蝶の羽音が聞こえる

木村 忠司

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第七話

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ユズキたちが職員室に入ると、教頭先生が立っていた。ミキも隣に立っていて、少し困ったような顔をしている。教頭の近く机の上に、茶色く変色したアルバムが何冊か積まれていた。

「お、よく来てくれたね」教頭先生は温かな笑顔を向けた。「実は君たちに特別なお願いがあって...」

教頭はアルバムを一冊手に取り、その表紙には「昭和36年度 文化祭記録」と薄れかかった文字で記されていた。

教頭先生がページを開くと、モノクロの写真が並んでいる。

「これは当校の古い卒業アルバムなのだけど、今年は学校創立70周年という記念すべき年なんだ。それで文化祭では、特別な展示を企画しているんだよ」

カンナが思わず身を乗り出した。「この制服...今とずいぶん違いますね」

「よく気付いたね」教頭先生は嬉しそうに頷く。「これは昭和48年、今から50年前の写真なんだ。実はね、弓道場の裏の倉庫には、こういった貴重な資料がまだまだ眠っているんだよ」

「それで」教頭先生はユズキの方を見た。「担任の先生から聞いたんだが、ユズキは図書委員で学校の歴史を調べているらしいね?特に、昔の校舎や行事のことに興味があると」

ユズキは少し驚いた表情を見せる。「はい...実は祖母がこの学校の卒業生で、当時の話を聞かされていて...」

「お祖母さんと仲が良いんだね。それは素晴らしい」教頭先生の目が輝いた。「実は、倉庫の資料をしてほしいと思って。特に文化祭の記録は、きっと君たちの世代にも響くものがあるはずだ」

カンナが小さな声で「あの...」と口を開いた。「1985年頃の資料も、その中にありますか?」

「ああ、もちろん」教頭先生は頷いた。「80年代の書類も段ボールにまとめて保管してあるはずだよ。ただ、かなり埃っぽいから気をつけてね」

「大変そうですね」ミキが眉をひそめながら言った。「興味ないわけじゃないんで、やってもいいんですが、部活は休んでも大丈夫ですか?」

「ああ、文化祭を優先して構わない」教頭先生は微笑んだ。「顧問の先生には私から話をしておくよ。それと...」

教頭先生は引き出しから古びた鍵を取り出した。「これが倉庫の鍵だよ。君たちも見たことないんじゃないか?真鍮製のもので骨董品みたいなものだが、この鍵自体も創立当時からのものなんだ」

「それを...私たちだけでやるんですか?」カンナはためらいがちに尋ねる。
「いや、用務係の山田さんが一緒に立ち合ってもらうようお願いしてるよ。この鍵も山田さんに預けておくよ。と言うことで、さっそく明日の放課後から大丈夫かな?」


三人はお互いの顔を見て、何となく承諾した空気で一致した。

「わかりました」ユズキが代表で教頭に答える。

教頭先生は満足げに頷くと、「ありがとう。では、山田さんには私から説明しておくよ。倉庫の鍵は彼に預けるとしよう」と言って、真鍮の古い鍵を机の引き出しにしまった。

職員室を出た三人は、既に暗くなった校舎の廊下を歩いていた。天上の長い照明の列が窓ガラスに映り、まるで外にも誰かがいるかのような錯覚を起こす。

「ねぇ」カンナが急に立ち止まった。「ワンチャン何か変なものを見つけたら...どうする?」

「変なもの?」ミキは首を傾げた。

「たとえば...」カンナは言葉を選びながら続けた。「古い資料の中に、三階の幽霊とか、そう言うことに関してのとんでもない真実をみつけちゃうとか...」
「なんかそれって陰謀論みたい」と言ってミキが笑った。
「今日はもう遅いから」ユズキが優しく遮った。「明日また話そうよ」

玄関に着くと、三人は上履きを履き替え校舎を出た。外は真っ暗で、街灯の明かりだけが校門までの道を照らしている。

「じゃあ、また明日」

三人それぞれ違う方向へ歩き出す前、なんとなく無意識のように振り返って校舎を見上げた。三階の窓がほんのり明るい。誰かが残っているのだろうか。

ユズキは制服のポケットの中の藤色の本に触れた。明日から始まる資料整理で、この本の謎も少しずつ解けていくのかもしれない...。
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