怪奇短編集

木村 忠司

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学校の七不思議

夜に現れる十三階段

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 これから話すのは、僕が中学時代に経験したある噂に関して起きた事件だ。僕とユウジとキョウは、同じ中学校の陸上部で当時は何かとよくつるんで遊ぶ仲だった。

 どの中学にもその学校特有の怪談話があると思う。僕らが通う村山台中学校にもそういった噂が七個そろってあって、誰が決めたか七不思議のコンセンサスを生徒みなで共有していた。今回話すのは、その七不思議のうちの一つで、学校の校舎の外にある非常階段に関している。

 三階から四階にかけての階段の段数は十二段なのだが、夜になるとなぜか一段増えて十三段に増える、という噂話だ。 その存在するはずのない十三段目に一度足を乗り上げてしまうと、そこから足を抜け出すことは不可能で、運が悪いと化物か幽霊に足を掴まれるという怖い話だ。

 その階段は校舎の裏側にある鉄骨がむき出しの非常階段で、普段鍵がかかっていて生徒も先生も使わない。その非常階段を誰も居ない夜に上り下りを繰り返していると、運が好いと十三段目が現れるというのだ。


 僕はその噂話をだたの噂に過ぎないと思っていたが、同級生のなかに三つ年上の兄がいてその兄が三年前にその噂を試して痛い目にあった、と証言する生徒がいた。その当時彼の兄は何を思ったのか、問題の階段を夜中に一人登っていって、十三段目を確かめようとしている内に、突然見えない何かに足を掴まれて体勢を崩し階段を転げ落ちたそうだ。掴まれただけでなく、体勢を崩したのは何者かによって堅田ごと下からすくわれたような感覚があって、危なく手すりを越えて下へ滑落しそうだったとも言った。

 それを聞いても那覇市に尾ひれが付いているような気がして、僕は話半分にきいてあまり本気ではなかった。

 どういう話の流れだったのかもう忘れたけど、ある日の休み時間か放課後に七不思議の話になり、キョウが「今日は満月だから夜に階段を試してみよう」と言い出したのだ。
 

 「なんだよそれ?満月が関係してるわけ?」と尋ねると、「そうだよ。満月の夜にだけ十三段目が現れ雨らしい」と言った。

  満月云々の条件は特に聞いていなかったけど、言われてみれば確かに満月の夜には魔力がますような空気感があるし不思議なことが起こりやすいかもしれない。単純にボクは面白そうだとその話に乗り、ユウジも同様だった。

 この噂を選んだのは、夜に確かめる必要があるけど校舎に入る必要がなく外から階段を登っていけばいいので、罪悪感的なハードルは低く気軽に探索できると考えたのだった。

 放課後の部活動を終えた僕たちは、他の部員が帰った後もそのまま部室に居残って、誰かの残した漫画雑誌やたわいない話をしたりして時間を潰しながら夜を待った。

夕日が落ちて、外が暗くなっても部室の電気をつけること無く僕らは中で息を潜め、見回りの先生が懐中電灯を照らす光が外で揺れている時も中で息を潜めてそれをやり過ごした。それから数分、気配が無くなったのを確かめて扉の隙間から外を見ると、一階の職員室も玄関の電気も消えていた。それから僕らは打ち合わせ通りに忍び足で校舎の裏側へと移動した。 時刻は確か午後8時前後だったと思う。

  そして僕たちは普段近寄らない非常階段の前に立った。 外灯はついておらず階段だけでなく校舎の電気も完全に真っ暗で見慣れない状況に僕たちは恐怖感とワクワク感が半分ずつ同居していた。上を見上げてみても最上階の四階の方はよくみえなかった。ユウジが部室にあった懐中電灯を持って来ていてそのスイッチを入れた。 


 「誰が先頭?」とユウジが聞いてきて、僕はキョウの方を見ると彼は「じゃあ、俺が行くよ」と言った。

 キョウがユウジから懐中電灯を受け取って階段を登り始めた。

  この噂についておそらく三人共それほど信じているわけではなかかったと思うけど、それでも普段使わない夜の非常階段は、登るだけで正直不安ドキドキした。ところどころ塗装の剥げて錆びついた非常階段は一歩歩くたびに小気味良く金属音を鳴らして、その音は非日常の特別な行為の代償の証である気がした。

 そのとき先頭を名乗理でたキョウは躊躇うことなくゆっくりだったが一歩一歩着実に何かを確かめるように上っていった。彼が先頭を勝手でたのは自分の勇気を誇示する意味があったと思う。普段から男らしさをにじませるタイプだったけど、別に無理をしているわけでない自然のことだっただろう。ユウジはリーダー性能があり物事を客観化するのに長けていたし二番手はふさわしい。そして僕は目立たない平均的地味タイプな生徒だったので、ユウジの後ろの三番手なのも自然の流れだった

 怖いもの知らずのキョウは、懐中電灯で照らしながら順調に階段を上っていった。 一本の懐中電灯だけでは足元暗く心もとない感じだったがユウジと私も後についていき二階に達した。二階の扉のノブを回してみたがやぱり扉はビクリとも動かず鍵が掛けられていた。

  そしてまた一階分階段を上がり三階までやって来た。三階の手すりに手を掛けて下を見下ろしてみると黒い地面が見えた。非日常的な状況の成果、意外な高さに覚えた僕は少し肝を冷やして鳥肌が立った。

 さっきより少し明るくなったと感じて上を見上げると、雲からちょうど出てきたばかりのまあるい満月が光っていた。

すると、
「問題の階段はここからだ」とユウジが神妙な感じで言った。

先頭のキョウはそれに無言のままで階段を登り始めた。

彼はペースを変えず一段一段慎重にのぼって、二番手のユウジは一段ごとに数字をカウントした。まあまあの緊張感を保ちながら僕らは上っていき、結局普通に階段は十二段だった。 

「普通じゃん」キョウがそう言って、僕とユウジは思わず笑った。

「学校の七不思議っていっても結局だたの噂だよ」ユウジがヒトコトそう言って


「これで調査終了?」と言ってキョウも笑った。 

僕は笑いながら内心ほっとしていた。

しかし、その時だった。 


「あれ?」と言うキョウの表情から笑みが消えた。 

 「どうしたの?」 

 「もう一段ある…」 

 「え?」と言って僕は彼の見て居る場所をみると、そこにはもう一段階段があった。性格に言うと非常階段の四階の校舎のフロアに続く床なのだがそこが不自然に段差が生まれていた。大きな鉄の床がボコっと膨れ上がり一段段が伸びている。それは暗がりのなか色が少し変わっていて、用途不明の一段だけある階段で長方形の土台のようにも見えた。

「どうした?」

そう尋ねたユウジに後に聞いてみると彼にはその段差が見えなかったそうだ。

「これが十三段目か!」とキョウが叫んだ。

悪い冗談か、とにかく良くないものを見た気がして「もういいよ、早く下りよう」と僕はごまかしたようにいって、ユウジも「何言ってんだよ、もう戻ろうぜ」と言った。

しかしキョウは返事をせず嬉々とした感じで軽やかに13段目に右足乗せて、両足で上に立ち上がるとターンして僕とユウジを見た。

 その時キョウの足元でなにか「ガチッ」という音がしました。 彼は「あっ!」という短い声で叫んだ。

  足元をみると満月に照らされたキョウの足首が何かが掴んでいた。 それは黒くてぬめっとした光沢を放つ何かだったがそれが何かと聞かれても今も答えることが出来ない。



 僕はキョウを助けようとして彼の手を握ったが、足首を掴んでいる異物は離れませんでした。そして彼の体は徐々に十三段目ごと下へ下へと引きずり込まれていった。 

「助けて!」

 僕は必死にユウジの手を掴んだが何故か力が入らなかった。助けを求めた割に彼の手に力を込めている感じはなく、手と手ははなれ、あっというまにキョウの体は吸い込まれるように床の下へ飲み込まれていって13階段ごと消えてしまった。

僕らは急いいで床下、つまり三階に降りて天井を見上げたが以上はなく、彼の姿は何処にもなかった。僕とユウジはいそいで階段を駆け下りて一階に降りてみたがそこにも彼の姿はなく、どうすることもできずあたふたするだけだった。

 「助けて!」という最後に叫んだキョウの声が幻聴のように非常階段にこだましている気がした。

 僕たちはもう一度上がってみたももの彼の姿はやはり無く、泣きながら非常階段を下りた。 ユウジも僕も半ばパニックになっいた。こんなことが起こるはずがない。十三階段という噂はこれのことだったのか?彼の足に掴んだあれは一体何だったのか? どれもこれも何もかも何がどう起こったのか全くわからず僕らはとにかく校門を越えて学校から離れた。

  僕たちはその後すぐに警察に110番通報して、やって来た警官を同行して非常階段前で起きたことを説明してもちんぷんかんぷんで、当然十三段目の階段もキョウの姿も見つからなかった。 そして当然ながら警察は僕たちの話を信じることはなく、パニックを起こして心神喪失のような状況にあると思っているようだった。

 キョウは詳細不明の失踪扱いになり、その後僕はしばらく学校に登校することができなくなった。

  僕とユウジは別の日にも任意で警察に聴取され、心理カウンセリングも受けたけど意味がなかった。僕もユウジも起きたことをうまく説明できずに、誰にも理解してもらうことはなかった。数日建ってもキョウは帰ってこずにまるでトラウマの様にこの事件が心に深く刻まれてしまった。そして彼の「助けて」の言葉も消えること無く心の中で残響していた。 

 夜に寝ようと横になると目を瞑った暗闇の中でキョウの声が部屋の中で響いた。


 一週間後に僕はもう一度怪異の起こった非常階段に行ってみることにした。親の目を盗んで家から抜けだすと、学校の校門まで着くと心臓はバクバクだった。ぼくはなけなしの勇気を絞り出して校門を乗り越えた。 

 キョウがそこに再び現れてくれることを願っていたがそれが難しいこともわかっていた。ともかく僕は懐中電灯を持って夜に学校に忍び込んだ。そしてふたたび校舎裏側の奥にある非常階段の前に立った。

 空に満月はなく、階段は暗かったけど懐中電灯で照らしてみた。 僕はひとり恐る恐る階段を上っていった。 そして問題の部分の四階に続く階段の十二段目足を踏み出した。 結局そこは四階フロアにつづくの広い床があるだけであの時の13段目はなかった。

 僕は緊張からすこし開放されたが、その分絶望感がじわじわと侵食してきた。

「あれは夢だったのか・・・?」

 そんな独り言をいいながら、そんなはずないとその言葉を心の中で打ち消したその時、懐中電灯が突然に消えた。

「え?」

すると暗闇の中で何か冷たいものが私の足首に触れた。

「あっ!」

叫びながら足元をみると、それは黒くてぬめっとしたものだった・・・気がした。実際には感触だけで足元におかしなものは見えなかった。


そして次の瞬間どこからともなく

「助けて!」

キョウの声がはっきりと聞こた。

 僕は恐慌に襲われて一階までとにかく駆け下りてその勢いのまま校門の方へ走り続けた。そして十分に離れた場所から非常階段の方を見上げた。

 静まり切った校舎が立っていて非常階段にも人影はなかった。しかしさっき聞こえた声は決して気のせいとは思えなかった。キョウがこの世ではない何処からか僕に助けを求めている気がした。

 結局その日、それ以上なにも手がかりがつかめなかったけど、押し寄せた絶望は和らいで、「キョウを助け出す」という言葉を自分の心のなかにひとり誓って、僕は家路についたのだった。




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