怪奇短編集

学校の七不思議

トレイの花子さん

　僕は友達を取り返すための方法を考えて続けた。神隠しのように消えてしまった友人のキョウ。学校の七不思議のひとつ、１３階段の噂は本当だったのだ。それでもあの日に見た出来事は本当は夢だったんじゃないかと思う時もあった。だが１３階段に吸い込まれてゆくキョウの姿を見たたのは僕だけじゃない。一緒に肝試しに行ったユウジに電話で話したときに彼も、自分の見たことが信じられないと言いいながら泣いていた。彼もキョウの失踪に責任を感じている。僕らは起きたことを警察以外に親や先生に説明しようとしたけどだめだった。でも実際自分の目で見なければ僕だって信じられないだろうとおもったし、非現実的な消えてしまったキョウがどこにいったかなんて見当もつかずただ無力感を感じていた。

　ユウジしか話し合える相手がおらず、彼と互いにいろいろアイデアを出し合って無い知恵を絞りそれも底が尽きかかっていたとき、ふと学校の七不思議に数えられている、トイレの花子の噂を思い出した。

　大昔この学校の生徒が不運な事故で死んでしまい、その死んだ少女の幽霊がトイレにあらあわれる、と言う話だ。何処にでもある定番のトイレの花子さんぽい噂だったけど、 彼女は三階の女子トイレの右から二番目の個室トイレにいるらしい。そこでドアをノックしてキックトンと三回繰り返しながらくるくるその場で回転することが彼女を呼ぶ合図らしい。 

　彼女についての噂話や都市伝説は日本中にある。その中のいくつかは、トラブルに遭う子供たちを助けてくれる味方として語られている。そのことを思い出した僕は、うちの学校のトイレの花子さんの噂も本当だったら、ワンチャン力を貸してくれるかもしれないと思った。



　 僕はそのことをユウジに話をして、「もう一度深夜の学校へ行こう」と持ちかけた。

　は少し悩みながら最後には「他に普通のやり方じゃどうしようもないよな」と言って僕の話に同意した。


　 深夜学校に侵入しないといけないし、そもそも馬鹿げた考えだと分かってたが、僕らはキョウを助けたい一心で藁にもつがる思いだったのだ。


僕とユウジは家を抜け出し、夜１０時過ぎに再び学校の校舎裏で落ち合い、下校前に鍵を開けておいた一階の廊下の窓ガラスから中に入り込だ。懐中電灯で照らしながら慎重に廊下を歩いて行った。校舎は静まり返っていたが、なにかまた恐ろしい事が起きたり、先生や警察がいるかもしれない不安を覚えたけど、特に何も起こらないまま順当に階段を上がり、予定通り3階女子トイレに着いた。

僕らは別の意味でドキドキしながら普段は入ることのない女子トイレに入ると、奥から右に二番目の個室のトイレの前に立ちまった。僕らは互いに顔を見合わせ頷くと、ユウジがそのドアをノックして、それから小さな声で「キックトンキックトンキックトン」と声に出した。


「ユウジ、ここで回るんだ！」
「回転するの？」
「そう、三回回る」

彼にそう伝えると、二人でシンクロしながらクルクルその場で回転を始めた。

とりあえず三四回転くらいして立ち止ままった。しばらく固唾を飲んで様子を窺ったが何も起こらず、深夜の女子トイレに男二人互いの顔を見つめ合った。


「ダメ...？」ユウジがつぶやき、僕は焦ったようにもう一度扉をノックして「花子さん！遊びましょう！」と今度は大きな声で中に向かって語り掛けた。


　それからやたら長く感じた沈黙が数秒続いたあとに、個室トイレの中から「は～い」という鼻にかかった女の子の声が聞こえた。

　そして驚く間もなく唐突に「バタン！」と大きな音を立ててドアが開いた。 

目をやると、そこに女の子が立っていた。信じられなかったが本当にそこに花子さんがいた。僕らより年下に見える、噂の通りにおかっぱ頭に赤いスカートを穿いたかわいい女の子だった。

　「呼んだ？」と彼女がいった。

　「え？・・・うん」僕はアホみたいに返事をした。

　「お兄さんたち誰？」

　「僕らはこの学校の生徒」

　「遊びに来たの？」と花子さんが尋ねた。

　「いや！友達を助けてほしいんです」と僕は言った。

　「友達？」

　「そうなんだ。僕たちの友達が大変なことになって...」

　「お兄さんの友達がどうかしたの？」

　「花子さん知ってる？十三階段の噂」僕は尋ねた。

　「十三段階段？」

　「そうです、十二段しかいない階段がある特別な日に十三段になってるっていう...」ユウジが続いて補足してくれた。

　「もしかしてその友達が、十三段目に上がってしまったの？」

　「はいそうなんです！そして消えちゃったんです、完璧に」

　「まぁ大変！」と花子さんは感情のこもった大きな声を挙げて「十三段目の階段は、この学校で一番な場所なのよ。本当は存在しない場所だから立ったらダメなの...。十三階段に立ってしまったらその人はもう存在しない人間と同じなんだから」と続けた。

「なんとかなんない？」とユウジが花子さんに話し、僕もつづけて「消えてしまったのは同級生のキョウっていう奴なんです。そいつがなってから毎晩夢に出て来るんです。どこか知らない世界から彼が助けを呼んでて...花子さん力を貸してください」と話した。

「わたしが力を貸すと言ってもなぁ...こまったなぁ。私はトイレの幽霊だから気軽によその十三階段に行くのもあれだし、行ったとしても友達を見つけて取り戻すのは難しいかも...」と花子さんが首をかしげ本当に困った様子で言った。

「でも最近の噂だと、花子さんってトイレの水道管からどこへでも行けるって聞いたんですけど、もしかしてそれが異世界に行けたりしないんですか？もしくは霊界のネットワークみたいなので検索かけて調べるとか...？」僕はネットのどっかでありそうな話をヤケクソ気味に花子さんにぶつけてみた。

「トイレの水道から異世界に行ける...？誰がそんなことを言ったの？また勝手な噂話を作って流している人がいるのね‥‥」と花子さんがため息混じりにそう言った。

「花子さんは、子供を助ける守護霊じゃないの？トイレの神さまの化身という話も聞きました！ どうかあいつを助けてください！本当にお願いします」ユウジも必死に彼女に頼み込んだ。

「うーん・・・」と言って花子さんは、下を向いて目をつむり動かなくなった。

「ごめん、ちょっと無理なこと言ったかな...？」

ユウジがそう語り掛けた瞬間、再びトイレのドアがバン！と大きな音を立てて閉まった。

「あ！？」

　そして暫くして再び扉が開いた。たった数秒くらいだったと思う。するそこにはなんと消えたキョウが立っていた！

「助けて・・・・」とキョウはトイレの側面の壁のほうを向きながら、僕らを気付かないまま天上を見上げて神様に祈るようなしぐさでつぶやいていた。

「おい！キョウ！」ユウジが叫んだ。

「お前どうやって！？」そういう僕も驚きと喜びが押し寄せて来て今日に駆け寄った。

するとキョウは僕らに気づき、彼も信じられないと言ったような感じでへたりこむように僕らに寄って来た。僕らみなホッとしたのか三人ともその場にへたり込んだ。


「十三段目の下から落ちって...気づいたらとんでもない世界にいたんだ。本当に恐ろしい場所だった。もう肝試しなんて二度とごめんだ...」今日はそう言いながら目から涙がこぼれていた。

「どんな世界だった？そこから抜け出せたってことだよな？」ユウジが尋ねた。

「うん、向こうはなんていうか...まともな奴が全員死んでいくばしょじゃなくて、それ以外の狂った奴らが送られるおぞましい世界だったよ。そこには地獄の眷属が乗るクルマがあってさ、それがすごいスピードで抜けていくんだ。その暴走車が超重低音の地響きを立てながら、黒板を掻きむしるような不愉快な声をあげる亡者たちを轢き殺ろすんだ。昼も夜もなくただひたすらに...。そんな中を僕はひたすら躱してなんとか逃げてた。もう体力の限界っていう時、天から突然天使の声の聞こえてきたんだ」

「そって小さな女の子の声じゃなかった？」

「そうそれ！アニメぽい萌声が『お兄さん、そこにいたいの？帰りたいの？どっち？』って聞いてきたんだ」

「それたぶんイレの花子さんだよ」ユウジが言った。

「花子さん...？」キョウはどうにも状況が呑み込めない様子だった。

「そうんだ。僕ら花子さんに頼み込んだんだ」僕がそう言い「トイレの花子さんがお前を助けてくれたんだよ」とユウジが続けた。

「なにそれ？わけが分からないけど...っていうか、ここって女子トイレの中か？」キョウはキョトンとしながらも腑に落ちたようだ。すると普段の彼からは想像できないくらい感情的に爆発して泣き笑いをしばらく繰り返した。。


　僕は彼からもらい泣きしてしまい、ユウジも緊張と不安から開放されたのか安堵の笑みを浮かべていた。それから三人で抱き合ってお互いの無事を改めて確認した。

　しばらく待ってみたが、トイレの花子は再び姿を表すことはなかった。僕らは誰も居ないトイレの中で彼女にお礼を伝えるて学校を出た。

　翌日、謎の失踪を遂げたキョウがどこからともなく帰ってきたと学校で知れわたると、一時期学校の誰もそれについて語るような状況になった。キョウは神隠しに遭った男と呼ばれ、原因となった十三階段の噂が変化して地獄の門が現れるとかいう、アップデートがされたみたいだ。そのごしばらく七不思議の噂が活性化して、トレイの花子さんの噂もを試す生徒もいたようだ。でも花子さんを実際に見たという生徒は誰もいなかった。

 ただし僕とユウジは実際に見たし、キョウを含めた僕ら三人は、その後も花子さんの存在を忘れなかったし、とくにキョウは事あるごとに感謝を口にした。

　どの学校にもトイレの花子さんが居るのか、呼びかけに応えて現れてくれるのかわからないけど、少なくとも僕たちは、本当に困ったときに、花子さんはその声に応じてやって来ることを知っている。

　ただし用事もないのに、からかい半分に彼女を呼び出したならどうなるかわからない。もしかしたらお仕置きをこえた想像もできないような恐ろしい目に遭うかもしれない。

おわり