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とある廃墟ビルディングにて 〜天国と地獄編〜
第四話
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ビルの玄関は荒れ果てており、入り口を塞ぐように大きな板が設置されていた。ヨウコが慎重に板を脇に寄せると、狭い隙間が開いた。
「ここから入っていけそう」ヨウコがひと言呟く。
レイカは少し躊躇していたが、ヨウコの背中を押されるように、その隙間から中へ入っていった。
薄暗い室内に足を踏み入れると、二人の周りには廃棄された家具や電化製品が散乱していた。長年の時間が経過し、これらの人工物は次第に劣化し、歪な影を落としている。
玄関から先の廊下を歩むヨウコは、スマートフォンのライト機能を使って辺りを照らす。
天井を照らすと、石膏ボードが崩れ落ちて、むき出しになったコンクリートと配管やケーブルが見えた。誰もこの建物に手を入れていないことが窺えた。
人が離れ完全に廃墟になってから、かなりの時が経っているようだ。電気やガスなどのインフラは停止しており、ビルの中には当然人の気配はない。ところどころ破られた窓ガラスから、外の薄暗い光が差し込んでいる程度で、基本的に室内は暗闇に包まれている。
最近長雨が続いたためか、どこかで雨水がたまっているらしく、遠くに滴り落ちる水音が静寂の中に響いている。
「そ、そうだけど・・・やっぱヤバい気がして」レイカが不安げに言う。この廃墟ビルの中に足を踏み入れたことで、レイカの心は高まる不安感に支配されていた。
「もう入っちゃったんだから、スマホカメラで動画でも撮っておけば?」ヨウコは、レイカの不安を払拭しようと提案する。ヨウコの好奇心旺盛な性格からすれば、この探索を楽しむ機会を逃したくないのだ。
「動画?・・・痛った!何かの角に当たった!!」レイカは思わず叫び声を上げてしまう。暗闇の中で歩いていて、ガラクタの角に当たってしまったのだ。
「カメラの前にスマホのライトつけなよ。たぶん転がってるガラクタ、誰かが持ち込んだ廃棄物だよ。こういうのって、誰かひとりやると他大勢がゴミ置き場だと思い始めるんだよね」ヨウコは冷静に助言する。この廃墟には様々な廃棄物が散乱しており、気をつけて行動する必要があることを理解していた。
「うん・・・そうする」レイカが頷いて、ライトをつけながら慎重に進んでいく。ヨウコの言葉に従い、二人は足元に気をつけながら歩を進めた。
そして二人は、大きな空間が広がる廊下の先へと向かった。
「ここがテナント用スペースかな?三十畳くらいはあるかな」ヨウコがぐるりと見回しながら言った。この廃墟の中でも、比較的広々とした空間が広がっていることにヨウコは少し意外な様子だ。
「まえ親戚に会ったときついでに聞いたんだ。「村山台駅の駅のホームで電車待ってると正面に古い雑居ビルの廃墟あるんですけど叔母さん知ってます?」みたいな感じで」
「そうそう、このビル昔はかなり繁盛してたっていうか一階は花屋でね、廃墟になる前はうちの母も使ってたらしいよ」レイカは、この建物の過去の賑わいについて説明する。自分の母親も利用していたという話から、この場所に思い入れがあるようだ。
「そっかぁここ花屋さんだったんだ。いまじゃもう面影なしだね。他の階には会社とかオフィスみたいなのが入ってたのかな?」ヨウコもこのビルの歴史に興味が湧いてきたようだ。
「うん、確かにいろいろ入ってたみたいだよ。託児所とか企画会社とかPC関係とかって感じで聞いたことがあるけど、詳しいことは定かじゃないんだ」レイカが少し不安げに付け加えた。
人々の噂から、かつてこの廃墟ビルにはかつて様々な事業が集まっていたことがうかがえる。しかし、レイカ自身もその詳細については明確に知っているわけではないようだ。
「レイカやるじゃん!ちゃんと事前リサーチしてんたんだね」ヨウコは感心した様子で言った。
「いやちょっとヨウコ、あっち見てみてよ。廊下の突き当りの扉、あれってエレベーターじゃない?でも電気通ってないから動かないか」レイカが指差しながら言う。
ビルの奥まで進むと、大きな扉が見えてきた。それがエレベーターの入り口らしい。
「電気通ったとしてももう壊れて動かないよ。階段で行くよ」ヨウコが冷静に言う。
この廃墟の中では、エレベーターは期待できないことを理解している。
「うん...足元注意してね」レイカが少し不安げに付け加える。
二人は互いに照明を確認し合いながら、階段を慎重に上っていく。
二階へ続く階段も例外なく暗く、足元がおぼつかない。一歩ごとに気をつけて、段を上がっていく。
「本当に大丈夫なのかな...」スマホで足元を照らしながらレイカは思わず不安を漏らす。
果たして、五階のエレベーター入り口には、一体何が待っているのだろうか。
つづく
「ここから入っていけそう」ヨウコがひと言呟く。
レイカは少し躊躇していたが、ヨウコの背中を押されるように、その隙間から中へ入っていった。
薄暗い室内に足を踏み入れると、二人の周りには廃棄された家具や電化製品が散乱していた。長年の時間が経過し、これらの人工物は次第に劣化し、歪な影を落としている。
玄関から先の廊下を歩むヨウコは、スマートフォンのライト機能を使って辺りを照らす。
天井を照らすと、石膏ボードが崩れ落ちて、むき出しになったコンクリートと配管やケーブルが見えた。誰もこの建物に手を入れていないことが窺えた。
人が離れ完全に廃墟になってから、かなりの時が経っているようだ。電気やガスなどのインフラは停止しており、ビルの中には当然人の気配はない。ところどころ破られた窓ガラスから、外の薄暗い光が差し込んでいる程度で、基本的に室内は暗闇に包まれている。
最近長雨が続いたためか、どこかで雨水がたまっているらしく、遠くに滴り落ちる水音が静寂の中に響いている。
「そ、そうだけど・・・やっぱヤバい気がして」レイカが不安げに言う。この廃墟ビルの中に足を踏み入れたことで、レイカの心は高まる不安感に支配されていた。
「もう入っちゃったんだから、スマホカメラで動画でも撮っておけば?」ヨウコは、レイカの不安を払拭しようと提案する。ヨウコの好奇心旺盛な性格からすれば、この探索を楽しむ機会を逃したくないのだ。
「動画?・・・痛った!何かの角に当たった!!」レイカは思わず叫び声を上げてしまう。暗闇の中で歩いていて、ガラクタの角に当たってしまったのだ。
「カメラの前にスマホのライトつけなよ。たぶん転がってるガラクタ、誰かが持ち込んだ廃棄物だよ。こういうのって、誰かひとりやると他大勢がゴミ置き場だと思い始めるんだよね」ヨウコは冷静に助言する。この廃墟には様々な廃棄物が散乱しており、気をつけて行動する必要があることを理解していた。
「うん・・・そうする」レイカが頷いて、ライトをつけながら慎重に進んでいく。ヨウコの言葉に従い、二人は足元に気をつけながら歩を進めた。
そして二人は、大きな空間が広がる廊下の先へと向かった。
「ここがテナント用スペースかな?三十畳くらいはあるかな」ヨウコがぐるりと見回しながら言った。この廃墟の中でも、比較的広々とした空間が広がっていることにヨウコは少し意外な様子だ。
「まえ親戚に会ったときついでに聞いたんだ。「村山台駅の駅のホームで電車待ってると正面に古い雑居ビルの廃墟あるんですけど叔母さん知ってます?」みたいな感じで」
「そうそう、このビル昔はかなり繁盛してたっていうか一階は花屋でね、廃墟になる前はうちの母も使ってたらしいよ」レイカは、この建物の過去の賑わいについて説明する。自分の母親も利用していたという話から、この場所に思い入れがあるようだ。
「そっかぁここ花屋さんだったんだ。いまじゃもう面影なしだね。他の階には会社とかオフィスみたいなのが入ってたのかな?」ヨウコもこのビルの歴史に興味が湧いてきたようだ。
「うん、確かにいろいろ入ってたみたいだよ。託児所とか企画会社とかPC関係とかって感じで聞いたことがあるけど、詳しいことは定かじゃないんだ」レイカが少し不安げに付け加えた。
人々の噂から、かつてこの廃墟ビルにはかつて様々な事業が集まっていたことがうかがえる。しかし、レイカ自身もその詳細については明確に知っているわけではないようだ。
「レイカやるじゃん!ちゃんと事前リサーチしてんたんだね」ヨウコは感心した様子で言った。
「いやちょっとヨウコ、あっち見てみてよ。廊下の突き当りの扉、あれってエレベーターじゃない?でも電気通ってないから動かないか」レイカが指差しながら言う。
ビルの奥まで進むと、大きな扉が見えてきた。それがエレベーターの入り口らしい。
「電気通ったとしてももう壊れて動かないよ。階段で行くよ」ヨウコが冷静に言う。
この廃墟の中では、エレベーターは期待できないことを理解している。
「うん...足元注意してね」レイカが少し不安げに付け加える。
二人は互いに照明を確認し合いながら、階段を慎重に上っていく。
二階へ続く階段も例外なく暗く、足元がおぼつかない。一歩ごとに気をつけて、段を上がっていく。
「本当に大丈夫なのかな...」スマホで足元を照らしながらレイカは思わず不安を漏らす。
果たして、五階のエレベーター入り口には、一体何が待っているのだろうか。
つづく
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