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とある廃墟ビルディングにて 〜赤い目の女編〜
第一話
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都内西北に渡り広大な面積を占める武蔵野台地を新宿から奥多摩にかけて京武鉄道が走っている。その路線の真ん中付近に村山台という駅がある。
村山台駅は京武線沿線の他の駅の中に比べると、その周辺に観光スポットやランドマークが少ないかわりに閑静な住宅街の中に気軽に利用できるスーパーやクリニックが多く、住みたい場所にナンバーリングされる程ではないが住み安いと評判のエリアだ。急行なら新宿まで30分程で行けるので通勤通学に利用する人々のベッドタウンとしても人気が高く、多摩動物公園や国営昭和記念公園にもアクセスしやすすいため家族世帯にも人気がある。
静かな住宅街に佇む村山台駅。この地には、観光名所も目立った施設もない。しかし、その代わりに生活に必要な商店やクリニックが点在し、通勤・通学に便利な立地から、ゆったりと暮らせる人気の町となっていた。
京武線の急行なら、新宿まで30分ほど。多摩動物公園や昭和記念公園にもアクセスしやすい好立地ゆえ、ファミリー層にも評判の良い、まさに理想的なベッドタウンと呼べるのかもしれない。
そんな村山台の街を、二人の高校生が歩いていた。都立雛城高校の制服を纏う、ヨウコとレイカ。
いつものように、互いに近況を報告しながら、楽しげに会話を弾ませている。母の愚痴から、英語の試験の話題、そしてネットで話題のドラマの話まで、二人の話題は次々と移り変わっていく。
そんなおしゃべりの最中、ふと、メガネをかけたレイカが立ち止まった。そして、最近巷で囁かれている、ある噂話を切り出す。
村山台駅周辺の静かな住宅街。ここには、観光スポットやランドマークがそれほど多くないものの、生活に欠かせないスーパーやクリニックなどの施設が点在している、まさに"ベッドタウン"と呼ぶにふさわしい地域だ。
京武線の急行なら、新宿まで30分ほどで到着する利便性の高さから、通勤通学に便利な立地として人気を集めている。また、村山台駅から近接する多摩動物公園や国営昭和記念公園にもアクセスしやすいため、ファミリー層にも好評を博している。
そんな村山台の街を、二人の高校生が歩いていた。都立雛城高校の制服を身に纏うヨウコとレイカだ。
「そうそう、知ってる?村山台駅のそば、あの廃墟のビルなんだけど、心霊現象が起きるって噂なの」レイカが立ち止まり、そう切り出した。
「え? どこの話?」ヨウコが訊ねる。
「わかんないかな...少し離れてるけど、村山台駅のホームで電車待ってる時にも見えるよ。廃墟って目立つから、目が行くと思うんだけど」
「ああ・・・そういえば、夜になってもいつも電気がついていなくて真っ暗なままなあれね。たしかにあれって、昔からずっと廃墟だよね」
「そうそれそれ!」レイカが興奮気味に言う。
「そのビルがどうしたの?」ヨウコが尋ねる。
「うーん、人によっていろいろ話があるみたいなんだけど、たぶん一番有名なのが"赤い目の女"だと思う。夜中に誰もいないはずの廃墟の最上階で、赤い二つの光が見えるっていう話」
「それってさ、あれなんじゃない? 窓ガラスに反射したネオンの灯りとか、近くを通ったクルマのテールライトが偶然反射した光とか、勘違いじゃないの?」ヨウコは興味なさそうに冷ややかに指摘する。
「いや、一人じゃなくて多数の目撃談があるんだってば! 見間違いとかじゃないと思うよ」レイカが反論する。
「そういえば、その話、この前マユカが言ってたかも・・・赤い目がどうとか」
「なーんだ、もう知ってたの?」レイカが少し不機嫌そうに言う。
「レイカはどこから聞いたの?」ヨウコが尋ねる。
「私が聞いたのは、うちのお姉ちゃんの彼氏の友達が、その廃墟に行ったときに実際に中で、その赤い目の女らしい赤い二つの光を見たって」
「それって本人から聞いたの?」ヨウコが即座に疑問を呈する。
「え? いや・・・うーん、お姉ちゃんからの噂話だけど」レイカが少し困った様子になる。
「なーんか怪しいなぁ・・・でその二つの赤い光ってそもそも何なのよ? 変な感じ」
「噂によるとね、そのビルの屋上から飛び降りた女性がいたらしいの。十年くらい前の話らしいんだけど、ビルの管理会社の人がその死亡現場を見たらしくて・・・地面に倒れてた女の人は全身血まみれでグチャグチャだったんだけど、何よりも恐ろしかったのが、もう死んでるのに両目が大きく見開かれたまま真っ赤に染まっていたんだって」
「うーん・・・あの廃墟ビルって十階くらいの高さだよね。確かに飛び降りってあったのかもね」
「うんうん。それでその女性の飛び降り事件の後、しばらくしてから周辺で赤い目をした幽霊が出るって言われ始めたらしいの。ここからが怖い話なんだけど、一度でもその赤い目の幽霊と視線が合ってしまうと、もう終わり・・・その女の幽霊に憑り殺されるらしいよ」レイカは瞳孔を見開いて、ぎくりと身を震わせながら語った。
「それな。それってよくあるパターンの話だよ」ヨウコが冷めた口調で言う。
「あっ、ヨウコ! そういうこと言うの? あんま馬鹿にしてると、マジで祟られるよ! あの廃ビルは事故物件拡散サイトの青島テルミにも詳しく載ってるし、この噂って有名らしくて、叔母さんも知ってて「あそこはガチリアルな事故物件だから気をつけな」
「あの廃ビルは事故物件拡散サイトの青島テルミにも詳しく載ってるし、この噂って有名らしくて、叔母さんも知ってて「あそこはガチリアルな事故物件だから気をつけな」って言ってたからね」
レイカが強い口調で言う。
「"祟られる"とかって言うのは簡単だけど、それどうかって思うんだよね。青島テルミに載ってる事故物件って、ワードがキャッチーだけど、結局はPV稼ぎが目的なわけでしょ? 人の不安を煽って、巧みに心を操るのは、オカルトや似非スピリチュアルで食っている人たちの定番のやり口だよ」ヨウコが冷ややかに指摘する。
「なにそれ? ヨウコってアンチなの? なんか科学者みたいな言い方」レイカが不快そうに言う。
「レイカが簡単に信じ過ぎなんだよ。その投身自殺した女性って、新聞記事になったりしたの?」
「ニュースになったかどうかわからないけど、事故現場を目撃した人はいるよ。その当時、ビルの管理人をしていた男性が見たんだって。そして以来、毎晩悪い夢を見るようになったらしいの。夢の中で暗闇の中に二つの赤い光が出るんだって。一晩に何度も出て来てはうなされるうちに不眠症になってしまって困り果てた男性は、神社に行ってお祓いを受けたらしいの」
「お祓いっていうのもよくあるパターンだよ。本当に効くのかはわからないけど・・・」
「まぁ、最後まで聞いてよ。男性が訪れた神社の宮司さんは、赤い光の正体は自殺した無念の女性の地縛霊に間違いない、と言われたんだって。でもお祓いを受けたおかげで悪夢は終わったらしいけど、宮司さんが言うには「廃ビルが立っている場所がそもそも忘れられた忌み地で、赤い目の女の怨念もあまりに強すぎて祓うことは残念ながら不可能だ」って言ったらしくて・・・結局管理人の男性は、赤い目の女の怨念を恐れて、その仕事を辞めてしまったんだって」
「ちょっと待ってレイカ、冷静に考えてよ。まずひとつは、本当に自殺した女性がいたかも怪しいんじゃない? 十年前の自殺ってさ、あのビルが廃墟になったのって十年どころかもっとずっと昔じゃない? なのに十年前にビルの管理人がいてその自殺現場を見たってどういうこと?」
「そ、それは・・・」
レイカが戸惑うなかレイカが続きざまに尋ねる。
「ふたつ目は、メタ突っ込みになっちゃうけど、"取り憑かれる"とか"怨念"とか"お祓い"とかのワードがすべて、さっき言ったようにベタ過ぎるなんだよ。人を不安がらせる定番と言うか、どうしても胡散臭さが纏わりつくって言うか、話の向こう側にいる誰かの思惑が透けて見える気がする」ヨウコが冷ややかに指摘する。
「レイカが簡単に信じ過ぎなんだってば。例えばその投身自殺したって言われる女性の事件、新聞記事になったりしたの?」
「ニュースになったかどうか知らないけど、事故現場を目撃したビルの管理人の男性は、毎晩夢を見るようになったらしいの。毎日のように、洞窟のような暗闇の中で赤い二つの光を見るんだって...一晩に何度も悪夢を見てうなされるうちに不眠症になっちゃって、困り果てた男性は、ある神社に行ってお祓いを受けたらしいの」
「まぁ、事の真相はよくわからないけど、少なくともこの話には疑問点が多すぎるよね。まず、あのビルが廃墟になったのが十年前とは思えないし、管理人が自殺現場を目撃したって設定もおかしいと思う。そもそも、赤い目の幽霊とかいう典型的な心霊話の要素が多すぎるんじゃない?」
ヨウコは冷ややかに分析を続ける。
「でも、叔母さんも『ガチリアルな事故物件』って言ってたんだよ? 私も事故物件拡散サイトで見たことあるし、本当に怖いって聞いたよ」レイカが食い下がる。
「そうだね、事故物件サイトに載ってるってことは、何か事故があったのかもしれない。でも、そこから"赤い目の女"の話に飛躍するのはちょっと早すぎるんじゃないかな。地元の人の噂話だけじゃなくて、公的な情報も確認してみないと、真相はわからないよ」
「うーん、でも私はあの廃ビルって本当に怖いと思うんだよね。あの赤い光を見たら、本当に何か起こるんじゃないかって・・・・」レイカはすこし不安げな表情を浮かべた。
「まぁ、そこまで深く考えなくても大丈夫だと思うよ。もし本当に危険なら、警察とか立ち入り禁止にしたりするはずだし。それにそのビルの管理人が辞めたってのが本当だとしても、それだけで事故物件だって証明にはならないでしょ?」
「そ、そうかな・・・でも、やっぱり私は気になるよ。もし本当には虚ビルの中に赤い二つの光があったら、マジで怖くない?」
「確かに怖い話ではあるけど、パターンだから信じるのは早計だと思う」
ヨウコは一貫して冷静にアドバイスを続けた。レイカはそれに納得いかないものの、二人はしばらく歩きながら、その話題についてさらに議論を交わす。
「お祓いとか祟りとかの何処が胡散臭いの?」
ヨウコは冷ややかに問いかける。
「それじゃ例えば、事故物件に住んでいるYouTuberや芸人がいるでしょ?」
「うん」
「あれって逆に、祟りなんかないって証明しているようなものだよ」
「え? それどういう意味?」
「事故物件が怖いと感じるのは、そこで死んだ人の怨念とか生者への恨みとか想像するからでしょ?」
「まぁそんな感じかな?」
「それが普通の感覚だとわかるけど、わざわざ事故物件を選んで住むってのは、そこで死んだ人を別に怖いとも気の毒とも思っていないからできるんじゃない? むしろ、不遇な死者を利用した自分の売名やお金が目的なんじゃないの? そうなら、死んだ自分をダシにするような連中が第一候補に祟られるはずだよ。もし私が事故物件で死んだ怨霊だったら、間違いなくそんな芸人から最初に地獄に落とすわ!」
「怖いことを言うなぁ・・・もしかしてヨウコがもう取り憑かれてるとか? たしかに一理あるかもしれないけどぅ、霊感のない人が気づいていないだけで、怨念とか祟りってあると私は思うよ。確かに胡散臭いと言われればそうかもだけど、煙の立たないところに火が付かない、とか言うでしょ?」
「それわかるけど、レイカの頭がオカルト脳になってない? たしかに今は怪談ブームだからそういうの無理もないかもだけど」
「な、なに、その憐憫のような眼差し!
!やめて、そもそもヨウコのほうがこういう手の話が好きじゃん? いわゆるオカルト系の話ってよっぽど私なんかより詳しいじゃん? だから話してみたんだけどなぁ...」
「いや、ヒップホップはサンプリングっていう手法を使ってるんだけど、怪談も同じような感じで、過去に受けた怪談話をいくつか見繕って、筋や表現を継ぎ接ぎして新たに作ってるってことだよ。つまり魂のないプラスティックでできた綺麗な造花や合成樹脂みたいなものだって。人気があるからって即席的に怪談を作る業界人が増えてから、仕方ないんだろうけど、いまや"実話怪談"って言いながら、ホラ吹きデマボークみたいな話にも見境なく手を出して痛い目に遭っちゃう怪談師もいるらしいよ。あとAIで作ってんのに"実話"とか言ってる怪談師ならぬペテン師もいるとか...。だからレイカも、人から聞いた話を簡単に信じないほうがいいと思う」
「そんなこと言ってヨウコのほうこそ、怪談とかが好きなくせに。オタクっていうかほとんどマニアじゃん」
「もちろん、まともな怪談師もいるし、その人たちの話って芯を食ってむっちゃエグ刺さるのわかるよ。ただ、あたしはなんでもかんでも心霊とか信じてるわけじゃないんだ。あと、怪談って枠でくくってるわけじゃなくて、幽霊や死者が出てくる話って、物語として引き締まるんだよね。時々ガラスの天井を突き破ってエモさが限界突破するし」
「言ってることちょっとわかるけど、私はそのアラマタ先生?って何者か知らんし」
「アラマタ先生は隠居してあんま表に出ないからね。それは置いておいて、そもそもオカルトって言うのは、ラテン語で『秘められた』『隠された』って意味だから、真実や因果が判明しないからこそオカルトなんだよ。だから真相とか因縁とか、説明は必ずしも必要ないんだってこと。例えば、その廃墟のビルで自殺した幽霊で間違いないんだよ!って断言したら、もうすでに本質がオカルトじゃなくなるってわけ」
「なんでそんなこと知ってるの? 女子高生が普通知らないよ。てかあたし、難しい話は苦手だし。知ってるでし
「はいはいごめんごめん...あやまるって。まあレイカ、都市伝説とか噂話をそのまま真に受けたらいけないよ。それが知り合いから直接聞いたとしても、話半分に考えたほうがいいって結論だと思う」
そんな風に激論を交わした二人は、目的地付近まで来ていた。この四つ角を直進すれば駅入り口。または右に曲がれば、100メートルほどで噂の廃墟のビルディングがあるはずだ。
「せっかくだからさ、ちょっと近くで見てみない?」レイカがそこでヨウコに提案した。
「えっ、マジで? 今からいくの?」
「実物見てみるのもいいでしょ? ヨウコ、実際に見てどう思うか聞かせてよ? そのビルってこっからすぐ近くだよ。あっちに曲がった先にあるんだ」
「そういや小さい時にはもうあのビルが廃墟になってたけど、不気味というより変に不思議な存在感があったよね。なんかうーん...話に聞いて気になるっちゃ、たしかに気になる」
「でしょでしょ! 行ってみようよ。見に行くだけなら問題ないでしょ?」
少し戸惑いながらも、ヨウコはレイカの提案に乗ってしまう。きっと、この好奇心を抑えきれずにいたのだろう。
結局二人は、目に見えない何かに突き動かされたか、あるいは内から湧き上がる好奇心を抑えきれずに、駅に向かう道を外れ噂の廃墟ビルディングのある方角へと向かった。
つづく
村山台駅は京武線沿線の他の駅の中に比べると、その周辺に観光スポットやランドマークが少ないかわりに閑静な住宅街の中に気軽に利用できるスーパーやクリニックが多く、住みたい場所にナンバーリングされる程ではないが住み安いと評判のエリアだ。急行なら新宿まで30分程で行けるので通勤通学に利用する人々のベッドタウンとしても人気が高く、多摩動物公園や国営昭和記念公園にもアクセスしやすすいため家族世帯にも人気がある。
静かな住宅街に佇む村山台駅。この地には、観光名所も目立った施設もない。しかし、その代わりに生活に必要な商店やクリニックが点在し、通勤・通学に便利な立地から、ゆったりと暮らせる人気の町となっていた。
京武線の急行なら、新宿まで30分ほど。多摩動物公園や昭和記念公園にもアクセスしやすい好立地ゆえ、ファミリー層にも評判の良い、まさに理想的なベッドタウンと呼べるのかもしれない。
そんな村山台の街を、二人の高校生が歩いていた。都立雛城高校の制服を纏う、ヨウコとレイカ。
いつものように、互いに近況を報告しながら、楽しげに会話を弾ませている。母の愚痴から、英語の試験の話題、そしてネットで話題のドラマの話まで、二人の話題は次々と移り変わっていく。
そんなおしゃべりの最中、ふと、メガネをかけたレイカが立ち止まった。そして、最近巷で囁かれている、ある噂話を切り出す。
村山台駅周辺の静かな住宅街。ここには、観光スポットやランドマークがそれほど多くないものの、生活に欠かせないスーパーやクリニックなどの施設が点在している、まさに"ベッドタウン"と呼ぶにふさわしい地域だ。
京武線の急行なら、新宿まで30分ほどで到着する利便性の高さから、通勤通学に便利な立地として人気を集めている。また、村山台駅から近接する多摩動物公園や国営昭和記念公園にもアクセスしやすいため、ファミリー層にも好評を博している。
そんな村山台の街を、二人の高校生が歩いていた。都立雛城高校の制服を身に纏うヨウコとレイカだ。
「そうそう、知ってる?村山台駅のそば、あの廃墟のビルなんだけど、心霊現象が起きるって噂なの」レイカが立ち止まり、そう切り出した。
「え? どこの話?」ヨウコが訊ねる。
「わかんないかな...少し離れてるけど、村山台駅のホームで電車待ってる時にも見えるよ。廃墟って目立つから、目が行くと思うんだけど」
「ああ・・・そういえば、夜になってもいつも電気がついていなくて真っ暗なままなあれね。たしかにあれって、昔からずっと廃墟だよね」
「そうそれそれ!」レイカが興奮気味に言う。
「そのビルがどうしたの?」ヨウコが尋ねる。
「うーん、人によっていろいろ話があるみたいなんだけど、たぶん一番有名なのが"赤い目の女"だと思う。夜中に誰もいないはずの廃墟の最上階で、赤い二つの光が見えるっていう話」
「それってさ、あれなんじゃない? 窓ガラスに反射したネオンの灯りとか、近くを通ったクルマのテールライトが偶然反射した光とか、勘違いじゃないの?」ヨウコは興味なさそうに冷ややかに指摘する。
「いや、一人じゃなくて多数の目撃談があるんだってば! 見間違いとかじゃないと思うよ」レイカが反論する。
「そういえば、その話、この前マユカが言ってたかも・・・赤い目がどうとか」
「なーんだ、もう知ってたの?」レイカが少し不機嫌そうに言う。
「レイカはどこから聞いたの?」ヨウコが尋ねる。
「私が聞いたのは、うちのお姉ちゃんの彼氏の友達が、その廃墟に行ったときに実際に中で、その赤い目の女らしい赤い二つの光を見たって」
「それって本人から聞いたの?」ヨウコが即座に疑問を呈する。
「え? いや・・・うーん、お姉ちゃんからの噂話だけど」レイカが少し困った様子になる。
「なーんか怪しいなぁ・・・でその二つの赤い光ってそもそも何なのよ? 変な感じ」
「噂によるとね、そのビルの屋上から飛び降りた女性がいたらしいの。十年くらい前の話らしいんだけど、ビルの管理会社の人がその死亡現場を見たらしくて・・・地面に倒れてた女の人は全身血まみれでグチャグチャだったんだけど、何よりも恐ろしかったのが、もう死んでるのに両目が大きく見開かれたまま真っ赤に染まっていたんだって」
「うーん・・・あの廃墟ビルって十階くらいの高さだよね。確かに飛び降りってあったのかもね」
「うんうん。それでその女性の飛び降り事件の後、しばらくしてから周辺で赤い目をした幽霊が出るって言われ始めたらしいの。ここからが怖い話なんだけど、一度でもその赤い目の幽霊と視線が合ってしまうと、もう終わり・・・その女の幽霊に憑り殺されるらしいよ」レイカは瞳孔を見開いて、ぎくりと身を震わせながら語った。
「それな。それってよくあるパターンの話だよ」ヨウコが冷めた口調で言う。
「あっ、ヨウコ! そういうこと言うの? あんま馬鹿にしてると、マジで祟られるよ! あの廃ビルは事故物件拡散サイトの青島テルミにも詳しく載ってるし、この噂って有名らしくて、叔母さんも知ってて「あそこはガチリアルな事故物件だから気をつけな」
「あの廃ビルは事故物件拡散サイトの青島テルミにも詳しく載ってるし、この噂って有名らしくて、叔母さんも知ってて「あそこはガチリアルな事故物件だから気をつけな」って言ってたからね」
レイカが強い口調で言う。
「"祟られる"とかって言うのは簡単だけど、それどうかって思うんだよね。青島テルミに載ってる事故物件って、ワードがキャッチーだけど、結局はPV稼ぎが目的なわけでしょ? 人の不安を煽って、巧みに心を操るのは、オカルトや似非スピリチュアルで食っている人たちの定番のやり口だよ」ヨウコが冷ややかに指摘する。
「なにそれ? ヨウコってアンチなの? なんか科学者みたいな言い方」レイカが不快そうに言う。
「レイカが簡単に信じ過ぎなんだよ。その投身自殺した女性って、新聞記事になったりしたの?」
「ニュースになったかどうかわからないけど、事故現場を目撃した人はいるよ。その当時、ビルの管理人をしていた男性が見たんだって。そして以来、毎晩悪い夢を見るようになったらしいの。夢の中で暗闇の中に二つの赤い光が出るんだって。一晩に何度も出て来てはうなされるうちに不眠症になってしまって困り果てた男性は、神社に行ってお祓いを受けたらしいの」
「お祓いっていうのもよくあるパターンだよ。本当に効くのかはわからないけど・・・」
「まぁ、最後まで聞いてよ。男性が訪れた神社の宮司さんは、赤い光の正体は自殺した無念の女性の地縛霊に間違いない、と言われたんだって。でもお祓いを受けたおかげで悪夢は終わったらしいけど、宮司さんが言うには「廃ビルが立っている場所がそもそも忘れられた忌み地で、赤い目の女の怨念もあまりに強すぎて祓うことは残念ながら不可能だ」って言ったらしくて・・・結局管理人の男性は、赤い目の女の怨念を恐れて、その仕事を辞めてしまったんだって」
「ちょっと待ってレイカ、冷静に考えてよ。まずひとつは、本当に自殺した女性がいたかも怪しいんじゃない? 十年前の自殺ってさ、あのビルが廃墟になったのって十年どころかもっとずっと昔じゃない? なのに十年前にビルの管理人がいてその自殺現場を見たってどういうこと?」
「そ、それは・・・」
レイカが戸惑うなかレイカが続きざまに尋ねる。
「ふたつ目は、メタ突っ込みになっちゃうけど、"取り憑かれる"とか"怨念"とか"お祓い"とかのワードがすべて、さっき言ったようにベタ過ぎるなんだよ。人を不安がらせる定番と言うか、どうしても胡散臭さが纏わりつくって言うか、話の向こう側にいる誰かの思惑が透けて見える気がする」ヨウコが冷ややかに指摘する。
「レイカが簡単に信じ過ぎなんだってば。例えばその投身自殺したって言われる女性の事件、新聞記事になったりしたの?」
「ニュースになったかどうか知らないけど、事故現場を目撃したビルの管理人の男性は、毎晩夢を見るようになったらしいの。毎日のように、洞窟のような暗闇の中で赤い二つの光を見るんだって...一晩に何度も悪夢を見てうなされるうちに不眠症になっちゃって、困り果てた男性は、ある神社に行ってお祓いを受けたらしいの」
「まぁ、事の真相はよくわからないけど、少なくともこの話には疑問点が多すぎるよね。まず、あのビルが廃墟になったのが十年前とは思えないし、管理人が自殺現場を目撃したって設定もおかしいと思う。そもそも、赤い目の幽霊とかいう典型的な心霊話の要素が多すぎるんじゃない?」
ヨウコは冷ややかに分析を続ける。
「でも、叔母さんも『ガチリアルな事故物件』って言ってたんだよ? 私も事故物件拡散サイトで見たことあるし、本当に怖いって聞いたよ」レイカが食い下がる。
「そうだね、事故物件サイトに載ってるってことは、何か事故があったのかもしれない。でも、そこから"赤い目の女"の話に飛躍するのはちょっと早すぎるんじゃないかな。地元の人の噂話だけじゃなくて、公的な情報も確認してみないと、真相はわからないよ」
「うーん、でも私はあの廃ビルって本当に怖いと思うんだよね。あの赤い光を見たら、本当に何か起こるんじゃないかって・・・・」レイカはすこし不安げな表情を浮かべた。
「まぁ、そこまで深く考えなくても大丈夫だと思うよ。もし本当に危険なら、警察とか立ち入り禁止にしたりするはずだし。それにそのビルの管理人が辞めたってのが本当だとしても、それだけで事故物件だって証明にはならないでしょ?」
「そ、そうかな・・・でも、やっぱり私は気になるよ。もし本当には虚ビルの中に赤い二つの光があったら、マジで怖くない?」
「確かに怖い話ではあるけど、パターンだから信じるのは早計だと思う」
ヨウコは一貫して冷静にアドバイスを続けた。レイカはそれに納得いかないものの、二人はしばらく歩きながら、その話題についてさらに議論を交わす。
「お祓いとか祟りとかの何処が胡散臭いの?」
ヨウコは冷ややかに問いかける。
「それじゃ例えば、事故物件に住んでいるYouTuberや芸人がいるでしょ?」
「うん」
「あれって逆に、祟りなんかないって証明しているようなものだよ」
「え? それどういう意味?」
「事故物件が怖いと感じるのは、そこで死んだ人の怨念とか生者への恨みとか想像するからでしょ?」
「まぁそんな感じかな?」
「それが普通の感覚だとわかるけど、わざわざ事故物件を選んで住むってのは、そこで死んだ人を別に怖いとも気の毒とも思っていないからできるんじゃない? むしろ、不遇な死者を利用した自分の売名やお金が目的なんじゃないの? そうなら、死んだ自分をダシにするような連中が第一候補に祟られるはずだよ。もし私が事故物件で死んだ怨霊だったら、間違いなくそんな芸人から最初に地獄に落とすわ!」
「怖いことを言うなぁ・・・もしかしてヨウコがもう取り憑かれてるとか? たしかに一理あるかもしれないけどぅ、霊感のない人が気づいていないだけで、怨念とか祟りってあると私は思うよ。確かに胡散臭いと言われればそうかもだけど、煙の立たないところに火が付かない、とか言うでしょ?」
「それわかるけど、レイカの頭がオカルト脳になってない? たしかに今は怪談ブームだからそういうの無理もないかもだけど」
「な、なに、その憐憫のような眼差し!
!やめて、そもそもヨウコのほうがこういう手の話が好きじゃん? いわゆるオカルト系の話ってよっぽど私なんかより詳しいじゃん? だから話してみたんだけどなぁ...」
「いや、ヒップホップはサンプリングっていう手法を使ってるんだけど、怪談も同じような感じで、過去に受けた怪談話をいくつか見繕って、筋や表現を継ぎ接ぎして新たに作ってるってことだよ。つまり魂のないプラスティックでできた綺麗な造花や合成樹脂みたいなものだって。人気があるからって即席的に怪談を作る業界人が増えてから、仕方ないんだろうけど、いまや"実話怪談"って言いながら、ホラ吹きデマボークみたいな話にも見境なく手を出して痛い目に遭っちゃう怪談師もいるらしいよ。あとAIで作ってんのに"実話"とか言ってる怪談師ならぬペテン師もいるとか...。だからレイカも、人から聞いた話を簡単に信じないほうがいいと思う」
「そんなこと言ってヨウコのほうこそ、怪談とかが好きなくせに。オタクっていうかほとんどマニアじゃん」
「もちろん、まともな怪談師もいるし、その人たちの話って芯を食ってむっちゃエグ刺さるのわかるよ。ただ、あたしはなんでもかんでも心霊とか信じてるわけじゃないんだ。あと、怪談って枠でくくってるわけじゃなくて、幽霊や死者が出てくる話って、物語として引き締まるんだよね。時々ガラスの天井を突き破ってエモさが限界突破するし」
「言ってることちょっとわかるけど、私はそのアラマタ先生?って何者か知らんし」
「アラマタ先生は隠居してあんま表に出ないからね。それは置いておいて、そもそもオカルトって言うのは、ラテン語で『秘められた』『隠された』って意味だから、真実や因果が判明しないからこそオカルトなんだよ。だから真相とか因縁とか、説明は必ずしも必要ないんだってこと。例えば、その廃墟のビルで自殺した幽霊で間違いないんだよ!って断言したら、もうすでに本質がオカルトじゃなくなるってわけ」
「なんでそんなこと知ってるの? 女子高生が普通知らないよ。てかあたし、難しい話は苦手だし。知ってるでし
「はいはいごめんごめん...あやまるって。まあレイカ、都市伝説とか噂話をそのまま真に受けたらいけないよ。それが知り合いから直接聞いたとしても、話半分に考えたほうがいいって結論だと思う」
そんな風に激論を交わした二人は、目的地付近まで来ていた。この四つ角を直進すれば駅入り口。または右に曲がれば、100メートルほどで噂の廃墟のビルディングがあるはずだ。
「せっかくだからさ、ちょっと近くで見てみない?」レイカがそこでヨウコに提案した。
「えっ、マジで? 今からいくの?」
「実物見てみるのもいいでしょ? ヨウコ、実際に見てどう思うか聞かせてよ? そのビルってこっからすぐ近くだよ。あっちに曲がった先にあるんだ」
「そういや小さい時にはもうあのビルが廃墟になってたけど、不気味というより変に不思議な存在感があったよね。なんかうーん...話に聞いて気になるっちゃ、たしかに気になる」
「でしょでしょ! 行ってみようよ。見に行くだけなら問題ないでしょ?」
少し戸惑いながらも、ヨウコはレイカの提案に乗ってしまう。きっと、この好奇心を抑えきれずにいたのだろう。
結局二人は、目に見えない何かに突き動かされたか、あるいは内から湧き上がる好奇心を抑えきれずに、駅に向かう道を外れ噂の廃墟ビルディングのある方角へと向かった。
つづく
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