葉桜よ、もう一度 【完結】

五月雨輝

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笑顔に

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 それから三日後の夜。
 早めの夕餉をすませた黒須新九郎は、縁側に立っていた。
 春の空気は暖かみを増しており、外に面した縁側に立っていても、そよぐ夜風は肌に心地よかった。
 そこを通りがかったりよが、

「いかがされましたか」

 と、穏やかな声をかけた。

「おりよか。いや、もうすっかり満開だと思ってな」

 新九郎はりよの顔を見てから、庭の隅の桜を眺めた。
 今日の空は曇りがちであるが、月はまだ雲間にのぞいている。月明りと屋敷の灯で、桜の花が薄っすらと光って見える。

「ええ。本当に」

 りよも新九郎の隣に並び、目を細めて桜を眺めた。

「うむ。昼の桜も良いが、やはり夜桜も良いものだ」
「ほんに、美しゅうございますね」
「りよの好きな葉桜まではまだだがな」

 新九郎はりよを見て笑った。

「あら、誤解です。私は満開の桜ももちろん好きでございますよ」

 りよは新九郎を見返して笑うと、すぐに何か気付いたように、

「旦那さま」
「うん?」
「旦那さまが笑うのを久方ぶりに見た気がします」
「なに? そうか?」
「ええ。近頃、難しいことを考えているような顔が多かったですから」

 りよが心配そうな顔をして言うと、新九郎は小首を傾げた。

「そう言われてみればそうかもしれん」
「ええ。もっとお笑いくださいませ」
「はは、おりよ、おかしなことを言うな」
「おかしなことだなんて。私は、旦那さまの笑った顔が好きなのでございます」

 りよもまた、微笑して言った。
 新九郎はどきりとして、狼狽して顔を触った。

「そ、そうか……はは……」

 すると、りよは自分の言葉が意味深に聞こえたことに気付いて顔を赤くした。

「あ、いえ、その、申し訳ございません。好きだなんて……私はただ……」
「いやいや、謝ることはない」

 新九郎がむしろ慌てて、ぎこちなく笑った。

 その時、不意に訪いを入れる声が玄関の方から聞こえた。

「こんな時刻に誰だ」

 新九郎が訝しんだ。

「出て参ります」

 りよが玄関へと向かうと、すぐに戻って来て、

「旦那さまにお客様でございます」
「客?」
「三人でございます。今井さま、三木さま、それともう一人は存じませぬ。身体の大きな、少しお年をめされたお方で、他のお二人と違って町人のような恰好でございます」

 りよが言うと、新九郎は直感して背を伸ばした。

 ――ご家老か。

「すぐ行く。失礼の無いように客間にお通しせよ。茶の準備も頼む」

 新九郎は言いつけると、自室に入ってわざわざ着替えた。
 袴をつけ、紋付の羽織を着て、客間に向かった。わずか六畳の客間には、今井一馬、三木辰之助、そして思った通りに家老大鳥順三郎がそこにいた。
 
 りよの言う通り、大鳥順三郎は鼠色の小袖に黒の羽織、頭巾と言う小さな商家の主のような服装をしていた。黒須家に来るまでに、恐らく元笹川組にいた家士たちにあちこちから見張らせていたであろうに、かなりの用心ぶりである。

 大鳥順三郎は、三人の中で真ん中にこそ座っていたが、下座にいた。
 新九郎は、客間に入るなり手をついて待たせたことを詫び、大鳥順三郎に上座へ座るように促した。

「いや、このような夜に突然訪ねてすまぬな」

 順三郎は位置を移りながら詫びた。

「いえ、ご家老にわざわざご足労いただき申し訳ございませぬ.。お申しつけくだされば某から出向きましたものを」
「いや、警戒はしているとは言え、我が屋敷は常に敵の目があるのでな。それに、今井と三木も一緒である故、お主の屋敷が最も良いと思ったのじゃ」

 その時、りよが茶を運んで来た。
 りよは、三人と新九郎の前に茶を置くと、軽く頭を下げて客間を出て行った。
 直後、「ほう」と、今井一馬がにやりと笑った。

「あの櫛、りよどのに贈ったのか」

 りよは、新九郎にもらった加賀の櫛を、腰帯の間に差していた。それがわずかにのぞいていたのを、一馬は目ざとく見つけたのだった。
 新九郎はびくっと身体を震わし、

「ああ、まあその……普段よくやってくれているのに……ろくな手当も出せてないからな」

 と、しどろもどろに答えた。

「ふうん」

 一馬はにやにやと新九郎を見た。三木田辰之助も、ふふっと笑った。

「それをいいことに手をつけただろう?」

 一馬は、続けて品の無いことを言った。

「そんなことするか! ご家老の前で何を言う」

 新九郎は身を乗り出して手で引っ叩く仕草をした。
 だが、大鳥順三郎は愉快そうに笑った。

「ははっ、お主らは面白いのう」
「いや、みっともないところをお見せしてしまいました。一馬、お前も謝れ」

 新九郎が真面目に頭を下げると、一馬はまだにやつきながらも、「申し訳ございませぬ」と、倣って頭を下げた。

「よせ、それぐらい構わぬ。むしろ、若くてうらやましいわ」
「はっ……」

 新九郎は手ぬぐいを取り出し、額に浮いた汗を拭いた。

「ちょうど座が温まって良かったわ。そこで早速じゃが、今日お主の家に来た理由じゃ」

 大鳥順三郎は表情を変え、咳払いをした。
 新九郎ら三人も背筋を正して順三郎の顔を見た。

「先日、新九郎と万次(韮沢万次)の報告を受けて、我が家の者を各地の山中に潜ませてみたのじゃが、その結果、いくつかの山中深い場所を通って甲法山の流斎様のお屋敷に物資の出入りがあるらしいことがわかった。あのような山中深い道を通っていたとは、道理でわからぬはずじゃわ」

 大鳥順三郎は険しい顔で言い、続けて、

「しかも、その手は更に込んでおる。これまでに、何度も不正の証拠をつかもうと密かに人を送っては逆に邪魔されて失敗して来たところに、延岡の銅山がある。その延岡山に、坑道や吹屋ではなく、もっと離れた人も入らぬような奥深くに、試しに元笹川組の我が家士を潜ませてみたところ、山師と見られる者が銅を運んで獣道を登って来たのを見た。だがその途中の山の中で、奴らは待っていた商家の番頭風の男にその荷を渡したのじゃ。その番頭風の男は、元々持って来ていた他の品々の中に銅を入れ、そのまま山を下りて甲法山麓の流斎様のお屋敷に入って行きおった」
「なんと」

 新九郎ら三人は同時に驚いた。

「来ていた着物からして、その番頭は若草町の商家、野村屋の者と見られる」

 大鳥家老が言うと、三人は等しく納得した。
 野村屋は若草町でも指折りの富商であるが、甲法山の城戸流斎邸の御用商人であることも知られていた。

 それ故に――

「野村屋の者が出入りすることには誰も疑問を抱かぬ。恐らくこれまでこう言う手口を使い、小物成の現物だけでなく、どこぞで売って銭に変えた物までも甲法山の屋敷に入れていたのであろう」
「なるほど……」
「これで儂の仮説が正しかったことがわかった。小田内膳が派閥を作って大きくしたのも、不正をして財を蓄えたのも、全て城戸流斎さまが仕組んだことじゃ。その全ては流斎さまが考え、実行役は内膳。何かあっても内膳が疑われ、流斎さまに疑惑の目が向けられることはない。また、内膳が疑われても不正収入は実際には甲法山に納められる為、内膳周辺からはその証拠が出ずに失脚することもない。よくできておるわ」
「…………」
「そして、全ては流斎さまが今の殿を追い落とし、自ら、或るいはそのご子息が藩主の座に就く為じゃ」
「密かに藩の危機が進んでおりましたな」

 今井一馬が顔を青くした。

「うむ。だがそれもここまでよ。ついに尻尾をつかんだからにはその首根っこまでも掴む」

 大鳥順三郎は大きな目をぎらぎらと光らせた。

「やはり一番良いのは現場で動かぬ証拠を押さえることじゃ。まず第一に、延岡山や鉢窪村のような小物成を不正に収めている現場、或いは商家が賂を納めている現場を捕らえる。次に、甲法山から江戸へ金が流れる現場を捕まえる。これで、流斎さまと内膳らの悪事の全てを白日の下にさらすことができるであろう」
「確かに」
「で、早速動こうと思う。報告によれば、近頃甲法山の屋敷は怪しい人の出入りが活発だとか。殿が帰国されたのを機に何かやるつもりなのかも知れん。それに、近頃我が屋敷を窺っている怪しい連中が多い。以前からもその気配はあったのだが、以前よりもその数が多く、しかも大胆に我が屋敷の中の様子を窺っておる。もしかすると、流斎さまや内膳らは、三中散の毒が我が屋敷にあることに感付いてそれを狙っているのかも知れん」

 三中散とは、飲み込んでから三日後に突然絶命する為、毒見役も役に立たないと言う、旧笹川組の伝説の毒薬である。

「それは大丈夫でございましょうか? 万が一三中散の毒が敵に渡ってしまったら殿は……」

 新九郎が不安げな顔をした。

「うむ。確実に機を見て殿に使うであろうな」
「それだけは何としても防がねばなりませんな。お屋敷の警備は問題ございませぬか?」

 三木辰之助が訊いた。その後に、変な咳をした。それに気付き、新九郎は辰之助の顔を見たのだが、以前よりも顔が痩せて色艶も悪く、具合が悪そうに見えた。

 ――何か別の病ではないのか?

 新九郎は咄嗟に思ったが、そのことを言える話の流れではななかった。
 大鳥順三郎が話を続けた。

「それよ。我が屋敷の家人どもは元笹川組の精鋭たち、心配はないと思うておるが、万が一のことを考えると油断はできん。それ故に我が家士たちは全て我が屋敷の警備に使うことにした。そこで、今日はお主たちに話をしに来たのじゃ。現場の証拠を押さえる役目は、お主たちに任せようと思っている」
「なるほど」
「やってくれるか? 他には馬廻り組の韮沢万次、木口半左エ門、勘定方の柴崎蔵人くらんどにも動いてもらうつもりじゃ」

 勘定方の柴崎蔵人、この男もすでに三十半ばであるが、新九郎らが修行した戸沢道場でかつて師範代を務めていたほどの達人であった。

「もちろん、お受けいたします」

 新九郎ら三人は異口同音に承諾した。

 順三郎は「よし」と頷くと、持って来た絵地図を畳の上に広げた。

「ここにある木谷村。この付近には漆樹が多く、精製された漆が小物成として納められているが、三日後がちょうどその漆を納める日じゃ。であるな、黒須?」

 順三郎は、郡方で小物成役を務めている新九郎に確かめた。

「はい。担当は橋本どのです」
「うむ、その橋本がまた完全に小田内膳派でな。木谷村の漆を納める日に、きっとその一部を密かに流斎さまのお屋敷にも入れるようにしているはずじゃ。その現場を押え、運搬している者を捕らえるのだ」
「なるほど」
「そこで、うちの元笹川組の家士たちと地図を見て予測を立てたのじゃが……木谷村から甲法山へ向かう場合、通常はこの木谷道を通る。だが、その間にあるこの白霧山の山中を通って行くと、ちょうど直接甲法山の裏に出られるのだ。しかもその距離も近い。密かに流斎さまのお屋敷に漆を入れるならば、恐らくその一行はこの白霧山を通るであろうと見た。そこで、お主たちにはこの白霧山に潜んでその不正の現場を取り押さえてもらいたい」

 と、大鳥順三郎は言い、更に何点か付け加えた。

「はっ、承知仕りました」

 三人はそれぞれ頭を下げて拝命した。

「よし、ではこの件はこれで終わりとして、三木と今井、先ほど伝えておいたように、儂は黒須に、ちと話がある故、すまぬが先に帰ってくれるか?」
「はい、では先に失礼仕ります」

 今井一馬と三木辰之助は、同時に座を立った。

「では新九郎、三日後にな」
「落ち合う場所はまた明日相談しよう」

 と、一馬と辰之助は言うと、客間を出て行った。

「お、おう。気をつけてな」

 新九郎は手を上げて見送った。

 襖が閉められ、二人だけになると、順三郎は茶を一口すすった。
 行灯の薄明かりに浮かぶ順三郎の顔は、それまで張りつめていた表情が和らいでいた。

「ご家老、それがしにお話とは? 何か特別な命でも?」

 新九郎は両膝の上に両手をつき、背筋を正した。

「ふふ、そのようなものではない。これまでとは違う話じゃ。楽にせい」

 順三郎は微笑すると、肩が凝ったのか、両肩をぐるりと回した後に、

「お主、今いくつになる?」
「二十一でございます」
「ふむ、もういい歳じゃ。嫁はまだもらわんのか?」

 順三郎は単刀直入に訊いた。
 新九郎はどきりとしてから、

「はっ、ご存じの通り、父の件があったせいか、そう言った話は一つも来ませぬ」

 と、きまり悪そうに苦笑した。

「やはりそのようなところか」

 順三郎は笑わずに真面目な顔で頷いてから、

「お主に話とはそのことじゃ。儂が仲立ちする故、嫁を貰わぬか?」
「私に」

 あまりに突然で意外な話に、新九郎は思わず固まって目を瞠った。
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