怪奇短編集

木村 忠司

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学校の七不思議

廊下の突き当りの扉

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 私は雛城高校二年生の佐藤ユリです。

 私は友人たちと一緒に、学校の七不思議を探そうという話になりました。放課後に教室に残り、「廊下の突き当りの扉」について話をしていました。

 その扉は以前『多目的室』という銘が打たれていたらしいのですが、いまは外されて鍵が掛けられていて開かず扉でした。

 それじゃ実物をちゃんと見てみようということになって、私たちは教室から出て目的の階の廊下まで行ってみました。廊下の突き当りにその鍵がかかった扉がありました。

 その扉をこじ開けようとしましたが、やはり鍵がかかっていました。私たちは鍵穴を覗いたり、ドアノブを回したりしましたが、やっぱり駄目でした。友達のコウが何かを思いついたようで、ポケットから細長い針金を取り出しました。彼女はそれを鍵穴に差し込み、何度も何度も動かしてみました。でもやっぱり駄目でした。

 その扉はさび付いて古びた開かずの扉で、結局ただの噂話で普通に使われなくなった部屋なんだろうというということで、私たちは教室に戻ろうとしました。

 しかし、私たちは戻れませんでした。階段が無くなっていたのです。私たちはずーっと廊下を歩き続けましたが、終わりなく続いていました。私たちは永遠の回廊で迷子になっている状態でした。自分たちが奇妙な世界に入り込んだことは分かっていました。

 私たちは不安になり互いに声をかけ合いました。しかし、それも声はだんだん小さくなって、やがてみんな一言も言わなくなりました。

 ふと後ろを振り向くと、私は一人ぼっちになってしまったことに気づきました。他の二人の友人の姿が忽然と消えていて、私はひとり恐怖に震えながら廊下を歩き続けました。しかしどこにも出口は見つかりませんでした。

 私は泣きながら助けを呼びましたが、誰も答えてくれませんでした。自分の心臓の鼓動だけが大きく聞こえていました。

 そして、突然前方から光が見えました。そしてその光はだんだん大きくなっていきました。『廊下の突き当りにある扉』だと分かりました。

 私は驚きました。反対方向に歩き続けて来たのに、私はどうやってまたそこに戻ったのか分かりませんでした。私は「絶対何かがおかしい」と感じました。私はその扉に近づこうとしませんでした。

しかし、結局私は近づいてしまいました。私は自分の意志とは関係なく、その扉に引き寄せられているかのように。私はその扉に抵抗しようとしましたが、自分の意思ではどうにもなりませんでした。

 私は扉の前に立ってその扉を見つめました。その扉は今までと違って、開いていました。と言うよりも開閉式の扉が取り外され得閉まったようになくなり、向こうには何も見えませんでした。ただ真っ暗な空間が広がっているかんじです。

 私はその空間に恐怖を感じました。向かうから何者かが私を除いているような気がしたのです。同時に私はその空間に死を感じました。

 しかし、私は入ってしまいました。その空間に吸い込まれる感じでした。

 入ったとたん、真っ暗に支配され私は死を思いました。たぶん死んだのだろうと思っていると、そこはあの世ではなくて、 廊下の突き当たりにある扉の向こう側にいただけだったのです。

 その場所は扉もなく触れる物もなくい真っ暗な空間でした。雛城高校の閉ざされた多目的室の扉の向こう側です。 私は真っ暗闇にただ一つ目に映る小さな穴から外を見ていました。そこは間違いなく雛城高校の廊下の風景でした。

 そこでは友人たちが泣きながら警察を呼んでいました。 彼らは私が失踪したか死んだと思っていたのでしょう。 

 私はその穴に向かって大声で叫んだり助けを読んでみましたが、彼らには全く届きはしませんでした。

 しかし、私は死んではいませんでした。 私は扉の向こう側で生きていました。 ただ体が無くなってしまっただけです。いや、真っ暗闇の中で体が無くなってしまったと思い込んでいただけもしれませんが、そうとしか思えない状態でした。

 それから一か月経っても、 私はこの部屋にいました。 時々噂を聞いたバカな生徒が、この扉を開けようとする姿をみました。

 その時私は必ず中から手を伸ばして引っ張り込もうとしました。 私は独りぼっちにこれ以上耐えられそうもなかったからです。でも誰の手にも届きませんでした。

 私はしばらく孤独の闇の中にいました。


 しかしあるとき暗闇の底が抜けたように、暗闇の中に落ちていきました。私は何かにぶつかることもなく、ただひたすら落ち続けました。私は恐怖に震えながら、友人たちの名前を叫びましたが、誰も答えてくれませんでした。私は一体どこにいるのだろうと思いました。

 私はあがくことをやめました。もう成すままに任せようと‥‥。

 そして私はもう間違いなく死ぬのだろう、と思いました。私は自分の命について考えました。私は何か生きている間に残したいことがあったかな、言い残したかったことは何?などと思い出そうとしました。

でも、何も思い出せませんでした。私はその時自分の存在について何も感じませんでした。私はただ無になっていくことを感じました。

 それほど長くない落下の時間のあと、奈落の底に全身が打ち付けられる感覚が襲いました。

 私は悲鳴を上げて飛び起きました。

 その時、ピアノのハイノートの音が聞こえてきました。それは自分の部屋の隅に置かれたピアノの音で、私は自分のベッドに寝ていた夢だったのです。

 私は間違いなく自分の部屋だと確認して安堵しましたが、ピアノ線が弾かれるようなの音が聞こえてきた理由はわかりませんでした。部屋が乾燥したせいとか、地震が起こって偶発的に鳴ったとは思えませんでした。

 直感的にその音が鳴ったおかげで、私は現実に引き戻されたのだと感じたのです。どういう理屈か説明のしようがありませんが、私はそう思うのです。あのピアノ線が弾かれる音が聞こえなかったのなら、私はたぶん今でもあの暗闇の牢獄の中に閉じ込められているのだろうと‥‥。
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