怪奇短編集

木村 忠司

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百目

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 私は友人の家に泊まりに行くのを楽しみにしていました。友人とは高校時代の同級生で、卒業後もたまに連絡を取り合っていました。彼は山の中にある古い洋館を相続して、そこで一人暮らしをしていたと聞きました。私は彼の家を見てみたいと思っていたので、彼から泊まりに来ないかと誘われたときはすぐに承諾しました。

 私は車で彼の家に向かいましたが、山道は曲がりくねっていて、道も悪くて、なかなか着きませんでした。夕方になってようやく目的地に到着しましたが、そこは想像していたよりもずっと寂れた感じの洋館でした。周りには何もなくて、風が吹くと窓がガタガタと鳴りました。私は少し不安になりましたが、友人の顔を見ると安心しました。彼は私を快く迎えてくれましたが、何だか様子がおかしかったのです。彼はいつも明るくて元気な人だったのに、今日は静かで、目がぼんやりとしていました。私は彼に何かあったのかと尋ねましたが、彼は「大丈夫だ」と言って笑いました。

私たちは夕食をともにしましたが、会話はぎこちなく、彼はほとんど食べませんでした。私は彼に元気がないことを心配しましたが、彼は「疲れているだけだ」と言って笑いました。しかし、その笑顔にもどこか不自然さがありました。私は彼が何か隠しているのではないかと思い始めました。彼は本当に大丈夫なのでしょうか?私は彼の家で一晩過ごすことに不安を感じるようになりました。

 私たちはリビングルームでテレビを見ることにしました。私は彼と一緒に楽しい番組を探そうとしましたが、彼はリモコンを私に渡して、自分はソファに座って動きませんでした。私は彼の好きなジャンルを聞こうとしましたが、彼は「何でもいいよ」と言って笑いました。私は適当にチャンネルを選んで、彼の反応を見ましたが、彼はずっと無表情で、何も話しませんでした。私は彼に退屈しているのかと尋ねましたが、彼は「楽しんでいるよ」と言って笑いました。しかし、その笑顔にもどこか不自然さがありました。私は彼が何か心配事があるのではないかと思い始めました。

 私たちは寝室に移ることにしました。私は彼の家に初めて来たので、寝室の様子に興味がありました。彼の家は古い洋館だったので、寝室も豪華な装飾が施されているのかと思っていました。しかし、寝室は意外にもシンプルで、ベッドとクローゼットと窓しかありませんでした。窓からは暗闇の中にぼんやりと山々の影が見えました。私は彼に寝室があまり飾られていない理由を聞こうとしましたが、彼は「気にしないで」と言って笑いました。

 私たちはベッドに入ることにしました。私は彼と一緒に眠りたかったので、彼に誘いかけましたが、彼はベッドに入らずに窓の外を見つめていました。私は彼に眠れないのかと尋ねましたが、彼は「眠くないだけだ」と言って笑いました。しかし、その笑顔にもどこか不自然さがありました。私は彼が何か恐れているのではないかと思い始めました。

 私は不安になりましたが、彼を無理に誘うのも失礼だと思いました。私はベッドに入って眠ろうとしましたが、彼の視線が背中に突き刺さるようでした。私は彼の家で一晩過ごすことに恐怖を感じるようになりました。

 しばらくして、私は窓から聞こえる奇妙な音に目を覚ましました。音はガラスが割れるような音で、何度も繰り返されていました。私は恐怖に震えながらベッドから起き上がりました。そして、窓の方を見ると、そこには信じられない光景が広がっていました。

窓の外には無数の赤い目が暗闇に浮かんでおり、それらはみな友人の顔を模していました。友人の顔をした赤い目たちは窓ガラスを執拗に叩き割ろうとしており、その度に友人の声で「大丈夫だ」「疲れているだけだ」「楽しんでいるよ」「眠くないだけだ」と言って笑っていました。その笑い声はどんどん高くなり、やがて耳をつんざくような悪魔の叫び声に変わりました。

「あれ!あれを見て!」

 私は悲鳴を上げて逃げようとしましたが、その時、隣に立っていた友人が私の腕を掴みました。友人は私をじっと見つめて、「大丈夫だ」と言って笑いました。しかし、その笑顔はもはや友人のものではありませんでした。彼の顔は青白くなり、口が両頬に引き延ばされて犬歯がのぞいていて、目が赤く光り始めたのです。



 私は彼から逃れようともがきましたが、彼の力は強くて抵抗できませんでした。彼は私をベッドに押し倒して、「疲れているだけだ」と言って笑いました。そして彼は私の首に歯を食い込ませました。私は激しい痛みと恐怖で意識を失いました。

 私が目覚めたときにはすでに日が昇り外は明るくなっていました。洋館には誰もおらず、もぬけの殻の廃墟のような有様にでした。無数の赤い目を目撃した窓枠を調べると、ガラスにたくさんの手形がついていました。

 友人の彼の姿も探しましたが、洋館内にはいませんでした。首筋に鋭い痛みを感じて手で触ってみると、無数の穴が開いているようでした。

 それ以来彼に会っていません。でもそれからたまに夢に見る様になりました。たくさんの赤い目の人影が私に近づき牙をむき出しに迫ってくる彼らの夢を‥‥。
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