怪奇短編集

木村 忠司

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とある廃墟ビルディングにて 〜赤い目の女編〜

第四話

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ヨウコとレイカは逃げた。これまで走ったことのない猛ダッシュで階段を駆け下り、玄関に向かってまっしぐらに走った。しかし仮に金メダル級のスピードを発揮できたとしても赤い目の女を振り切ることは不可能だった。その動きは人間の物理的能力を凌駕していてなぜかどこに行っても先回されてしまうのだった。。

断続的に二人の悲鳴が無人の廃墟ビルディングに響き渡たった。

悲鳴に驚いたネズミが、ガラクタや残骸だけが転がるフロアを駆け抜ける。

最後に二人は追い詰められ誘導されるように再び最上階に辿り着いた。

赤い目の女は憎悪の火を灯したまま、ジリジリと二人を窓際へと追い詰めていった。

ちょうどそのとき、遠くから複数のサイレンの音が聞こえてきた。救急車と警察車両のサイレンがこちらへと近づいてくるのがわかる。

ヨウコが割れた窓から下を見下ろすと、付近の路上に数人の野次馬が集まり騒ぎ立てていた。かれらはこの廃墟ビルの上層を見上げていて、窓際の彼女たちの存在に気づいている者もいそうだ。

「誰か通報してくれたのかな?」呼吸を整えながら外の様子を見たレイカはヨウコは尋ねた。

「いや、警官が落ちたからじゃない?」


緊急車両のサイレン音が接近してくる中、かなた上空からは風を切り裂く回転音が聞こえてきた。誰が呼んだかヘリコプターまでやって来たらしく、その音もだんだんと近づいてくるのだった。

「ヘリコプター!?」

「もしかしてレスキューヘリかな?」

ヨウコがフロア内に視線を戻すとさっきいたはずの赤い目の女の姿はなく、目を話した二秒ほどの間に風のように消えていた。

二人は一緒に窓から身を乗り出し、ヘリコプターに向かって叫びながら手を振った。

「助けてーーー!!ここに居ます!!!」

ヘリコプターに搭乗していたベテランレスキュー隊員が二人の姿を見つけて無線で連絡する。
「こちらレスキューヘリ。最上階に女子高校生らしき少女が二名います。被疑者とされる人物の有無は不明。少女二人はロープで救助を試みる!」

一方、地上に到着した救急隊員のうち、二名が地面に落下した警官の元へ向かい、ほか三名はすみやかにフェンスをくぐりって廃墟ビル内部へと入っていった。 

「やっぱりあたしたちを助けに来てくれたんだ!」レイカは気分上がったみたいで叫んだ。

「うんでも・・・・あいつがまた・・・・」
そう言って不穏な表情のままヨウコは、最上階のフロアをぐるりと見て回ったがどこにも赤い目の女の姿はなかった。

レイカも階段の方へ用心深く近づいていって階下の方をそうっと覗いてみたが、誰かも上がってくる気配はなかった。

ほどなくして今度は、窓の外から複数誰かの悲鳴が聞こえてきた。


ヨウコとレイカはまた窓から外を見下ろしてみる。さらに野次馬はふえていて、そこにいる人だかりが円形の空白を作っていて、それはむき出しとなったアスファルトで赤い血だまりができていた。その中心で一人の横たわる救急隊員の白衣は血に染まっていた。

その様子を見ていたヨウコとレイカに再び戦慄が走った!

「マジでヤバイから!ここに来ちゃだめだって!!逃げて!!!」 ヨウコは外に向かってそう叫んでいた。

つぎの呼吸をする間もなく、さながら弾かれる大きなパチンコ玉のように、廃墟ビル4,5階辺りのフロアの窓からから生きよい良く何かが射出された。

それは初速189Kmの猛烈なスピードで飛んでいってあっという間に、向かいの加増しているオフィスビルの窓ガラスを突き破ってあっという間にその建物の中へと消えてしまった。内部から鈍い音が反響して、割れた窓ガラスが路上に破片を散らした。そこにいたやじうまの群衆は、蜘蛛の子を散らすように怒号を上げた。

「もう無理・・・・」
レイカはその様子にショックを受けて、へなへなその場に膝から崩れてしまった。


群衆の怒号が収まらないうちに、たて続けにもう一人はじき出された。まるでロケット人間コンテストかと思われる見事な速度でやはり四五階のフロアから発射された。

そのロケット人間は不運にも電信柱の上部に打ち付けられて鈍い音を発して、体は真ん中で二つ折りのあらぬ角度で曲がっていた。それだけで十分即死級だが、そのまま彼は頭を下にしながら自由落下してアスファルトの地面に打ち付けられ、割れた頭蓋の無情の音が路上に響き渡った。福音を欲するかのようなしばらくの沈黙を作った後に、その周りに残っていた人々から悲鳴が上がる。

「なに?なんなの?どうして?・・・」レイカはもはや正気を失いかけていて誰に言っているのかもわからないようなひとり言を繰り返していた。

「どうすればいい・・・・」ヨウコは角から地上を見下ろしながら呆然とつぶやいた。

「これって現実なの!?」レイカが半なきになりながらヨウコに尋ねた。

「わかんないけど、あいつ人間なの?幽霊なの?」ヨウコは外を見たままそう返した。

「わかんないよ!」半ギレしたレイカが思わずそう叫んだ。

そんな時、準備を終えたヘリコプターがビル屋上との距離を詰めてきた。

窓ガラス腰にも感じれられるその風圧を受けて我に返った少女二人は、呼びかけてくる大きな声に気づいた。

それは救助ヘリの拡声器からの声で
「屋上にあがれるか!?」
野太い男性のはっきりした声だった。


二人はその声にハッとして最上階であるこのフロアの周りをもう一度見回してみた。屋上に上がる階段はこれ以上ないが、四隅の一角に伸長式のハシゴが取り付かれていた。その真上の天井にハッチが付いている。ハッチは以前に心霊探索で来た誰かがこじ開けたのか、開けっ放しにされたままでそこから空が覗けた。

「レイカ立って!ワンチャン助かるかも!!」

「で、でも・・・・」

「ダメだよ!諦めないで!!行こうよ!!!」

「・・・・わたった!」

少女たちは姿はないが迫りくる存在をひたひたと感じながら総毛立つ気持ちを抑えつつ簡易ハシゴを登っていった。

そして屋上から身をのり出してみると、屋上の床のコンクリートは長年の風雨による経年劣化によって耐久性がおぼつかない感じだったが、もうためらっている暇はなかった。思い切った二人は屋上に飛び立たつとヘリコプターに向かっておもいきり手を振った。

「助けて!!!」とレイカ。

「ここにいるわ!!!」ヨウコも叫んだ。

とっくに日の入りの時刻は過ぎてしまっていて、落ちた太陽が地平にわずかな黄昏の余韻が残していたが、あたりはすっかり闇に包まれてしまっている。そんななか、近距離まで降りてきたヘリコプターのローターの回転する轟音および風圧が屋上全体を覆った。

スカートがめくり上がるのを抑える二人の前に、ヘリコプターからロープがするすると落ちてきた。そのロープの端には安全帯がついていて一人のレスキュー隊員が一緒に降下してきた。

着地した若い隊員は自分のロープを操作してヨウコとレイカに向き合った。なかなかのイケメンだ。
「落ち着いて聞いてほしい!ひとりずつ吊りあげていくから僕の指示に従ってください!!」


イケメンレスキュー隊員の後ろに赤い目の女が立っていた。


夜を闇をバックグラウンドに漆黒のワンピース姿の彼女の長い黒髪がヘリコプターの屋上に打ち付ける風によってまき上げられ、まるで彼女の怒りをを表明するがごとく激しく逆立ち蛇のように波打っていた。決して消えない憎悪の火をたぎらせた彼女の目は、怪しい赤い光を強めながら彼らを追い詰めていく。

つづく
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