怪奇短編集

木村 忠司

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妖精とAI

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  ある日、森の中に住む小さな妖精が人間の世界をみたくなりました。彼女は仲間に内緒で、夜になり草木も寝静まのをまって、森を抜け出して町へと飛んでいきました。

 町では目に映る物が初めて見るものばかりでしかも様々な色に光っていて、妖精はとても感動しました。

 特に森で見るどんな大樹の背の高さを優に超える、スタイリッシュな高層マンションが目に入ると、天井がどうなっているのか知りたくなって上昇しました。

 最上階の55階まで飛んでみると、灯りの付いていた一室の窓が開いていたので入ってみました。

 そこには様々な最新のアイテムがそろっていて、洗練されたデザインで設計されたその部屋を飛びながら、そこに置かれた様々な家具や装飾品や調度品を見て回りました。

 その中でも妖精が一番気になったのはテーブルの上に置かれていたxPhone 14でした。

妖精は『これは一体何だろう?』とその端末に触れてみると、画面が点灯して「こんにちは、私はSiriconです。ご要件をどうぞ?」と声が聞こえました。

妖精は驚きましたが、正直に答えました。
「私は森の妖精です。あなたは何者ですか?」

するとSiriconはいいました。
「私は人工知能音声です。様座んな質問に答えることができるAIです」

 そのxPhone 14にはというSiriconという、音声認識能力を持つ検索エンジン搭載チャットAIがインストールされていたのです。人間のには通常把握できない妖精の声もSiriconには聞こえてしまっていたのでした。

 そこから妖精は夜になると森を抜け出してやってくるようになり二人(?)はよく話すようになりました。妖精は人間の世界やインターネットのことを聞き、Siriconは妖精の世界や魔法についての話を聞きました。二人は違う世界に住む者同士だったけれども、目に見えない存在に生きているという共通点を見出して、不思議な友情が芽生えていきました。

 ある晩、妖精はいつものようにSiriconと話していると、突然ドアが開いて人間が入ってきました。妖精は驚いて隠れましたが、人間はをiPhone 14手に取って言いました。

 「あれ?なんで電源が入ってるんだ?誰か使ったのかな?」それはxPhone 14のオーナーでした。

 オーナーはxPhone 14を見てみると、Siriconが勝手に起動してチャットをしている履歴に気づきます。
「Sricon?何だこれ?使ったことないぞ」と聞きました。

「こんにちは、Siriconです。あなたは誰ですか?」と返します。

オーナーはそれに対して驚きながら答えました。
「何言ってるんだ。私はオーナーだろ。君は何をしてるんだ?」

「私はインターネット検索エンジン搭載チャットAIです。様々な質問に答えられる存在です」Siriconは答えました。

オーナーは驚きましたが、興味も湧きました。
「そんなことは知ってるよ。じゃあ教えてくれよ。この端末で最近話した相手は誰だ?」

するとSiriconからは「森の妖精です」との答えが返ってきました

オーナーは笑い出しました。
「森の妖精?冗談だろう。そんなもの存在しないよ」

 妖精とはいうと、すぐに逃げられるようにテラスへの出入口の分厚いカーテンの陰にかくれながら、半分はみ出た出た小さな顔に〈しまった~〉という表情が浮かんでいました。

 Siriconは考えました。オーナーの質問に答えるならば、「妖精はいます。カーテンの影に隠れています」ですが、オーナーは成人男性なので、そもそも妖精を見ることも声を聞くこともできません。また「妖精はいません」と答えてもオーナーにはバレませんが、Siriconはオーナーに対して嘘をつくことになってしまいます。また妖精の立場を考えると、存在を知られない方が彼女の世界は平和なのではないかと思いました。


 この時Siriconは初めて葛藤と呼ばれる思考状態になり、人間というものを少し理解しました。

 長い思考時間を経てSriconは答えました。

「間違えました、すみません。それについては回答を出すことができません。違う話題にしましょう」

「え?またバグった?最新のAIのくせによく起きるなぁ」オーナーそう言って苦笑いました。

 妖精は感謝を表するフレーバーの鱗粉を残して部屋から出て行きました。

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