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ベレーナ・ターン2
しおりを挟む只今わたくしはとても不機嫌極まりないです。とにかく自分で自覚していますので何も言わないでほしいですわ。
大体、父も父なのよ!明日までに決めてこい!って言ったのは父くせに、その日になったらいきなり決められているなんて!ひどすぎる!何なのよ、あの人は!
で、只今義母様とサロンでお茶会をしています。
ゆったりと優雅に紅茶を口にして、それとは似合わぬ口調で話しております。
えっ、義母様は?って、義母様はおおらかな方なので(誰もが認める)いつもと変わらない、少しのんきな口調で話していますわ。こういう非常時もそういう態度が取れる義母様はすごいと思います。
はぁ、ここまで来ると怒る気もなくなると言うか、呆れるというか、関心というのでしょうか、この感情は。
とにかく、兄のお二方は笑っているし、父は怒っているのか話を聞いてもらうことすらできない状況で、妹は……、カトリーナには伏せられているのか特に変わりないけれどね、はぁ、全くどうすれば良いのやら、はぁ。今日何回溜息ついているのかしら、わたくしは。っていうか、この台詞何回言うことになるのかしら……。(おいっ!)
そんなわたくしのことを見かねた義母様は私におっとりとした口調で、手にしたティーカップをテーブルに置くと
話し始めました。口元に浮かべていたその微笑みが少し寂しそうで、わたくしはびっくりし、わずかに息をのんだ。
「あのね、ベレーナさん。旦那様も心配していらしたのは事実なんですよ。キャサリン様が結婚のことだけは最後まできにしていらしたんです。色んな意味でですよ。そんなことを考えていた旦那様は、娘が結婚するというのは一番の悩みのタネだったんですわね」
そう、義母様がはなし始めたのは意外なる事実と、その気持だった。
今思うと、わたくしも頭に血が上って、正常な判断ができていなかっただけかもしれない。それはわたくしにとってはとても恥ずかしいことで、一人赤面した。
そんなわたくしの様子に義母様は気づかなかったからなのか、それとも気づいて何も言わなかったのかは分からない。けれど、義母様は表情には何も出さずに、これまでと変わらぬ口調で話を続けた。
「それでね、ベレーナさん。ベレーナさんは今、思うことがたくさんあるかもしれないのだけれど、それと同じで旦那様も思うことが沢山あって、そしてそんなベレーナさんのことを心配していらしたの。だから、私では駄目かもしれないけれど、いくら血が繋がらないといえどもよ、親子ですから私に言ってくださると嬉しいですわ」
父が心配している、そのことはわたくしも薄々気づいていた。でも、あの父に限ってそんなことをするはずがない、そう決めつけて、いや、そう信じたかった。
こういうことを言ってくださる義母様はとても嬉しいし、優しい方だと思います。義母様はおおらかなのでこういう考え方で私達の間に入ってくれているんだな、って感心するのだけれど……。問題はこの後なのよね。
「ええ、ありがとうございます、義母様。でもね、やっぱり、私の問題でもあるから義母様にはとても言えないような恥じ入る話なのですわ」
そうやんわりときっぱり断ると、義母様は少し寂しそうな表情を見せて再び紅茶に口をつけ、言った。
「あのね、ベレーナさん、そんなに恥ずかしがらなくてもよろしいのよ。親子でしょうにねえ。私に言ってくださいませな」
そうやけにグイグイとくる義母様。いや、恥ずかしがっているわけではないのだけれど、どうしてそういう思考に至るのかしら。大体、言いたくないことだっているでしょう。なんで言わなければいけないのよ。でもこう言うと義母様は……。
わたくしはごまかすように紅茶を飲み、やんわりと断ろうとしたのだが。
「いや、その、別にそういうことではなくて……」
そう言うとあからさまにひどく傷ついたという様子を見せる義母様。
「ええ、恥ずかしいのはわかりますわ。初恋というものはそういうものですものね」
いきなり変なことを口走りだした義母様である。びっくりしてホーっと義母様の話を聞いていたのだが。
「ベレーナさん、聞いておられますか?そんなことでは、この後、結婚できなくなってしまいますわよ。大体、〇〇家の子息とは繋がりがあったのではなくて?」
いきなり変なことを言わないでくれますか?義母様。あれはわたくしの友人ってだけで、そんな関係は無いわよ!
仕方ないので、やんわりと断りを……。
「いえ、あれは別にそういうことでは……」
「悩みがあるなら言ってくださってよろしいのですわ。そんなことで旦那様も心配していらすのですわ。縁談なら……」
ピクってわたくしの眉毛が上がった。気づいたら私は怒鳴っていた。
「ええ、縁談のことなら義母様が心配されなくてもよろしいですわ!お父様のことだって、義母様の考えすぎですわよ!そんなの、わたくしだって分かっております!」
言った途端に私は後悔した。
義母様がフルフルと体を震わせて、悲しそうに言った。
「んまぁ、ベレーナさん……そんな!!」
だが気づいたときにはもう遅かったのだ。
「ベレーナさんはひどいですわ!先程のようなお言葉はあんまりですわ!わたくしはベレーナさんのことを心配していっていると言うのに。……いくら親子と申せも、所詮血の繋がらない親子ですわ。わたくしの思いがベレーナさんに届かないのは、血が繋がらないからでしょうかね」
そう言うと、
「わたくし、悲しゅうございますわ!」
と言って大げさに泣き出した。
はぁ、なんでこうなるかなぁ。わたくしはため息を付いた。それも、いっつもいっつもよ。なんで毎回こうなるかなぁ。(わたくしのせいじゃないからね!きっと)
わたくしが十分まっとうな令嬢では無いことは自覚していますわ。縁談はイチから百までけるし、問題はよく起こすし、父に心配されてばっかりですし。
でもね、最近わたくしは思うの。
この義母様も十分まっとうでは無いと思うのだけれどね!!!
……だいぶ時間がたったのにまだ義母様はシクシクと大げさに泣いているのよ!
誰かどうにかしてよ!誰でもいいからお願いよ!
あ~あ、兄様の縁談でもあれば義母様の矛先がそっちに向いてくれるのになぁ。だれかどうかしてくれないかなぁ。
しばらくすると、救世主が現れた。ユニスだ。
「あの、奥様、お嬢様。旦那様がお嬢様のことを執務室で呼んでます。そちらに行ったほうがよろしいかと思います」
いつもだったら、父のお説教は嫌だが、今日は義母様のこの話のほうが辛い!
「義母様、良いでしょうか……?」
そう言うとひどく未練がましく見つめられた。が、ユニスの、
「旦那さまが待っていらっしゃいますわよ」
という一言で、折れたらしい。諦めた様子でこういった。
「ええ、また今度、お話いましょうねベレーナさん」
または絶対に嫌です!!
「ありがとうございます!義母様」
そのご、義母様がため息を付いていたがそれらはもう無視することにしますわ。
サロンから出て、ユニスにこそっと言った。
「ありがとう、ユニス」
「お役に立てて光栄です、お嬢様」
やっぱりユニスは優しかった。
「ベレーナ!パーティーでは絶対だぞ!!良いか!!」
またうるさいです。いい加減にしてくれないかしら。わたくしは疲れているって言っているの。
「嫌です。疲れているのにうるさいですわ!!!」
「こらベレーナ!!!ソフィアはそんなにうるさく……、分かった。絶対にパーティーまでだぞ!!!……ソフィアのことはすまなかった」
「お父様?」
珍しく謝ってくるお父様は少し小さく見えた。
って、本当に義母様はうるさいわよ!!!どうにかしてほしいですわ!!
「絶対だぞ、ベレーナ!!!」
うるっさいわねぇ!
この父親も義母様も絶対まともじゃ無いわよ!!!!!
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