上 下
77 / 88
5.『10年』よりも『1日』

(14)

しおりを挟む
 指さされた人物の時間が、一瞬だけど停止する。
 二度の、まばたき。
「……え?」
「だから、きみに奪われたの。私の……、ファーストキス」
 もう一度、今度は身体もむけて繰り返すと、目の前の人物がイケメンらしからぬ呆けた表情を浮かべてから、前髪をかきあげ、ゆっくりと首を左右にふった。
「……ごめん。意味が、よく……わからない」
「何度も言わせないでよ。こっちだって、は、恥ずかしいんだからね? 私のファーストキスを奪ったのは、他ならないき・み・自・身なの!」
 強調しながらの言い方がよかったのか、ようやく理解したらしい秋斗くんは、「ははは」と明らかに引きつった笑いを浮かべた。
「冗談でしょ、美結さん。だって、全然身に覚えがない」
「……でしょうね。私もちゃんと見ていたわけじゃないから、確信はないんだけど。嘘はつかないって約束もしているし。じゃあ、実際に試してみたら? ルーがさっきやろうとしていたことをきみができたら、これ以上ない証拠になるでしょ?」
 私は嘆息しながら、なかば投げやりにそううながした。
 秋斗くんは自分の両手を見やってから、おそるおそる宙にかざす。
 バリバリッドドォオオン!!
 その瞬間、彼の手から真っ白な雷光が飛び出して、そのまま真っすぐにルーを貫いていく。声にならない悲鳴をあげながら、ルーがパタッとその場で倒れた。
「!?」
「ほら、できた」
 予測したとおりの結果に、私はあごに手をあてた。
「なんで、どうして……!?」
「だから、言っているじゃない。私の――」
「どうして覚えていないんだ、おれ! 美結さんと、美結さんとキスしたらしいのに! しかも、ファーストキス!!」
「って、そっちかいっ」
 私のツッコミに反応するように、ところどころ黒焦げになったルーが、ガバッと身体を起こした。
「なぜだ!? なぜに、こうならなきゃならない!? オレ様の予定と、まったく違うではないか!」
 そうでしょうねえ……
 なんだかちょっとかわいそうになって、私はルーを見る。
 「ねえ、美結さん」と切羽詰まったような秋斗くんの声に、何事かとふりむいてみれば、真剣な藍色の眼差しにぶつかって、私は不覚にも頬が熱くなるのを感じてしまった。けど……
「覚えていないから、もう一回いい? 今度は、ちゃんと記憶にすりこむから」
「はあ!? すりこむってなに!? 覚えていないからって、い、いいいい、いいわけないでしょう!?」
 真面目な顔でなにを言い出すの、このひと!?
「だって美結さん、キスくらいどうってことないってさっき言ってたじゃないか」
「た、確かに言ったけど、相手にもよるわっ」
「相手? おれじゃ、駄目ってこと……?」
 すぐさま悲しげな表情になっていく秋斗くんに、私はうぐっとつまる。
 このすがりつくような瞳に私が弱いってこと、絶対わかってやっているでしょ!?
 ああああ、もう! この、確信犯っ!
「だ、だがしかし! もし仮にファーストが済んでいたとしても、先刻のがセカンドキスになる。ならば、我が第二の力は戻っているはずだ!」
「――やっぱりきみは滅さないといけないみたいだね、ルールヴィス!」
 腰の剣を抜いて、秋斗くんがルーに走り寄っていく。
 しばらく黙って、二人の攻防戦を眺めていたけれど。
 いつまで経っても、ルーの第二の力が発動されたのかされていないのか判断がつきそうにない。……まあ、判断もなにも最初から結果は出ているんだけど。
 さすがにこのままというわけにもいかなくて、私はゆっくりと口をひらいた。
「あー……えっと。再びシリアスな流れに水をさすみたいで悪いんだけど、私、セカンドキスも奪われちゃっているのよね」
「んなっ!?」
「だれに!?」
 驚愕したルーと秋斗くんの叫びがかさなって、こだまする。
 むけられた二対の藍色の瞳を交互に見ていた私は、ひしひしとしたデジャブに襲われながら、一応答える。
 それを皮切りに、さっきと似たような展開が繰り返され始めた。
「なぜだ!? なぜに、こうならなきゃならない!? 一度ならず、二度までも! オレ様の予定と、まったく違うではないか!」
「どうして覚えていないんだ、おれ! 美結さんと……、美結さんとキスしたらしいのに! しかも、セカンドキスまで!!」
 ただただ苦笑しながら見守っていた私は、そのうちに言いようのない疲労に見舞われて、深々と嘆息した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

アニラジロデオ ~夜中に声優ラジオなんて聴いてないでさっさと寝な!

坪庭 芝特訓
恋愛
 女子高生の零児(れいじ 黒髪アーモンドアイの方)と響季(ひびき 茶髪眼鏡の方)は、深夜の声優ラジオ界隈で暗躍するネタ職人。  零児は「ネタコーナーさえあればどんなラジオ番組にも現れ、オモシロネタを放り込む」、響季は「ノベルティグッズさえ貰えればどんなラジオ番組にもメールを送る」というスタンスでそれぞれネタを送ってきた。  接点のなかった二人だが、ある日零児が献結 (※10代の子限定の献血)ルームでラジオ番組のノベルティグッズを手にしているところを響季が見つける。  零児が同じネタ職人ではないかと勘付いた響季は、献結ルームの職員さん、看護師さん達の力も借り、なんとかしてその証拠を掴みたい、彼女のラジオネームを知りたいと奔走する。 ここから第四部その2⇒いつしか響季のことを本気で好きになっていた零児は、その熱に浮かされ彼女の核とも言える面白さを失いつつあった。  それに気付き、零児の元から走り去った響季。  そして突如舞い込む百合営業声優の入籍話と、みんな大好きプリント自習。  プリントを5分でやっつけた響季は零児とのことを柿内君に相談するが、いつしか話は今や親友となった二人の出会いと柿内君の過去のこと、更に零児と響季の実験の日々の話へと続く。  一学年上の生徒相手に、お笑い営業をしていた少女。  夜の街で、大人相手に育った少年。  危うい少女達の告白百人組手、からのKissing図書館デート。  その少女達は今や心が離れていた。  ってそんな話どうでもいいから彼女達の仲を修復する解決策を!  そうだVogue対決だ!  勝った方には当選したけど全く行く気のしない献結啓蒙ライブのチケットをプレゼント!  ひゃだ!それってとってもいいアイデア!  そんな感じでギャルパイセンと先生達を巻き込み、ハイスクールがダンスフロアに。 R15指定ですが、高濃度百合分補給のためにたまにそういうのが出るよというレベル、かつ欠番扱いです。 読み飛ばしてもらっても大丈夫です。 検索用キーワード 百合ん百合ん女子高生/よくわかる献血/ハガキ職人講座/ラジオと献血/百合声優の結婚報告/プリント自習/処世術としてのオネエキャラ/告白タイム/ギャルゲー収録直後の声優コメント/雑誌じゃない方のVOGUE/若者の缶コーヒー離れ

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...