怪奇短編集

木村 忠司

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とある廃墟ビルディングにて 〜赤い目の女編〜

第五話

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「やっぱりあいつ・・・・来ちゃったよ」 

「どうしてこんな酷いことを・・・・」

屋上に立つヨウコとレイカの視界の先に、再び赤い目の女が立っていた。

下のフロアの何処かが燃えているのか、灰色の煙が外壁を伝って上がってきた。

 その煙を吹き飛ばすようにレスキュー隊のヘリコプターが上空に滞空している。ベテランらしきパイロットは機体の姿勢を安定させる努力を続けながら、若いレスキュー隊員が吊るされたロープを伝ってするする降りてきて彼女たちの側に着地した。 

「君たち!もう大丈夫だ!ひとりずつ救出するから・・・・あれ?もう一人いたの!?君たちの連れなのか?」

「いや!違います!!この人は・・・・えーと・・・・」レイカは答えに窮した。

「ん?そ、その真っ赤な目はどうしたんです・・・・?」 レスキュー隊員がその女の目の異常に気づいて、神妙な声色で尋ねた。しかし赤い目の女からの答えはない。

「いいから早く逃げて!!」ヨウコはレスキュー隊員に懇願するように叫んだ。

「何を言ってるんだ!全員救出するつもりだ!だがちゃんと僕の指示に従ってほしい!一人ずつ釣り上げていくので、それじゃまず君から!、このベルトを装着して・・・・」


ヨウコの言葉の真意をよく解さないまま、レスキュー隊員は自分のベルトに装着した器具を操作してフックを手に取ると、まずは一人目の救出を図ろうしとした。

その刹那、赤い目の女の手が尋常でない早さで伸びたようにみえた。ロープをつかんだ女はレスキュー隊員を頭上を軽々と飛び越え、上空のヘリコプターへ向かって登っていった。


「え?」レスキュー隊員はあいた口が塞がらずにあんぐりと開いたまま上空を見つめた。

「ああ!!・・・」レイカは上空に向かって叫んだ。

「もうダメだ・・・・」その様子を見てなにかを諦めるようにヨウコがつぶやいた。

 赤い目の女はロープをつたってあっという間にヘリコプターの機体にたどり着くと、赤い光線の残像を残してその姿は機内へと消えた。

 すると次の瞬間、この世のあらゆる絶望の粋を集めたような名状し難い絶叫が火の粉舞う夜空に響き渡った。

 頭上を見上げていたレイカとヨウコは思わず目をつむった。次の瞬間生きてきた中で体験したことのない力積の波動が彼女たちの体を突き抜けていったのだった。

 ヘリコプターはその衝撃を受けてバランスを失ったのか、右へ左へと大きく旋回を始めた。そしてそのブレ方がだんだんと激しくなっていった。

 若いレスキュー隊員は、自分に繋がれたロープごと成す術なく強引に空中へ放り投げられてしまう。

 その動きはまるで振り子のようで、何度か往復した後の大きな戻しでビルの側面のコンクリートの外壁に激しくも無慈悲に打ち付けられてしまった。肉が強烈に激突する打撃音とほぼ同時に、レスキュー隊員の最期の短い悲鳴が聞こえてきた。


「こちらパイロット!!エンジンに異常が発生した!至急着陸を図る!!!」 

 コントロールを失いつつあるヘリコプターの機内では、ベテラン隊員が最後の通信を終えた後に、一旦は急上昇出来たものの、その甲斐なく揚力を失いながら、右斜め45度に機体を傾むけたまま墜落していった。

「うわああああ!!」

「ぎゃああああ!」

「グウォオオオン!!!!・・・・・ボボオオオオン!!!」

 ヘリコプターは隣のビルの屋上へ落下して激突した。その後の爆発および炎がビルを巻き込みながら上空に巻き上がった。

 爆風と共にヘリのローターの破片が、もし当たったならひとたまりもないスピードで、ヨウコとレイカのすぐ側をかすめるようにすり抜けていった。

地上の群衆からも悲鳴と怒号が沸き起こり、恐怖と悲劇に慄きながらその惨状を見上げていた。

 一方赤い目の女は・・・・いつの間にかレイカとヨウコの真後ろに立っていた。女の両の手が伸びて、二人を夫々の肩をつかんいた。肩に置かれた女の手は凍りついたように血の気を失っていて硬く冷たく強く指が鎖骨の凹みに食い混んでいた。二人の少女は恐ろしのあまり振り返ることも出来ずにその場に棒立ちになったまま身動出来なかった。絶望という意味を初めて知った彼女たちは何も出来きないまま、真向かいで燃え上がる火の手を見つめるしかなかった。

 ヘリが墜落したビルの屋の火の手は拡大していって周囲を黒煙が覆っていった。生存者を期待するにはあまりに絶望的な光景だった。火の粉は空を舞い地上の人の群れに雪のように舞い落ちて行った。

 それは地獄の花火大会の開幕だった。

 そのとき・・・・どこからか声が聞こえた。その声は物理の波動法則を無視して町中の何処にいても聞こえる声だった。

(《あなたたちも一緒に死んでくれるんでしょ?》)

 レイカとヨウコは思わず後ろを振り返った!・・・・がしかし、その声の主は背後で肩を掴んでいる赤い目の女の声ではなかった。

 それはもう一人の赤い目の女からの声だった。

そ蛇が脱皮を繰り返すように、元の赤い目の女から分離りして、赤い力を限界突破させた悪霊的な存在だった。空に浮く赤い目の女の悪霊は、その宿業の炎をたぎらせて、ビルの下にいる人々に向かって叫んだ

《死ねぇぇぇぇぇええええ!!!!》 

 その念を鼓膜を通さずダイレクトに受けた地上の群衆は、ざわめきたち蜘蛛の子を散らすようにパニックに陥った。

 赤い目の悪霊は手を上げて、まるで操り人形の意図を雨後ますかのように、ヘリコプターの漏れた燃料で燃え続けて巻き起こった火の粉を幾つか集めてそれを種火として増幅させていき、いつの間にかそれは大きな火炎の玉となっていた。


 手を振り下ろすと同時に火炎はさらに分裂クラスター化して赤い軌道を描きながら無数の人間を無差別に捕らえると、人間をまるでろうそくのように炎上させた。


 頭部が燃えた蝋燭人間たちは、悲鳴を上げながらその場に倒れのたうち回り己の無力を知りながら絶命した。助けようと衣服を掛ける者もいたが、それもあっけなく燃え上がってしまい逃げるしかなかった。

 またビルのヘリコプターの機体も黒い残骸となり、ビルの構造物は溶かされ、もろとも落下していって地上の人々に覆いかぶさった。


 それによって新たに生じた火の粉がまるで生き物のように蠢き廻り、次の餌食を自動追尾するようにして新たな場所で火の手となり、連鎖的な火事として拡大していきまたたく間に地域一面が火炎地獄の様相と化していった。

 群衆はなんとか生き延びようとして、燃やされ炭となりつつある犠牲者たちを踏みつけながら逃げまった。中には携帯電話を手にして緊急通報を試みる人間もいた。

 それはつまり緊急通報が局地的に村山台に増大することになって、武蔵野だけでなくその周辺の他の自治体への応援依頼が伝達されて、一斉にこの廃墟ビルへと急行する旨の指令が各警察消防署に下されることになった。 

「きゃああああ!」

「うわああああ!!!」

「なんてことだ!!!!!」

人々がそれぞに悲鳴を上げ逃げてゆく。


 中には火の手を回避して運良く逃げ切りを図る者もいる。

 宙に浮いていた赤い目の女の悪霊はそれを見て憤慨すると、もう一度自身の限界突破を図った。赤い目の女は再び分裂するとひとり増えて三人になっていた。

(《逃さない!逃さない!逃さない!逃さない!》)

(《逃さない!逃さない!逃さない!逃さない!》)

 二人の新たな悪霊たちはタッグを組むように左右両面から高らかに笑い叫びながら空を舞い、人の群れを追いかけた。

 ここまでうまく立ち回り生き残った人々はなんとか助けを求めようと、ちょうど到着したばかりの救助隊や緊急車両へすがり群がった。しかし救助に来た彼らも経験したことのない悪夢のような現実を受け止められず、成すすべがなかった。

 赤い目の女の悪霊ペアは、まず彼らをターゲットにした。悪霊は飛び回りながら制服姿の彼らを見つけては追いこみ、つかみ上げ、引きずり回し、次々に火災の中へ投げ入れ、手当たりしだい焼き殺した。

「もうやめて!ごめんだから・・・・」屋上にたつレイカは叫んでいた。

 一方ビルに立つオリジナルの赤い目の女は、地上の戦火を満足そうに見下ろしていた。まるで自分の兄弟姉妹が狩りか戦闘で、獣または憎むべき敵を圧倒的な力で制する様子を楽しんでいるかのように。

 人々の悲鳴と怒号が街中に終わることなくつぎつぎに響き渡る。至るところで逃げる者たちと、急行する緊急車両が鉢合わせになり行き場をなくしては焼き殺されていった。

 赤い目の女の悪霊ペアは徹底的に街自体をも焼き尽くそうとしているようだった。


「やっぱりあいつ・・・・来ちゃったよ」 

「どうしてこんな酷いことを・・・・」

屋上に立つヨウコとレイカの視界の先に、再び赤い目の女が立っていた。

下のフロアの何処かが燃えているのか、灰色の煙が外壁を伝って上がってきた。

 その煙を吹き飛ばすようにレスキュー隊のヘリコプターが上空に滞空している。ベテランらしきパイロットは機体の姿勢を安定させる努力を続けながら、若いレスキュー隊員が吊るされたロープを伝ってするする降りてきて彼女たちの側に着地した。 

「君たち!もう大丈夫だ!ひとりずつ救出するから・・・・あれ?もう一人いたの!?君たちの連れなのか?」

「いや!違います!!この人は・・・・えーと・・・・」レイカは答えに窮した。

「ん?そ、その真っ赤な目はどうしたんです・・・・?」 レスキュー隊員がその女の目の異常に気づいて、神妙な声色で尋ねた。しかし赤い目の女からの答えはない。

「いいから早く逃げて!!」ヨウコはレスキュー隊員に懇願するように叫んだ。

「何を言ってるんだ!全員救出するつもりだ!だがちゃんと僕の指示に従ってほしい!一人ずつ釣り上げていくので、それじゃまず君から!、このベルトを装着して・・・・」


ヨウコの言葉の真意をよく解さないまま、レスキュー隊員は自分のベルトに装着した器具を操作してフックを手に取ると、まずは一人目の救出を図ろうしとした。

その刹那、赤い目の女の手が尋常でない早さで伸びたようにみえた。ロープをつかんだ女はレスキュー隊員を頭上を軽々と飛び越え、上空のヘリコプターへ向かって登っていった。


「え?」レスキュー隊員はあいた口が塞がらずにあんぐりと開いたまま上空を見つめた。

「ああ!!・・・」レイカは上空に向かって叫んだ。

「もうダメだ・・・・」その様子を見てなにかを諦めるようにヨウコがつぶやいた。

 赤い目の女はロープをつたってあっという間にヘリコプターの機体にたどり着くと、赤い光線の残像を残してその姿は機内へと消えた。

 すると次の瞬間、この世のあらゆる絶望の粋を集めたような名状し難い絶叫が火の粉舞う夜空に響き渡った。

 頭上を見上げていたレイカとヨウコは思わず目をつむった。次の瞬間生きてきた中で体験したことのない力積の波動が彼女たちの体を突き抜けていったのだった。

 ヘリコプターはその衝撃を受けてバランスを失ったのか、右へ左へと大きく旋回を始めた。そしてそのブレ方がだんだんと激しくなっていった。

 若いレスキュー隊員は、自分に繋がれたロープごと成す術なく強引に空中へ放り投げられてしまう。

 その動きはまるで振り子のようで、何度か往復した後の大きな戻しでビルの側面のコンクリートの外壁に激しくも無慈悲に打ち付けられてしまった。肉が強烈に激突する打撃音とほぼ同時に、レスキュー隊員の最期の短い悲鳴が聞こえてきた。


「こちらパイロット!!エンジンに異常が発生した!至急着陸を図る!!!」 

 コントロールを失いつつあるヘリコプターの機内では、ベテラン隊員が最後の通信を終えた後に、一旦は急上昇出来たものの、その甲斐なく揚力を失いながら、右斜め45度に機体を傾むけたまま墜落していった。

「うわああああ!!」

「ぎゃああああ!」

「グウォオオオン!!!!・・・・・ボボオオオオン!!!」

 ヘリコプターは隣のビルの屋上へ落下して激突した。その後の爆発および炎がビルを巻き込みながら上空に巻き上がった。

 爆風と共にヘリのローターの破片が、もし当たったならひとたまりもないスピードで、ヨウコとレイカのすぐ側をかすめるようにすり抜けていった。

地上の群衆からも悲鳴と怒号が沸き起こり、恐怖と悲劇に慄きながらその惨状を見上げていた。

 一方赤い目の女は・・・・いつの間にかレイカとヨウコの真後ろに立っていた。女の両の手が伸びて、二人を夫々の肩をつかんいた。肩に置かれた女の手は凍りついたように血の気を失っていて硬く冷たく強く指が鎖骨の凹みに食い混んでいた。二人の少女は恐ろしのあまり振り返ることも出来ずにその場に棒立ちになったまま身動出来なかった。絶望という意味を初めて知った彼女たちは何も出来きないまま、真向かいで燃え上がる火の手を見つめるしかなかった。

 ヘリが墜落したビルの屋の火の手は拡大していって周囲を黒煙が覆っていった。生存者を期待するにはあまりに絶望的な光景だった。火の粉は空を舞い地上の人の群れに雪のように舞い落ちて行った。

 それは地獄の花火大会の開幕だった。

 そのとき・・・・どこからか声が聞こえた。その声は物理の波動法則を無視して町中の何処にいても聞こえる声だった。

(《あなたたちも一緒に死んでくれるんでしょ?》)

 レイカとヨウコは思わず後ろを振り返った!・・・・がしかし、その声の主は背後で肩を掴んでいる赤い目の女の声ではなかった。

 それはもう一人の赤い目の女からの声だった。

そ蛇が脱皮を繰り返すように、元の赤い目の女から分離りして、赤い力を限界突破させた悪霊的な存在だった。空に浮く赤い目の女の悪霊は、その宿業の炎をたぎらせて、ビルの下にいる人々に向かって叫んだ

《死ねぇぇぇぇぇええええ!!!!》 

 その念を鼓膜を通さずダイレクトに受けた地上の群衆は、ざわめきたち蜘蛛の子を散らすようにパニックに陥った。

 赤い目の悪霊は手を上げて、まるで操り人形の意図を雨後ますかのように、ヘリコプターの漏れた燃料で燃え続けて巻き起こった火の粉を幾つか集めてそれを種火として増幅させていき、いつの間にかそれは大きな火炎の玉となっていた。


 手を振り下ろすと同時に火炎はさらに分裂クラスター化して赤い軌道を描きながら無数の人間を無差別に捕らえると、人間をまるでろうそくのように炎上させた。


 頭部が燃えた蝋燭人間たちは、悲鳴を上げながらその場に倒れのたうち回り己の無力を知りながら絶命した。助けようと衣服を掛ける者もいたが、それもあっけなく燃え上がってしまい逃げるしかなかった。

 またビルのヘリコプターの機体も黒い残骸となり、ビルの構造物は溶かされ、もろとも落下していって地上の人々に覆いかぶさった。


 それによって新たに生じた火の粉がまるで生き物のように蠢き廻り、次の餌食を自動追尾するようにして新たな場所で火の手となり、連鎖的な火事として拡大していきまたたく間に地域一面が火炎地獄の様相と化していった。

 群衆はなんとか生き延びようとして、燃やされ炭となりつつある犠牲者たちを踏みつけながら逃げまった。中には携帯電話を手にして緊急通報を試みる人間もいた。

 それはつまり緊急通報が局地的に村山台に増大することになって、武蔵野だけでなくその周辺の他の自治体への応援依頼が伝達されて、一斉にこの廃墟ビルへと急行する旨の指令が各警察消防署に下されることになった。 

「きゃああああ!」

「うわああああ!!!」

「なんてことだ!!!!!」

人々がそれぞに悲鳴を上げ逃げてゆく。


 中には火の手を回避して運良く逃げ切りを図る者もいる。

 宙に浮いていた赤い目の女の悪霊はそれを見て憤慨すると、もう一度自身の限界突破を図った。赤い目の女は再び分裂するとひとり増えて三人になっていた。

(《逃さない!逃さない!逃さない!逃さない!》)

(《逃さない!逃さない!逃さない!逃さない!》)

 二人の新たな悪霊たちはタッグを組むように左右両面から高らかに笑い叫びながら空を舞い、人の群れを追いかけた。

 ここまでうまく立ち回り生き残った人々はなんとか助けを求めようと、ちょうど到着したばかりの救助隊や緊急車両へすがり群がった。しかし救助に来た彼らも経験したことのない悪夢のような現実を受け止められず、成すすべがなかった。

 赤い目の女の悪霊ペアは、まず彼らをターゲットにした。悪霊は飛び回りながら制服姿の彼らを見つけては追いこみ、つかみ上げ、引きずり回し、次々に火災の中へ投げ入れ、手当たりしだい焼き殺した。

「もうやめて!ごめんだから・・・・」屋上にたつレイカは叫んでいた。

 一方ビルに立つオリジナルの赤い目の女は、地上の戦火を満足そうに見下ろしていた。まるで自分の兄弟姉妹が狩りか戦闘で、獣または憎むべき敵を圧倒的な力で制する様子を楽しんでいるかのように。

 人々の悲鳴と怒号が街中に終わることなくつぎつぎに響き渡る。至るところで逃げる者たちと、急行する緊急車両が鉢合わせになり行き場をなくしては焼き殺されていった。

 赤い目の女の悪霊ペアは徹底的に街自体をも焼き尽くそうとしているようだった。



*********************************************************************************************
 彼女を埋め尽くしていたもの、それは人間が息づく限り生み出されるものだが何処か体外に排出するべき澱だ。しかし彼女は他人の澱も引き受け生きてしまった。その蓄積された多量の澱は彼女の死後も消えることなく空を漂っていた。

 彼女は自分の死をなかったことの様に無視する者たち、または自死した魂を愚弄する者達、不遇の死者たちをオカルトの名のもとに商業主義でそれをみて楽しむ愚か者たち、それらすべてを恨んだ。

 そしてなによりエンタメ感覚で勝手に廃墟に入りこんで肝試しを名目に勝手に自分たちを化物扱いする人間たちが憎かった。しかし死人に口なし。何も出来ない自分で自分を殺した自分さえも呪った。


・・・・彼女に何かが触れた。いやそれもそも前触れなど何もなかっただろう。ただ神が存在し(それが善か悪と問えば生けるものにとって間違いなく邪悪だろうが)この廃墟ビルで人知れず非業の死を遂げた彼女を見出し縁起の力によって彼女は復活した。

 最初彼女は自分に起きたことが理解できなかった。自分の手足をみて確かに地面の上で立っている自分に気がついた。まず自分が生まれた相克の家の灰色の記憶がよぎった。そして当然ながらそこに住んでいた家族の顔を思いだし、いつもなら自分を麻痺させ自分自身を無価値だと貶める感情の荒らし、恩讐の渦に飲まれる萎縮することは無かった。彼女はそれをとても不思議に思えたが続いて彼女は、自分を裏切った恋人や、インキャやメンヘラやコミュ障と冷笑もしくは無関心で無表情に過ぎてゆく記憶のなかの人々の面々が次つぎよみがえった。しかし彼女はそれらのなかの誰れひとりとしてもはや魂が囚われることなく、一人として例外なく、捨て燃やすことに何の感情も気力も必要ない無意味なゴミに思えた。

 これからやるべき事は、差別することなく全てのゴミは燃やすべきでそれが自分の復活した理由と理解した。

*********************************************************************************************


 空は不気味な雲に覆われ大気は荒れ狂い突風が吹いた。火の手は拡大し、生き延びていた人も行き場所をなくし焼かれていった。

 赤い目の女の悪霊はさらに次々分身を産んで、三番目、四番目の悪霊を産み、そのうち無数になり数えきれないほどの黒い影が宙を飛び回っていた。

 悪霊たちに焼かれて黒くなったビルの建材の残骸を破壊して、その巨大な塊を尋常ならざる力で空に放り投げて、

 渋滞する人々の集団に落として蟻の子のように潰して回った。

 鉄をも容易に溶かす超高温で熱せられたビル群は、雪崩を打つように次つぎ崩壊していき、屋内に残された人々は人知れずさながら人間肉挽き機のようなコンクリートと什器の狭間で潰されていった。外で逃げ惑う人々も、崩壊するコンクリートの雪崩によって天から地に落ちる黒い砂煙に飲み込まれ闇に吸い込まれ、その後巻き上がった人々の最後の悲鳴のような突風によって、新たな殺意の火の手が上がった。

 

 最初の赤い目の女はビルの屋上で、まるでその場所が特別席のように地上の業火を満足そうに観覧していた。 目の間に立っているヨウコとレイカの何の言葉も出ず怯えきった様子を見て、生まれてはじめて満たされるという気分を手にした気がした。

 そして彼女は二人の少女にこうつぶやいた。

《これは・・・・ただの・・・・始まり・・・・》 

おわり
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