怪奇短編集

木村 忠司

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とある廃墟ビルディングにて 〜天国と地獄編〜

第一話

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夕暮れ時の武蔵野の街は、ゆったりとした静けさに包まれていた。緑の木々が優しく寄り添うように立ち並び、周囲の小さな家々が落ち着いた雰囲気を醸し出していた。その中を、制服姿の二人の女子高生が、ゆったりと歩いていった。

彼女たちの足取りは軽やかで、学校から帰る途中の路上を吹き抜ける秋の風を感じながら、目的地の村山台駅に向かっていた。その途中で喫茶店の前で足を止めて振り返る。

「ねぇ、ここでお茶していかない?」とレイカが提案する。

「ええ、いいね。少し休んでいくか」とヨウコも同意し、二人は喫茶店の扉を開けて店内に入っていった。

店員に声をかけると、ヨウコは「紅茶を1つお願いします」と注文した。一方のレイカは「私はカフェラテがいいな」と注文する。

店内は落ち着いた雰囲気に包まれ、ゆったりとした時間が流れていた。二人は飲み物を受け取ると窓際の席に腰掛けた。窓の外を眺めながら二人はそれぞれ表情を緩めてリラックスした様子で紅茶をカフェラテを一口味わった。

「最近ドラマとか見てる?」とレイカが尋ねる。

「私はラブコメとか好きかな。なんか面白いのある?」とヨウコが答える。

「うん!ちょうど今あたしネトブリで見てんだけど、『恋するメンヘラキャンパス』っていうの知ってる?」レイカの目が輝いて、ドラマの話に夢中になっていく。


「うん!ちょうど今あたしネトブリで見てんだけど、『恋するメンヘラキャンパス』っていうの知ってる?主人公の富等井セイラちゃんが、大学のサークルの先輩に密かに恋をするの。セイラちゃんはちょっとメンヘラで夢見系のツンデレ気味なんだけど、自分の気持ちを伝えるのが苦手なのよ」とレイカが熱心に説明する。

「ああ、そうなんだ。で、先輩はどんな人なの?」とヨウコが聞き返す。

「先輩はイケメンで優しくて面白い人なんだけど、実は家族に何か秘密があるみたいなの」とレイカが続ける。

「家族の秘密?なにかしら?」ヨウコは好奇心を隠せない様子だ。

「ん~それはネタバレになっちゃうから教えられないんだけど、とっても気になるでしょ?自分で見てみてね♪」とレイカは意味深な表情を浮かべる。

「もう、教えてよ~!せめてヒントくらい教えてよ」とヨウコが懇願する。

「うーん、ヒントね...じゃあ、先輩の家族が"限界突破"してるっていうのはどうかな?」とレイカは少し悪戯っぽく答える。

「限界突破!?なにそれ!?なんか凄いことになってそうだね」とヨウコは興味津々の様子だ。

「ふふ、それ以上は言えないから自分で想像してみてね。新エピソードが今日更新されるから、見てみるといいわよ」とレイカは得意げに語りかける。

こうして二人の会話は次第にドラマの内容に深入りしていき、読者も物語の展開に引き込まれていくのがわかる。



「ところでさぁ今日の数学テストあったじゃん。ヨウコはどうだった?」とレイカが話題を変える。

「あ、それはまあまあだったかな。ヨウコは?」とレイカが尋ねる。

「私もそこそこ。でも多分一番採点が大きい素因数分解の問題はマジで難しかったよね。あんなクソ長いのなんか私多分一回死んで生まれ変わらない限り無理だよ」とヨウコが嘆きながら尋ねる。


「私も解けないって。でも何人か聞いたけどあの問題は誰も解けなかったらしいよ」とレイカが同情する。

「え、マジで?数学の岡田、共感性欠如でディヒカリティが狂ってるじゃん。ガチ生徒に嫌われるタイプだよ」ヨウコが苦々しく述べる。

「そうだね。でもその分採点は甘くしてくれんじゃないの?」とレイカが楽観的に応答する。

「あんたは楽観てか甘すぎるって。あいつ人の心がわからないサイコパスって感じじゃん」とヨウコは諦めた様子だ。

「それレイカ言い過ぎだって・・・・あっそういえばサイコパスで思い出した!村山台駅の近くにある廃墟ビルわかる?」とレイカが話題を変える。

「え、廃墟なんてあったっけ?」とヨウコは驚いた様子だ。

こうして二人の会話は数学の話から、徐々に村山台駅近くの廃墟の噂へと移っていく。

「うん、駅の近くにあるらしいの。最近ネットで話題になってるんだけど、そこに女の子の声が聞こえるっていう噂があるんだって」とレイカが説明し始める。

「女の子の声?そんなの本当なの?」とヨウコは不安そうな表情を浮かべる。

「確かに本当かどうかはわからないけど、動画とかも出回ってるらしいよ。怖い話だけど、ちょっと気になるんだよね」とレイカは興味津々の様子だ。



「村山台なんて毎日使ってる駅だよ。普通の駅だし近くにそんなのありえんて。廃墟とかになると、すぐ無責任な事言う奴いるんだわ」とヨウコ。

「いやいや駅じゃなくて廃墟に出るんよ。でね最近はその助けを呼ぶ声が録音されたり、動画に映ったりしてるんだって」とレイカが説明する。

「えーマジで?でもそれは怖いね・・・・でも、それって本当なの?結局音声加工とかしてんでしょ?」とヨウコが尋ねる。

「そういう疑いもあるけど、ネットに上がってるものを見ると、結構リアルなんだって。『殺人鬼に無残に殺された女の子の声が!!』・・・これとかさ」とレイカが動画の内容を説明する。

「 これって何?の動画?」とヨウコが聞く。

「うん。怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシー)っていう配信者なんだけど、日本全国にある廃墟探索とかオカルト調査とかやってるんだよ」とレイカが答える。

「そうんなんだ。で、このビルディングにもその人たち行ったの?」とヨウコが尋ねる。

「そうそう。そうなんだけど・・・・ちょっと待って・・・・・うーんと・・・・これ! この動画の後編を見てみて。夜中にビルディングに侵入して、中を探索してるんだけどさ・・・・」とレイカは動画を見せる。

「・・・・・・うわっ!ガチ廃墟じゃん。こんなところに入ったら私泣くかも」とヨウコは驚く。

「まぁそうなんだけど・・・・・の動画の5分20秒くらいからさ、奥の部屋から女の子の声が聞こえてくるんだよ」とレイカが説明する。

「 えっ、マジで?どれ?……ん!?・・・・確かに・・・・なんか言ってる!?」とヨウコは動画を注意深く見る。

「でしょ!めっちゃ怖いよね!しかもさ、その後にさぁ一番奥に見える非常階段のドアがバタンって閉まっちゃうんだよ」とレイカが説明する。

「それはやばい!逃げられなくなっちゃうじゃん!」とヨウコが心配そうに言う。

「そうなんだよ!最後に外から非常階段を登って確認にいくんだけどそこには誰もいなくてさ」とレイカが続ける。

「えー!?・・・・ってまあわかってんだけど、どうせそれ誰かがドアを思いっきり占めてるかCGいじってんでしょ?」とヨウコが疑念を示す。

「確かに実際はどうかわからないけどね。一応この動画は加工してないって言ってるんだよ。録音もそのままだって」とレイカが説明する。

「どこまで本当かしらんし、それに本当だったらやだし私は信じたくないな」とヨウコは不安そうに言う。

「あたしも信じたくないけどさ、これは本物だってもう一人のあたしが言ってるの!他にもここの廃ビルの動画、他の配信者もたくさん投稿してるみたいだし。この廃墟こんな近くにあるし見たくない?ね?」とレイカは興奮気味に誘う。

「レイカ・・・・あんたやばい目が怖いって。私は別にいいよ。でも間違ってそんな声実際に聞いちゃったりしたら、レイカが今晩寝られなくなっちゃうんじゃないの?」とヨウコはレイカに逆質問する。

「うーん・・・否定できんけど、ついついこの動画見ちゃうんだよね~オカルトって怖いけど面白いからさ♪」とレイカはまだ諦めきれないようだ。



おしゃべりを終えた彼女たち二人は、喫茶店を出て重々しい足取りで村山台駅の手前の交差点まで来ていた。

薄暗くなりつつある街灯の下、ひっそりと佇む駅前の風景は、どこか不気味に思える雰囲気に包まれている。目の前の四つ辻を直進すれば駅入り口だが、そこから少し右手に曲がって数十メートル歩けば北側の奥まった場所に噂の廃墟ビルディングが立っている。

ヨウコはその方向を見ながら、少し不安げな表情を浮かべた。
「あの建物、本当に行くの?」と小さな声で尋ねる。

レイカは少し強がって答える。
「大丈夫大丈夫。一緒に行くんだし、外から確認に行くだけだよ」

「それじゃせっかくだ、ちょっと見るだけ行ってみようか?」ヨウコが


「うん、こっちだよ」レイカがそう言って先導する。


二人は結局四ツ辻を駅に向かわずに、なにかの引力に引気寄せられるかのように右へ曲がって廃墟ビルの方へと足が向いたのだった。

二人の足音が響き渡る中、徐々に視界に入ってくるのは、先の方で歪な影を落とす廃墟ビルの影。その鈍い影は濃くまるで何かを呼び寄せるかのような不気味な何かを醸し出している。

ヨウコは内心恐怖を感じつつ、好奇心もわき上がってきている。一方レイカは、前々から噂を知って練り上げた恐怖のイメージ及び奇妙な羨望を投影させたその建物の方へ魅せられたような眼差しを向けている。

二人の心の中で、不安と恐怖、そして謎への探究心が入り乱れながら、その先に待つ廃墟の世界へと歩を進めた。




つづく
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