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クージン城外の戦い
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しかし、エレーナは困惑しながら目を丸くした。
「ええっ、無理よ。私、戦争なんてしたことないわ」
「俺の言う通りに動けば大丈夫だ。心配するな、副官もつける。ヴァレリー、誰かいるか?」
リューシスがヴァレリーを見ると、ヴァレリーは頷いて答えた。
「私の部下のマーサー・ムーロンと言う男をつけましょう。優秀な将です」
だが、エレーナは尚も戸惑いながら、
「じゃあその人が率いればいいじゃない」
「いや、君が将になるからこそいいんだ」
リューシスは強引にそう決めると、ヴァレリーたち、兵士達を見回して大声で言った。
「皆聞いてくれ。かつて伝説の覇王マンドゥー・ツァオは、ジンコウ城の戦いにおいて、わずか一万の軍勢で二十万の敵軍を打ち破ったことがある。マンドゥーは、一万の軍勢で背水の陣を敷き、ジンコウ城の二十万の軍勢を全て誘き出した上で、密かに別働隊をジンコウ城の背後に回り込ませて、手薄になった城に突入し、一気に占拠したのだ。今から、その作戦を行う」
すると、すぐにヴァレリーが顔を曇らせた。
「ジンコウ城の戦いは有名です。シーザーはすぐにそれに気付き、阻止されるのではないでしょうか?」
「だから、その作戦そのままは使わない。少し応用する」
リューシスは、皆に作戦を説明し始めた。
「まずネイマン、ヴァレリー。二人には集まってくれた市民らも含めた二千人の歩兵を預ける。それで正面から進軍し、ガルシャワ軍が攻撃して来たら、その攻撃を食い止め、引き止めながら、ジューハイの森まで徐々に後退して行ってくれ」
「おう、いつもの役目だな、任せてくれ」
「承知仕りました」
ネイマンは胸を叩き、ヴァレリーは手を合わせて頭を下げた。
「但し、敵は途中で新手を出して来て、側面背後を狙って来る可能性が高い。それに備え、あらかじめ精鋭の百人ずつを森の背後の左右に隠し、敵が側面背後を狙って回り込んで来たら、その百人を出してそれへぶつけろ」
「はっ」
ネイマンとヴァレリーは、早速百人ずつをガルシャワ軍から見えぬように背後の森に隠れさせた。
次にリューシスはエレーナを見た。
「そしてエレーナ。この背後のジューハイの森は、クージン城の北の方にまで広がっている。君は五百人の歩兵を率いて、ジューハイの森の中を密かに進んで北の方まで移動してくれ。その目的は、ネイマンとヴァレリーが敵を引き付けている間に、クージンの北に迂回し、北の城内から侵入、一気にクージン城を占拠することだ。ネイマンとヴァレリーらが敵を引き止めながらジューハイの森にまで後退したのを見たら、すぐに森の北から飛び出して真っ直ぐに北の城門に向かってくれ」
「できるかしら……」
エレーナの白い顔は不安を隠しきれていない。
「大丈夫だ。ああ、それと森の中を北に移動する際には、実際より多くの人数がいるように見せかける為、風を起こして木々を揺らしながら進んでくれ」
「ええ? 密かに移動するんじゃないの? そんなことしたら敵にばれちゃうし、北から回り込もうとするのもバレバレじゃない」
「いいんだよ。それも作戦のうちだ」
と言って、リューシスはにやりと笑い、更に作戦を説明した。
一方、ガルシャワ軍の方では――
シーザー・ラヴァンが、最後の第四大隊四千人を率いて城外に出て来ていた。
この第四大隊の構成は、歩兵一千人、騎兵三千人で、騎兵が主力である。
クージンのガルシャワ軍には、他に四千人ほどの兵がいるが、それらのうち二千人は、ちょうど近隣の村や集落を巡回したり、新たな砦の建設作業などに従事していて不在である。そして、残りの二千人はクージンの守備に当たらせていた。
シーザーは、リューシス、ヴァレリーら反乱軍の布陣を見ると、眉をしかめてクラース・シュタールに言った。
「何故追撃しない?」
「はっ。反乱軍は、あの通りジューハイの森を背にして不気味な静寂を保っております。敵にはリューシスパールがおります。きっと罠か伏兵があるものと思い、ラヴァン将軍の指示を仰ぐべく待っておりました」
「なるほどな……流石に貴公はわかっている。あれは確かに怪しい」
と、シーザーはクラース・シュタールを褒めた上で、目を鋭く光らせた。
「だが、あれは不自然なほどに怪しい。わざと、いかにも伏兵や罠があるように見せかけ、我々が容易に攻めかかれぬようにしているのだろう」
「あっ……」
「いかにリューシスパールとは言え、この突発戦では罠など準備できるわけがない。あれはハッタリだ。すぐに攻めるぞ」
「はっ」
「但し、動くのはまず第一大隊、第二大隊の六千だけだ。かかれっ」
と、シーザーは命令を下した。
号令一下、角笛と戦鼓が鳴り響き、ガルシャワ軍の六千人が、反乱軍に向かって進撃した。
それを見たリューシスは、心中で頷いた。
――やはり全軍で向かって来ないし、騎兵も動かさない。
そして、リューシスはネイマンとヴァレリーにも進軍を命じ、自身はまた五百の歩兵を率いて、ネイマンとヴァレリーらの陰に隠れてジューハイの森に入って行った。
ネイマンとヴァレリーは、それぞれ部隊を率いて前進する。
まず、両軍の弓矢や天法術が届く距離に入ると、互いに弓矢の撃ち合いから戦が始まった。
両軍から放たれる矢。
強い陽光を鏃が照り返し、無数の銀線となって上空を飛び交った。
しかし、数で勝るガルシャワ軍の矢が、徐々に反乱軍を押して行く。前線の兵士らが、一人また一人と胸甲の隙間を貫かれて倒れて行った。
それを見て、ネイマンとヴァレリーは徐々に軍を後退させた。
すると、第一大隊のクラース・シュタールと、第二大隊を率いるヘイロン・ワンは、好機と見て射撃を止めさせ、突撃を命じた。
しかしネイマンとヴァレリーらは、後退しながらも射撃を続けていた為、突進するガルシャワ軍の前線がバタバタと倒れて行く。
だが、好機と見ているガルシャワ兵らはそれにも怯まずに果敢に突っ込み、ついには反乱軍前線に肉薄して、それぞれ刀槍を煌かせて斬り込んだ。
たちまち砂塵が舞い上がり、怒号飛び交う白刃乱裏の接近戦となる。
千八百人対六千人。数の上では反乱軍の方が圧倒的に不利である。
しかしネイマンはここで本領を発揮し、最前線で縦横に大刀を振るって敵兵を圧倒、またヴァレリーも巧みな指揮能力を見せ、自在に兵を動かしてガルシャワ軍の攻撃を食い止めていた。
「ふむ。強いな。それに士気が異様に高い」
後方にあって戦況を見つめるシーザーは冷静な表情でつぶやくと、第四大隊の騎兵三千人のうち、一千人の投入を決めた。
「二手に分かれ、敵の両側面を突いて来い!」
騎兵一千人が、五百人ずつの二隊に分かれ、大地を鳴らして疾駆し始めた。
二つの騎兵隊は瞬く間に反乱軍の両側面に回り込み、そこから側面突撃を開始しようとした。
だがその時、背後の森の中に隠れていた反乱軍側の百人ずつが飛び出し、ガルシャワの騎兵隊目掛けて疾走した。タイミングとしては完璧で、側面突撃しようとしていたガルシャワ騎兵隊の横腹に、逆に側面攻撃を食らわせた。
騎兵らが次々と横転して行った。だが、それでも倒れたのは三分の一程で、すぐに残りの騎兵らが態勢を立て直し、ここでまた激しい乱戦となった。
それを見て、シーザーの側近であるファーレン・ヤンと言う武将が、眉をしかめた。
「あれだけの小勢で伏兵を使うとは……しかし将軍、何故残りの二千人も動かさなかったのですか? 動かせばあれほどの伏兵はすぐに叩き潰し、側面をつけたでしょうに。今からでもすぐに動かしましょう」
だがシーザーは首を横に振った。
「焦るな、あれを見ろ」
彼の碧玉の如き瞳は、戦場の背後に広がるジューハイの森を凝視していた。
森は、木々が大きく揺れていた。そこでは、エレーナが、天法術で風を起こしながら、五百人の兵を連れて北に移動しているのであった。
「あの木の揺れ方。微かに大地の揺れも感じる。恐らく一千人ほどの兵が隠れているに違いない。しかも、他にもまだ一部隊が潜んでいるのを感じる」
シーザーが言った。
「なるほど。しかし、木の揺れ方を見ると移動しているように見えますな」
「その通り。あの伏兵部隊の考えられる狙いは二つある。我らの別働隊騎兵が敵の側面をつこうと動いた時、あの伏兵がすかさず出て来て逆にその背後を襲う。最初に一千人の騎兵だけを動かしたのは、どう出て来るか探る為だ。だが、先程、あの伏兵は出て来なかった」
シーザーは鋭く瞳を光らせ、もう一つの仮説を述べた。
「となるともう一つだ。今、正面の反乱軍は、我々の攻撃を食い止めながら、徐々に後退して行っている。こうして我らの兵を誘き出し、食い止めている間に、あの一千人が森の中に隠れながら密かに北にまで迂回し、手薄になっている北の城門を一気に突破してクージン城を占拠する。恐らくこれが、リューシスパールの狙いだろう」
「ああっ、なるほど……」
ファーレンは顔色を変えた。
「これはかつて、覇王マンドゥー・ツァオがジンコウ城の戦いで使った作戦だ」
シーザーが言った時、ちょうど、ネイマンとヴァレリーらがジューハイの森にまで後退した。
それを見たエレーナは、森の北端から飛び出し、五百人の歩兵と共に北の城門に向かって駆けた。
シーザーが冷笑した。
「やはりな。だがそんな作戦がこの俺に通用すると思うなよ。騎兵二千人を残していたのはこの為だ」
シーザーは、待機させていた騎兵隊二千人に命令を下した。
「あそこから飛び出した一隊、恐らく北の城門に向かうはずだ。急ぎ向かい、捻りつぶして来い。そして殲滅させたら、すぐにまた戻って来て、今度はそのままあの敵の両側面をつけ」
シーザーの号令一下、黒装の騎兵隊二千人が満を持して出撃、黒い風となってエレーナの部隊目がけて疾駆した。
それを見て、エレーナにつけられた副官、マーサー・ムーロンがエレーナに言った。
「殿下の言った通りですな。さあ、森に戻りましょう」
「ええ」
エレーナは、緊張で強張った顔のまま頷くと、全部隊に森に引き返すように命じた。
――リューシスは、作戦説明の時に、更にこう言っていた――
「シーザーは、俺がジンコウ城の戦いの作戦を使うと気付くはずだ。そこで、エレーナの部隊が北の城門に向かったら、シーザーはすぐに騎兵隊を差し向けて来るだろう。そうしたら、エレーナらはすぐに森の中に引き返せ。動きにくい森の中では騎兵の攻撃力は半減してしまうので、普通であれば追うのをためらう。だが、騎兵隊の将は、エレーナを見たら女だと侮り、森の中まで追って来るはずだ。そのまま敵を森の中にまで引き込んで戦うんだ」
現代では女性将校は当たり前になったが、この時代、女性武将はまだ珍しかった。
「でも、動きにくいと言っても、数には大きな差があるでしょう? 大丈夫かしら」
「そこで君の天法術だ。存分に暴れろ。大丈夫だ、俺も後から行く」
リューシスは、エレーナを見て力強く言った。
「武運を祈る」
――信じるわよ、リューシス!
エレーナは、全部隊で木々の深い森の中に駆け戻った。
ガルシャワの騎兵隊二千人の将は、コニー・ビューラーと言う、純血ガルシャワ人の武将であった。
コニーは、エレーナを見ると嘲笑した。
「おう、奇襲部隊の将は女ではないか。しかも見たところ一千人ではなく五百人程度ではないか。一気に捻りつぶしてくれようぞ。追えっ!」
コニーは、全部隊でエレーナらを追いかけて森の中に突入した。
雑木の錯雑する森の中は、馬は全力で走ることができず、その機動力も攻撃力も半減する。
しかし、数の上で勝り、敵将も女性だと言う侮りがあるコニーは、構わずにエレーナの部隊を追いかけて森の奥へと入って行った。
「エレーナ様、そろそろ良い頃合いと存じます」
副官マーサーが、エレーナに言った。
エレーナは頷き、
「反転! かかれっ!」
と、勇ましく命令をした。
配下の兵士たちが一斉に振り返り、追って来るコニーの騎兵隊に向かって行った。
「ええっ、無理よ。私、戦争なんてしたことないわ」
「俺の言う通りに動けば大丈夫だ。心配するな、副官もつける。ヴァレリー、誰かいるか?」
リューシスがヴァレリーを見ると、ヴァレリーは頷いて答えた。
「私の部下のマーサー・ムーロンと言う男をつけましょう。優秀な将です」
だが、エレーナは尚も戸惑いながら、
「じゃあその人が率いればいいじゃない」
「いや、君が将になるからこそいいんだ」
リューシスは強引にそう決めると、ヴァレリーたち、兵士達を見回して大声で言った。
「皆聞いてくれ。かつて伝説の覇王マンドゥー・ツァオは、ジンコウ城の戦いにおいて、わずか一万の軍勢で二十万の敵軍を打ち破ったことがある。マンドゥーは、一万の軍勢で背水の陣を敷き、ジンコウ城の二十万の軍勢を全て誘き出した上で、密かに別働隊をジンコウ城の背後に回り込ませて、手薄になった城に突入し、一気に占拠したのだ。今から、その作戦を行う」
すると、すぐにヴァレリーが顔を曇らせた。
「ジンコウ城の戦いは有名です。シーザーはすぐにそれに気付き、阻止されるのではないでしょうか?」
「だから、その作戦そのままは使わない。少し応用する」
リューシスは、皆に作戦を説明し始めた。
「まずネイマン、ヴァレリー。二人には集まってくれた市民らも含めた二千人の歩兵を預ける。それで正面から進軍し、ガルシャワ軍が攻撃して来たら、その攻撃を食い止め、引き止めながら、ジューハイの森まで徐々に後退して行ってくれ」
「おう、いつもの役目だな、任せてくれ」
「承知仕りました」
ネイマンは胸を叩き、ヴァレリーは手を合わせて頭を下げた。
「但し、敵は途中で新手を出して来て、側面背後を狙って来る可能性が高い。それに備え、あらかじめ精鋭の百人ずつを森の背後の左右に隠し、敵が側面背後を狙って回り込んで来たら、その百人を出してそれへぶつけろ」
「はっ」
ネイマンとヴァレリーは、早速百人ずつをガルシャワ軍から見えぬように背後の森に隠れさせた。
次にリューシスはエレーナを見た。
「そしてエレーナ。この背後のジューハイの森は、クージン城の北の方にまで広がっている。君は五百人の歩兵を率いて、ジューハイの森の中を密かに進んで北の方まで移動してくれ。その目的は、ネイマンとヴァレリーが敵を引き付けている間に、クージンの北に迂回し、北の城内から侵入、一気にクージン城を占拠することだ。ネイマンとヴァレリーらが敵を引き止めながらジューハイの森にまで後退したのを見たら、すぐに森の北から飛び出して真っ直ぐに北の城門に向かってくれ」
「できるかしら……」
エレーナの白い顔は不安を隠しきれていない。
「大丈夫だ。ああ、それと森の中を北に移動する際には、実際より多くの人数がいるように見せかける為、風を起こして木々を揺らしながら進んでくれ」
「ええ? 密かに移動するんじゃないの? そんなことしたら敵にばれちゃうし、北から回り込もうとするのもバレバレじゃない」
「いいんだよ。それも作戦のうちだ」
と言って、リューシスはにやりと笑い、更に作戦を説明した。
一方、ガルシャワ軍の方では――
シーザー・ラヴァンが、最後の第四大隊四千人を率いて城外に出て来ていた。
この第四大隊の構成は、歩兵一千人、騎兵三千人で、騎兵が主力である。
クージンのガルシャワ軍には、他に四千人ほどの兵がいるが、それらのうち二千人は、ちょうど近隣の村や集落を巡回したり、新たな砦の建設作業などに従事していて不在である。そして、残りの二千人はクージンの守備に当たらせていた。
シーザーは、リューシス、ヴァレリーら反乱軍の布陣を見ると、眉をしかめてクラース・シュタールに言った。
「何故追撃しない?」
「はっ。反乱軍は、あの通りジューハイの森を背にして不気味な静寂を保っております。敵にはリューシスパールがおります。きっと罠か伏兵があるものと思い、ラヴァン将軍の指示を仰ぐべく待っておりました」
「なるほどな……流石に貴公はわかっている。あれは確かに怪しい」
と、シーザーはクラース・シュタールを褒めた上で、目を鋭く光らせた。
「だが、あれは不自然なほどに怪しい。わざと、いかにも伏兵や罠があるように見せかけ、我々が容易に攻めかかれぬようにしているのだろう」
「あっ……」
「いかにリューシスパールとは言え、この突発戦では罠など準備できるわけがない。あれはハッタリだ。すぐに攻めるぞ」
「はっ」
「但し、動くのはまず第一大隊、第二大隊の六千だけだ。かかれっ」
と、シーザーは命令を下した。
号令一下、角笛と戦鼓が鳴り響き、ガルシャワ軍の六千人が、反乱軍に向かって進撃した。
それを見たリューシスは、心中で頷いた。
――やはり全軍で向かって来ないし、騎兵も動かさない。
そして、リューシスはネイマンとヴァレリーにも進軍を命じ、自身はまた五百の歩兵を率いて、ネイマンとヴァレリーらの陰に隠れてジューハイの森に入って行った。
ネイマンとヴァレリーは、それぞれ部隊を率いて前進する。
まず、両軍の弓矢や天法術が届く距離に入ると、互いに弓矢の撃ち合いから戦が始まった。
両軍から放たれる矢。
強い陽光を鏃が照り返し、無数の銀線となって上空を飛び交った。
しかし、数で勝るガルシャワ軍の矢が、徐々に反乱軍を押して行く。前線の兵士らが、一人また一人と胸甲の隙間を貫かれて倒れて行った。
それを見て、ネイマンとヴァレリーは徐々に軍を後退させた。
すると、第一大隊のクラース・シュタールと、第二大隊を率いるヘイロン・ワンは、好機と見て射撃を止めさせ、突撃を命じた。
しかしネイマンとヴァレリーらは、後退しながらも射撃を続けていた為、突進するガルシャワ軍の前線がバタバタと倒れて行く。
だが、好機と見ているガルシャワ兵らはそれにも怯まずに果敢に突っ込み、ついには反乱軍前線に肉薄して、それぞれ刀槍を煌かせて斬り込んだ。
たちまち砂塵が舞い上がり、怒号飛び交う白刃乱裏の接近戦となる。
千八百人対六千人。数の上では反乱軍の方が圧倒的に不利である。
しかしネイマンはここで本領を発揮し、最前線で縦横に大刀を振るって敵兵を圧倒、またヴァレリーも巧みな指揮能力を見せ、自在に兵を動かしてガルシャワ軍の攻撃を食い止めていた。
「ふむ。強いな。それに士気が異様に高い」
後方にあって戦況を見つめるシーザーは冷静な表情でつぶやくと、第四大隊の騎兵三千人のうち、一千人の投入を決めた。
「二手に分かれ、敵の両側面を突いて来い!」
騎兵一千人が、五百人ずつの二隊に分かれ、大地を鳴らして疾駆し始めた。
二つの騎兵隊は瞬く間に反乱軍の両側面に回り込み、そこから側面突撃を開始しようとした。
だがその時、背後の森の中に隠れていた反乱軍側の百人ずつが飛び出し、ガルシャワの騎兵隊目掛けて疾走した。タイミングとしては完璧で、側面突撃しようとしていたガルシャワ騎兵隊の横腹に、逆に側面攻撃を食らわせた。
騎兵らが次々と横転して行った。だが、それでも倒れたのは三分の一程で、すぐに残りの騎兵らが態勢を立て直し、ここでまた激しい乱戦となった。
それを見て、シーザーの側近であるファーレン・ヤンと言う武将が、眉をしかめた。
「あれだけの小勢で伏兵を使うとは……しかし将軍、何故残りの二千人も動かさなかったのですか? 動かせばあれほどの伏兵はすぐに叩き潰し、側面をつけたでしょうに。今からでもすぐに動かしましょう」
だがシーザーは首を横に振った。
「焦るな、あれを見ろ」
彼の碧玉の如き瞳は、戦場の背後に広がるジューハイの森を凝視していた。
森は、木々が大きく揺れていた。そこでは、エレーナが、天法術で風を起こしながら、五百人の兵を連れて北に移動しているのであった。
「あの木の揺れ方。微かに大地の揺れも感じる。恐らく一千人ほどの兵が隠れているに違いない。しかも、他にもまだ一部隊が潜んでいるのを感じる」
シーザーが言った。
「なるほど。しかし、木の揺れ方を見ると移動しているように見えますな」
「その通り。あの伏兵部隊の考えられる狙いは二つある。我らの別働隊騎兵が敵の側面をつこうと動いた時、あの伏兵がすかさず出て来て逆にその背後を襲う。最初に一千人の騎兵だけを動かしたのは、どう出て来るか探る為だ。だが、先程、あの伏兵は出て来なかった」
シーザーは鋭く瞳を光らせ、もう一つの仮説を述べた。
「となるともう一つだ。今、正面の反乱軍は、我々の攻撃を食い止めながら、徐々に後退して行っている。こうして我らの兵を誘き出し、食い止めている間に、あの一千人が森の中に隠れながら密かに北にまで迂回し、手薄になっている北の城門を一気に突破してクージン城を占拠する。恐らくこれが、リューシスパールの狙いだろう」
「ああっ、なるほど……」
ファーレンは顔色を変えた。
「これはかつて、覇王マンドゥー・ツァオがジンコウ城の戦いで使った作戦だ」
シーザーが言った時、ちょうど、ネイマンとヴァレリーらがジューハイの森にまで後退した。
それを見たエレーナは、森の北端から飛び出し、五百人の歩兵と共に北の城門に向かって駆けた。
シーザーが冷笑した。
「やはりな。だがそんな作戦がこの俺に通用すると思うなよ。騎兵二千人を残していたのはこの為だ」
シーザーは、待機させていた騎兵隊二千人に命令を下した。
「あそこから飛び出した一隊、恐らく北の城門に向かうはずだ。急ぎ向かい、捻りつぶして来い。そして殲滅させたら、すぐにまた戻って来て、今度はそのままあの敵の両側面をつけ」
シーザーの号令一下、黒装の騎兵隊二千人が満を持して出撃、黒い風となってエレーナの部隊目がけて疾駆した。
それを見て、エレーナにつけられた副官、マーサー・ムーロンがエレーナに言った。
「殿下の言った通りですな。さあ、森に戻りましょう」
「ええ」
エレーナは、緊張で強張った顔のまま頷くと、全部隊に森に引き返すように命じた。
――リューシスは、作戦説明の時に、更にこう言っていた――
「シーザーは、俺がジンコウ城の戦いの作戦を使うと気付くはずだ。そこで、エレーナの部隊が北の城門に向かったら、シーザーはすぐに騎兵隊を差し向けて来るだろう。そうしたら、エレーナらはすぐに森の中に引き返せ。動きにくい森の中では騎兵の攻撃力は半減してしまうので、普通であれば追うのをためらう。だが、騎兵隊の将は、エレーナを見たら女だと侮り、森の中まで追って来るはずだ。そのまま敵を森の中にまで引き込んで戦うんだ」
現代では女性将校は当たり前になったが、この時代、女性武将はまだ珍しかった。
「でも、動きにくいと言っても、数には大きな差があるでしょう? 大丈夫かしら」
「そこで君の天法術だ。存分に暴れろ。大丈夫だ、俺も後から行く」
リューシスは、エレーナを見て力強く言った。
「武運を祈る」
――信じるわよ、リューシス!
エレーナは、全部隊で木々の深い森の中に駆け戻った。
ガルシャワの騎兵隊二千人の将は、コニー・ビューラーと言う、純血ガルシャワ人の武将であった。
コニーは、エレーナを見ると嘲笑した。
「おう、奇襲部隊の将は女ではないか。しかも見たところ一千人ではなく五百人程度ではないか。一気に捻りつぶしてくれようぞ。追えっ!」
コニーは、全部隊でエレーナらを追いかけて森の中に突入した。
雑木の錯雑する森の中は、馬は全力で走ることができず、その機動力も攻撃力も半減する。
しかし、数の上で勝り、敵将も女性だと言う侮りがあるコニーは、構わずにエレーナの部隊を追いかけて森の奥へと入って行った。
「エレーナ様、そろそろ良い頃合いと存じます」
副官マーサーが、エレーナに言った。
エレーナは頷き、
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正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
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