り、江戸にいて旗本となっている嫡男を通して幕閣に賄賂を送る為であろう。
ーーついに掴んだぞ、流斎様の不正の証拠を。
だが、新九郎は口を引き結んだ。
ーーいや、これだけでは駄目だ。その現場を押さえなければ。三日後か……何としてもここを脱出して……
と、忙しく考えていた時であった。
「貴様、何奴じゃ」
不意に右から声をかけられた。
はっとしてその方を向くと、驚いた顔をしている若い家士が立っていた。
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