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第18話 多分聞いてはダメだった*ユリア
しおりを挟む「あん?なんつったんだよ。俺が用があるのはお前じゃえねぞ」
短剣を持った男はカリン様に短剣を向けると脅すように威嚇した。
その間、カテール様は扉の方を見てずっと黙っていた。
「そう、私が用があるのは貴女なんだけど。ああ、わたくし、カトリーナ・ローゼンハインよ」
「お前が、カトリーナか」
カリン様がそう名乗ると、吐き捨てるようにその名前を口にし、男の目つきは一層怖く、鋭くなった。
『陛下、宰相様、リリアン・シュティールです。失礼いたします』
『ユリアか。さそっく本題に入るぞ』
わたくしがお母さまからあの話を聞いた後、お父様と兄様や旦那様がいる執務室でお母さまとある話を聞いた。
『カリン様がいらしているのは本当ですわ。それで、陛下――いいえ、兄様たちの方が詳しいかもね。……本当は――本当にカリン様には王急に来てほしくなかったのでしょう?だって、兄様たちがそろっているなんておかしいもの』
『リリ、言ってくれるな。確かに父は家には帰ってないが、俺はお前のことを心配して手紙を送っているだろうが。兄は本気で心配しているんだぞ』
そう言うとお母さまが兄様のことを睨んだ。
たしかに、お母さまが言いたいことは一理あるのだ。だって、ここのところ、家にも領地にも行けてないし、帰れていないのだから。それこそ、この家族全員が。わたくしがこの間家に帰った時だってお母さましか家にいなかったのだもの。わたくしもあの時はびっくりしましたわ。いつもは家族全員でそろっていたのに、って。
『あ、そうですか。で、用件は何なの?っていうか、わたくし質問しているんだけれど。カリン様には本当に来てほしくなかったのでしょう?』
『うむ、そうだ。カリンには来てほしくなかったのに、コルネリアが呼んだとなれば何も言えなくてな。すまない、リリアン』
陛下はわたくしに向かってやれやれという素振りを見せながら頭を下げてきた。
周りは陛下のことを怖い人だって思っている人も多いみたいだけど、本当は心が広くておおらかで優しい心の持ち主なのですよ。おとっりしているから思わず伯父様!って呼びたくなる時もあるのだけれど、そこは一流の使用人と貴族のプライドにかけて我慢していますよ。
だからと言って、わたくしなどに頭を下げるのはどうかとも思いますけれどね。
『いいえ、陛下が謝られるようなことではございませんわ。全てはカリン様が悪いのですから』
『ユリア、それはいすぎだと思うぞ。しかしなぁ、これはシュティール侯爵、報告をしてくれるか。おぬしの方が詳しいだろう?』
『は、陛下。報告いたします。というか、もう報告しましたがね。カリンが来たとなれば話はべつです。うちの可愛い娘が来ているのですからね。さあ、鼠捕りのやりがいがありそうですね。で、来てほしくなかったのですよ』
『あなた――シュティール侯爵、陛下の前でやめてもらえますか?』
いきなり親ばか度全開のお父様は通常運転。それを見てお母さまはお父様のことを軽く睨んだ。――これも勿論お母さまとお父様があった時の通常運転。
うん、みんな分かっているから。お母さまはそんなお父様のことが好きで、お父様はそんなお母様のことが好きなんだよね。
『そ、そんな。ハニー――ジョセリン、そんな冷たいことは言わないでよ、ね。――ゴホンッ、陛下、申し訳ありません。うちの娘が心配でね。これは私の気持ちさ。――で、鼠の件でしたっけ。いま、罠を張ってうちの人が見ているので大丈夫だとは思います』
これは、報告と取れば良いものか、親ばかと取れば良いものか。可哀想だし仕方がないから、前者としてとっておきましょうかね。娘は別に、父には同情しませんからね。じゃなくて……。
『で、なんのの?お父様。罠張っているって言ったて、危険なことには間違いないんでしょう?それとも、カリン様が余計な事をするからいけない訳なの?』
『こら、ユリア。陛下の前でおやめなさい。――失礼いたしました』
お母さまは私のことを軽く睨むと陛下に謝った。そしてそれを、ほわほわと見つめている兄の姿があった。
『うむ、関係ないぞ。大丈夫だ。シュティール侯爵の娘好きは昔からだのもな。ところで、罠という事に関してもう少し詳しく話してくれるか』
『罠は罠ですよ、陛下。鼠取りの罠が最近入りましてね。それを試してみたい、とちょうど私達で話していたところなのです。そしたらうちの者がいい情報を持ってきましてね。それで、うちの者が四、五人宰相の執務室についているので大丈夫ですよ。ところがです、公爵令嬢がいたら、罠を張った意味が無くなるではありませんか』
『――まさかお父様、馬鹿なんですか?お兄様まで揃いも揃って』
私だって流石に、そんな事は頭の片隅にもなかった。……仕事好きなお父様よ、娘は理解が悪かった。
『馬鹿?そんなはずはないだろう。しかし、これからに備えても罠の可能性を試してみるのは大切なことだ』
『いやいや、これからも何もカリン様が動いてしまうから意味が無いでしょうが!』
馬鹿なの?やっぱり。でも……これからまた、刺客が来る情報を掴んでいるということ。なのに、何故そこまで分かっていて……。
『リリアン、侯爵を問い詰めるのはそこまでにしておこうではないか。それにしても、刺客を送って我が国に――王家に挑発するなど、勇気のあるものだな』
国王様は不敵に笑った。それぞまさに、支配者の顔とでも言うように。
『陛下。その件に関しては宰相閣下とロイエンターエル公爵閣下とされたほうがよろしいかと。我々はそれに従い、調査し動くだけです』
兄様は流石、当代とも言うべきだろうか。お父様は息子の仕事を眺めているだけだった。
のだけれど、わたしここにいてはいけないのでは無いわけ?
お母様は最高位の女官長だから分かるし、お父様は仕事がら。兄様だって、伊達に特務隊の一員なわけじゃないからね、うちの家柄上、こういう話には深く関りがあるのだけど。
私はだめだと思うの。ねえ、お母さま!
しかし、私がいくら目配せしても、気づかないふりをやりとうしたお母さまであった――。
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