7 / 9
第七話
しおりを挟む
ユズキたちが職員室に入ると、教頭先生が立っていた。ミキも隣に立っていて、少し困ったような顔をしている。教頭の近く机の上に、茶色く変色したアルバムが何冊か積まれていた。
「お、よく来てくれたね」教頭先生は温かな笑顔を向けた。「実は君たちに特別なお願いがあって...」
教頭はアルバムを一冊手に取り、その表紙には「昭和36年度 文化祭記録」と薄れかかった文字で記されていた。
教頭先生がページを開くと、モノクロの写真が並んでいる。
「これは当校の古い卒業アルバムなのだけど、今年は学校創立70周年という記念すべき年なんだ。それで文化祭では、特別な展示を企画しているんだよ」
カンナが思わず身を乗り出した。「この制服...今とずいぶん違いますね」
「よく気付いたね」教頭先生は嬉しそうに頷く。「これは昭和48年、今から50年前の写真なんだ。実はね、弓道場の裏の倉庫には、こういった貴重な資料がまだまだ眠っているんだよ」
「それで」教頭先生はユズキの方を見た。「担任の先生から聞いたんだが、ユズキは図書委員で学校の歴史を調べているらしいね?特に、昔の校舎や行事のことに興味があると」
ユズキは少し驚いた表情を見せる。「はい...実は祖母がこの学校の卒業生で、当時の話を聞かされていて...」
「お祖母さんと仲が良いんだね。それは素晴らしい」教頭先生の目が輝いた。「実は、倉庫の資料をしてほしいと思って。特に文化祭の記録は、きっと君たちの世代にも響くものがあるはずだ」
カンナが小さな声で「あの...」と口を開いた。「1985年頃の資料も、その中にありますか?」
「ああ、もちろん」教頭先生は頷いた。「80年代の書類も段ボールにまとめて保管してあるはずだよ。ただ、かなり埃っぽいから気をつけてね」
「大変そうですね」ミキが眉をひそめながら言った。「興味ないわけじゃないんで、やってもいいんですが、部活は休んでも大丈夫ですか?」
「ああ、文化祭を優先して構わない」教頭先生は微笑んだ。「顧問の先生には私から話をしておくよ。それと...」
教頭先生は引き出しから古びた鍵を取り出した。「これが倉庫の鍵だよ。君たちも見たことないんじゃないか?真鍮製のもので骨董品みたいなものだが、この鍵自体も創立当時からのものなんだ」
「それを...私たちだけでやるんですか?」カンナはためらいがちに尋ねる。
「いや、用務係の山田さんが一緒に立ち合ってもらうようお願いしてるよ。この鍵も山田さんに預けておくよ。と言うことで、さっそく明日の放課後から大丈夫かな?」
三人はお互いの顔を見て、何となく承諾した空気で一致した。
「わかりました」ユズキが代表で教頭に答える。
教頭先生は満足げに頷くと、「ありがとう。では、山田さんには私から説明しておくよ。倉庫の鍵は彼に預けるとしよう」と言って、真鍮の古い鍵を机の引き出しにしまった。
職員室を出た三人は、既に暗くなった校舎の廊下を歩いていた。天上の長い照明の列が窓ガラスに映り、まるで外にも誰かがいるかのような錯覚を起こす。
「ねぇ」カンナが急に立ち止まった。「ワンチャン何か変なものを見つけたら...どうする?」
「変なもの?」ミキは首を傾げた。
「たとえば...」カンナは言葉を選びながら続けた。「古い資料の中に、三階の幽霊とか、そう言うことに関してのとんでもない真実をみつけちゃうとか...」
「なんかそれって陰謀論みたい」と言ってミキが笑った。
「今日はもう遅いから」ユズキが優しく遮った。「明日また話そうよ」
玄関に着くと、三人は上履きを履き替え校舎を出た。外は真っ暗で、街灯の明かりだけが校門までの道を照らしている。
「じゃあ、また明日」
三人それぞれ違う方向へ歩き出す前、なんとなく無意識のように振り返って校舎を見上げた。三階の窓がほんのり明るい。誰かが残っているのだろうか。
ユズキは制服のポケットの中の藤色の本に触れた。明日から始まる資料整理で、この本の謎も少しずつ解けていくのかもしれない...。
「お、よく来てくれたね」教頭先生は温かな笑顔を向けた。「実は君たちに特別なお願いがあって...」
教頭はアルバムを一冊手に取り、その表紙には「昭和36年度 文化祭記録」と薄れかかった文字で記されていた。
教頭先生がページを開くと、モノクロの写真が並んでいる。
「これは当校の古い卒業アルバムなのだけど、今年は学校創立70周年という記念すべき年なんだ。それで文化祭では、特別な展示を企画しているんだよ」
カンナが思わず身を乗り出した。「この制服...今とずいぶん違いますね」
「よく気付いたね」教頭先生は嬉しそうに頷く。「これは昭和48年、今から50年前の写真なんだ。実はね、弓道場の裏の倉庫には、こういった貴重な資料がまだまだ眠っているんだよ」
「それで」教頭先生はユズキの方を見た。「担任の先生から聞いたんだが、ユズキは図書委員で学校の歴史を調べているらしいね?特に、昔の校舎や行事のことに興味があると」
ユズキは少し驚いた表情を見せる。「はい...実は祖母がこの学校の卒業生で、当時の話を聞かされていて...」
「お祖母さんと仲が良いんだね。それは素晴らしい」教頭先生の目が輝いた。「実は、倉庫の資料をしてほしいと思って。特に文化祭の記録は、きっと君たちの世代にも響くものがあるはずだ」
カンナが小さな声で「あの...」と口を開いた。「1985年頃の資料も、その中にありますか?」
「ああ、もちろん」教頭先生は頷いた。「80年代の書類も段ボールにまとめて保管してあるはずだよ。ただ、かなり埃っぽいから気をつけてね」
「大変そうですね」ミキが眉をひそめながら言った。「興味ないわけじゃないんで、やってもいいんですが、部活は休んでも大丈夫ですか?」
「ああ、文化祭を優先して構わない」教頭先生は微笑んだ。「顧問の先生には私から話をしておくよ。それと...」
教頭先生は引き出しから古びた鍵を取り出した。「これが倉庫の鍵だよ。君たちも見たことないんじゃないか?真鍮製のもので骨董品みたいなものだが、この鍵自体も創立当時からのものなんだ」
「それを...私たちだけでやるんですか?」カンナはためらいがちに尋ねる。
「いや、用務係の山田さんが一緒に立ち合ってもらうようお願いしてるよ。この鍵も山田さんに預けておくよ。と言うことで、さっそく明日の放課後から大丈夫かな?」
三人はお互いの顔を見て、何となく承諾した空気で一致した。
「わかりました」ユズキが代表で教頭に答える。
教頭先生は満足げに頷くと、「ありがとう。では、山田さんには私から説明しておくよ。倉庫の鍵は彼に預けるとしよう」と言って、真鍮の古い鍵を机の引き出しにしまった。
職員室を出た三人は、既に暗くなった校舎の廊下を歩いていた。天上の長い照明の列が窓ガラスに映り、まるで外にも誰かがいるかのような錯覚を起こす。
「ねぇ」カンナが急に立ち止まった。「ワンチャン何か変なものを見つけたら...どうする?」
「変なもの?」ミキは首を傾げた。
「たとえば...」カンナは言葉を選びながら続けた。「古い資料の中に、三階の幽霊とか、そう言うことに関してのとんでもない真実をみつけちゃうとか...」
「なんかそれって陰謀論みたい」と言ってミキが笑った。
「今日はもう遅いから」ユズキが優しく遮った。「明日また話そうよ」
玄関に着くと、三人は上履きを履き替え校舎を出た。外は真っ暗で、街灯の明かりだけが校門までの道を照らしている。
「じゃあ、また明日」
三人それぞれ違う方向へ歩き出す前、なんとなく無意識のように振り返って校舎を見上げた。三階の窓がほんのり明るい。誰かが残っているのだろうか。
ユズキは制服のポケットの中の藤色の本に触れた。明日から始まる資料整理で、この本の謎も少しずつ解けていくのかもしれない...。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サクッと読める意味が分かると怖い話
異世界に憧れるとある青年
ホラー
手軽に読めるホラーストーリーを書いていきます。
思いつくがままに書くので基本的に1話完結です。
小説自体あまり書かないので、稚拙な内容は暖かい目で見てもらえると幸いです。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
彼ノ女人禁制地ニテ
フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地――
その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。
柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。
今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。
地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる