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学校の七不思議
階段おどり場の鏡
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私が中学生だった頃、仲の良かった友人たちといっしょにオカルトにハマっていました。
怖い話好きで暇を見つければネットや本で仕入れた都市伝説など色々な怪異のネタを探していました。その中で私は身近な自分の学校にある7つの噂を知りました。いわゆる学校の七不思議というやつです。
その中の一つに、階段の壁に備え付けられた鏡についての怖い話がありました。階段の折り返しの途中の壁に鏡が付いている場所が在り、それは不思議な鏡で、時々霊が映ったり、自分の死に際の顔が見える、ということでした。
ある日の放課後に、私は気まぐれにその鏡を見に行こうと思いました。
学校の校舎には幾つか階段が在りますが、その鏡があるのは校舎の奥にあり、玄関口から見て一番遠い階段でした。その外側に裏山と呼ばれる小高い山にがあり木々が立ちはだかり、日中でも日の光も届きにくい場所なので薄暗く、他の階段に比べて利用者が少ない階段でした。
噂される鏡は、壁に貼り付けられた全身が映る大きな姿鏡で、三階階から四階の途中の鏡です。
私はその鏡に何気なく近づいて、中に映るもう一人の自分の顔を見ました。それは特に何の変哲もない普通の私の顔でした。私は舌を出して変顔を作ると、鏡の中の自分ももちろん同じ顔を映し返しました。
我ながら馬鹿バカしい、と思って表情を戻し真顔に戻したのですが、鏡の中の顔は戻るどころか、まるで自我を持ったかのように次第に変わっていったのです。
その変化はまるで映像をコマ送りしたかのように、瞬く間に目が大きく開かれ黒目が上を向き、口からは泡を吹いて、蛇がまとわりつくように血管が浮き出た皮膚は血の気を失いっていきました。それは確かに私の顔でしたがまるで怪物の様なその恐ろしい苦悶の表情をみた恐怖よりも、私の自我が真っ二つに切り裂かれたような心理的な瑕疵を起こし混乱した私は思わず「ヒッ」とその場で悲鳴を上げました。
私は階段を駆け下りて逃げました。
その後友人にその話をしたのですが、冷めた笑いを誘うだけでした。友人と鏡の前に立たせて見ても何も変わったことは起こらず悪い冗談にされ本気に聞いてくれる生徒はいませんでした。
私はその時からあの鏡の前を通らないようになりました。学校を卒業しても、百貨店のエレベーターの中の姿鏡や鏡面処理された美しいビルの窓ガラスの前などを通る時に、ふとあの時見た自分の顔が脳裏によみがることがあって、高校一年生に見た鏡の向こうに見たあの恐ろしい光景がフラッシュバックするのです。
あの鏡に何が映っていたもの..あれは本当に何だったのか、幽霊または別の何か、妖怪のような存在だったか、もはや知りようがありません。
卒業して数年経ったある日、私は偶然にも母校に行く機会がありました。長い事ご無沙汰だった故郷に帰ってきた私は、懐かしさから学校周辺をぐるり散歩していました。するとその日祝日だったにも関わらず学校では何かのイベントが催されていたようで校舎が解放されていたのです。たまたま一般人も校舎に入れたその日、私は何かに導かれるように玄関口まで来ると入口のところで足を止めました。
あれからずいぶん時を経て校内は何か変わったのだろうか?いや思ったよりも何も変わっていない。あの鏡は今もあるのだろうか?今日私が鏡の前に立ったなら、何が映るのだろう?・・・自分の姿に決まっている。
私は、あの日の事を改めて思い出してました。あれの正体を知りたい...というよりあれは現実のことだったのだろうか...そんな気持ちが湧き立ち、それに背中を押されるように校舎に入ると、私はまっすぐにあの鏡のある校舎の一番奥の階段を目指しました。
一番奥の階段は変わらず薄暗い場所でした。登って行くと、二階と三階の階段の折り返しのおどり場に鏡はまだありました。あたりに人はおらず静まり返った校舎内で独り私の心は不安と興味とのはざまで揺れ動きました。
不自然にひと気ない静まり返った階段を、私はひとり疑心暗鬼に陥りながらも勇気を出して、鏡に姿が映るおどり場に立ちました。いい大人になってこんなことに心臓がドキドキしている自分がどうかしている、と思いながら、目的の鏡の中を見たのです。
するとそこには歳を経た私が居て、何の変哲もない姿鏡に過ぎませんでした。高校時代に思っていたほどの大きさも不気味さもなく、いたって普通の印象でした。
私はひとりその場に立ちながら、鏡の中の自分に笑いかけるように安堵しました。あれは中学校という狭い世界に閉じ込められ思春期という思い込みの激しくも未熟な心が見せた幻覚だったのかもしれません。
そして納得した私は、その場から去ろうとしました。
すると降りている途中の私の背後から「フフフ」という囁くような声が聞こえたのです。
私は急いで振り返り鏡の方をもう一度見上げました。しかしそこにはやはり、誰も映っていない鏡があるだけでした。
怖い話好きで暇を見つければネットや本で仕入れた都市伝説など色々な怪異のネタを探していました。その中で私は身近な自分の学校にある7つの噂を知りました。いわゆる学校の七不思議というやつです。
その中の一つに、階段の壁に備え付けられた鏡についての怖い話がありました。階段の折り返しの途中の壁に鏡が付いている場所が在り、それは不思議な鏡で、時々霊が映ったり、自分の死に際の顔が見える、ということでした。
ある日の放課後に、私は気まぐれにその鏡を見に行こうと思いました。
学校の校舎には幾つか階段が在りますが、その鏡があるのは校舎の奥にあり、玄関口から見て一番遠い階段でした。その外側に裏山と呼ばれる小高い山にがあり木々が立ちはだかり、日中でも日の光も届きにくい場所なので薄暗く、他の階段に比べて利用者が少ない階段でした。
噂される鏡は、壁に貼り付けられた全身が映る大きな姿鏡で、三階階から四階の途中の鏡です。
私はその鏡に何気なく近づいて、中に映るもう一人の自分の顔を見ました。それは特に何の変哲もない普通の私の顔でした。私は舌を出して変顔を作ると、鏡の中の自分ももちろん同じ顔を映し返しました。
我ながら馬鹿バカしい、と思って表情を戻し真顔に戻したのですが、鏡の中の顔は戻るどころか、まるで自我を持ったかのように次第に変わっていったのです。
その変化はまるで映像をコマ送りしたかのように、瞬く間に目が大きく開かれ黒目が上を向き、口からは泡を吹いて、蛇がまとわりつくように血管が浮き出た皮膚は血の気を失いっていきました。それは確かに私の顔でしたがまるで怪物の様なその恐ろしい苦悶の表情をみた恐怖よりも、私の自我が真っ二つに切り裂かれたような心理的な瑕疵を起こし混乱した私は思わず「ヒッ」とその場で悲鳴を上げました。
私は階段を駆け下りて逃げました。
その後友人にその話をしたのですが、冷めた笑いを誘うだけでした。友人と鏡の前に立たせて見ても何も変わったことは起こらず悪い冗談にされ本気に聞いてくれる生徒はいませんでした。
私はその時からあの鏡の前を通らないようになりました。学校を卒業しても、百貨店のエレベーターの中の姿鏡や鏡面処理された美しいビルの窓ガラスの前などを通る時に、ふとあの時見た自分の顔が脳裏によみがることがあって、高校一年生に見た鏡の向こうに見たあの恐ろしい光景がフラッシュバックするのです。
あの鏡に何が映っていたもの..あれは本当に何だったのか、幽霊または別の何か、妖怪のような存在だったか、もはや知りようがありません。
卒業して数年経ったある日、私は偶然にも母校に行く機会がありました。長い事ご無沙汰だった故郷に帰ってきた私は、懐かしさから学校周辺をぐるり散歩していました。するとその日祝日だったにも関わらず学校では何かのイベントが催されていたようで校舎が解放されていたのです。たまたま一般人も校舎に入れたその日、私は何かに導かれるように玄関口まで来ると入口のところで足を止めました。
あれからずいぶん時を経て校内は何か変わったのだろうか?いや思ったよりも何も変わっていない。あの鏡は今もあるのだろうか?今日私が鏡の前に立ったなら、何が映るのだろう?・・・自分の姿に決まっている。
私は、あの日の事を改めて思い出してました。あれの正体を知りたい...というよりあれは現実のことだったのだろうか...そんな気持ちが湧き立ち、それに背中を押されるように校舎に入ると、私はまっすぐにあの鏡のある校舎の一番奥の階段を目指しました。
一番奥の階段は変わらず薄暗い場所でした。登って行くと、二階と三階の階段の折り返しのおどり場に鏡はまだありました。あたりに人はおらず静まり返った校舎内で独り私の心は不安と興味とのはざまで揺れ動きました。
不自然にひと気ない静まり返った階段を、私はひとり疑心暗鬼に陥りながらも勇気を出して、鏡に姿が映るおどり場に立ちました。いい大人になってこんなことに心臓がドキドキしている自分がどうかしている、と思いながら、目的の鏡の中を見たのです。
するとそこには歳を経た私が居て、何の変哲もない姿鏡に過ぎませんでした。高校時代に思っていたほどの大きさも不気味さもなく、いたって普通の印象でした。
私はひとりその場に立ちながら、鏡の中の自分に笑いかけるように安堵しました。あれは中学校という狭い世界に閉じ込められ思春期という思い込みの激しくも未熟な心が見せた幻覚だったのかもしれません。
そして納得した私は、その場から去ろうとしました。
すると降りている途中の私の背後から「フフフ」という囁くような声が聞こえたのです。
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