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三章+

体育祭の噂

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――キリキリキリ……ピッ! パン!――

 ロイド君の放った矢は真っすぐに飛んでいき、100mは離れているであろう丸太のド真ん中に命中する。凄いな。たった数日でこの腕前か。オレなんか弓どころかボウガンでも30mの距離も怪しいというのに……

「やるなぁお前。ホントに素人なのか?」

「えぇ。ここ数日は弓術の講師に来てもらって指導を受けてはいますが、初めて触ったのは数日前です」

「はー……。それでこの腕かい? 玉木の情報には脱帽するねぇ……」

「え? 僕の弓の腕を見抜いたのは守護騎士ではないのですか?」

「なんだ? 玉木の事情はまだ聞いていないのか?」

「事情?」

「ふむ……他にもオレ達の知らん情報があるかもしれんし、改めて情報共有しとくか。おーい! ちょっと集まってくれ!!」

 ゼルクさんの掛け声に、別々に訓練していた全員が集まった。そしてロイド君とエレナちゃんに、現段階で判明している情報と、オレの事情が王子の口から説明される。

「以上が敵味方の情報と、玉木が召喚された経緯だ。サラ、玉木。問題なかったか?」

「はい。問題ありません」

「ピッ!」

「別の世界……。なんと言っていいか……言葉が出ないね……」

「その……本格的に魔人と戦うのは来年からなんですか?」

「玉木の知っている情報では、な。だが、現状は玉木の知る状況と大きく異なっている。断定するのは危険だろう」

 そうなんだよな。サラちゃんのことは勿論だけど、そもそも味方にライバル令嬢達が全員揃ってる状況もおかしいだろう。ストーリーは見ていないから断定は出来ないけど、乙女ゲームだと考えれば、いても1人か2人だろう。

「だからロイドには、早めに魔力を扱えるようになってほしい。身体能力が上がれば張りの強い弓も扱える。そうなれば飛距離も威力も上がっていく筈だ」

「成程。魔力を扱う感覚は他のメンバーから学べばいいかい?」

「そうだな……。クレア。今日は守護騎士に説明は頼めるか?」

「あ、はい。えっと……。……う……。難しいみたいです。ノームはあまり人前で説明するのは嫌みたいで」

「そうか。なら説明はしなくても良い。だが、仲間だから一応自己紹介をお願いしたいんだが、頼めるか?」

「あ、それならーー来て! ノーム!」

 そうして呼ばれたのは……土のゴーレム? だけど見た目はホビット? ひげ無しドワーフ? 小学校低学年のぽっちゃりした男の子のようだ。見た目と名前からして土の守護騎士なんだろうが……

「はいです。ボク、ノームです。よろしく、です」

「あぁ。はじめまして。シルヴァ・グレイクスだ。君は、説明は苦手なのか?」

「です。説明、できないです。話、苦手です」

「ホントに守護騎士はバラエティに富んでんなぁ……。ウンディーネやドリアードとも全然雰囲気が違うな。お前はどんな事が出来るんだ? 説明が苦手なら、クレアに頼んで実践してくれてもいいからよ」

「じゃあーー」

 そう言われ、クレアちゃんを見るノーム。

「えっと……ノームは大地を操れるみたいです。例えば……ノーム!」

「はいです」

 ノームの目の前に土の壁が出来る。圧さ1m、幅3m、高さ2m といった所。成程、地形変化も出来るのか。

「ほう。土壁……。盾ってことか? ふーむ……っら!」

 ゼルクさんが土壁目掛けて、横一閃に斬り払う。途中までは問題なく刃が入ったが、それでも真ん中辺りで止まる。強度は充分あるようだ。というかこんな壁を半分とはいえ、切り込めるゼルクさんは人間やめすぎでは?

「なるほど。かなりの強度だ。その辺の弓や槍は通らねぇな」

「そうだね。兄貴の斬撃でも切れないならなかなかの性能だね」

「シルヴァ君、そうなのかい? すごくすんなり切れた印象だが?」

「いや、師匠は下手な石壁なら切ってしまうからな。ようは下手な城壁よりも硬いということだ」

「そ……そうかい……。噂には聞いていたが、双竜というのはとんでもないね……」

「クレア。この壁、お前の練度次第で強度は上がるのか?」

「あ、はい。そうみたいです。上手く扱えるようになれば魔力を練って、もっともっと強度を持たせられるみたいです」

「なら、充分魔人との戦いに組み込めるな。なかなか頼りになる能力だ」

「ありがとうございます、です」

 ゼルクさんは顎に手を当て、ブツブツと分析を続ける。この人よりも強いであろう魔人達との戦いか……。オレは力が無い分、頭を使って戦えるようにした方が良さそうだな……

 先程から珍しく黙っていたマリアちゃんに、サラちゃんが話しかける。

「マリア、貴方今日は随分と大人しいわね? ノームに聞きたい事とかあるんじゃないの?」

「説明が苦手ということでしたからね。聞きたい事、知りたい事は山ほどあるので、後でクレアちゃんに聞かせてもらいます」


「ふむ。ロイドの力もノームの力もこれで大体わかったな」

「はい。魔人との戦いがいつになるかはわかりませんが、私達は今の所順調といって差し支えないと思います」


「それにしても賑やかになってきたねぇ。もう、小屋での会議は無理だね」

「そうですね。でも、私一人で訓練してたことを思い返すと……私、今、とても楽しいです!」


「……メルク。クレア嬢はなかなかの天然たらしじゃないか?」

「カイウスさんが言います? 貴方も大概だと思いますよ?」

「そうだね。僕もメルク君の言う通りだと思う」


「うふふ……。最高だわ……」

「あの、フローラさん……リリー様は何を笑っているんでしょうか?」

「私にもわかりかねます。ただ、あまり考えない方がいいかと思います。エレナ様」


 うーん。大人数だなぁ。まぁ、攻略キャラ+ライバル令嬢が4組もいればな……
 あ、そう言えば。


「サラちゃん」

「ん? なに?」

「そういえば、近いうちに体育祭? があるんだよね?」

「良く知ってるわね? ロイド様の調査の時に?」

「うん。それで気になったんだけど、クラス対抗戦の代表にクレアちゃんに出て欲しいーーというか神鏡の力を見たい、って声が凄く多かったんだけど、これってどんなことするの?」

「あぁ、成程……クラス対抗戦にね……。その説明はクレアにもした方がいいわね。シルヴァ様?」

「どうした?」

「体育祭のクラス対抗戦なんですがーー学園内で、クレアーーというより、神鏡の使い手に出て欲しいという声が多く挙がっているようで……」

「あぁ、そうだね。私も実行委員会から相談を受けたよ。どうにかして出場してもらえないかってね。皆にも説明しておこうか。
 皆。聞いてくれ」

 王子から、体育祭が近い事。そのクラス対抗戦に、クレアちゃんの出場が切望されている事が説明された。

 学園の体育祭は各学年の、AクラスとBクラス。この二つが競う事になる。そして、クラス対抗戦は体育祭の目玉だ。
 各クラスの代表が、出場し、3 VS 3 で戦う。
 出場メンバーは、それぞれ頭の部分に風船のついたヘッドギアをつける。この風船が割られた者から失格となる、バトルロイヤル形式の戦いだ。そして3人のうち、大将に指定された風船が割られたチームの敗北となる。
 要はメンバー2人がやられても、相手の大将の風船を割れば勝利だ。

 なかなかに面白そうなルールだが、それに神鏡の使い手が出場? クレアちゃんは1人で兵士数人と戦える。それなのに相手は学生3人? クレアちゃんに負ける要素が無さすぎないか?


「それで、私としてはクレアには是非、出て欲しいと考えている」

「え!? で、でも……私が神鏡の力を使ったらーー」

「私も、クレアには出てもらうべきだと思うわ」

「サラ様まで!? 何か理由があるんですか?」

「えぇ。ロイド様の件で、玉木には学園の噂の調査をしてもらったじゃない……? どうも、学園の中には、魔人どころか、神剣や神鏡のことすら知らないような生徒もいるようなの」

「は? 貴族の子息の通う学園だろ? そんなバカもいんのか?」

「はい。そして、悪い事に……彼らはクレアを唯の平民だと見下していたそうなんです。偶々私達が近くにいるから手出しはして来ていないようですが……」

「そういう事かい。つまり、バカへのPRってことだね?」

「そうです。クレア? どう? 出場してくれない?」

「わ、わかりました。でも、他のメンバーは……?」

「出来れば私達が出たいけどね。クラスでの代表戦だ。私達だけで安易に決められる事ではないだろう。実行委員会達とも相談して……になるな」

 ふむ。ここにいる皆が出場すればいい勝負になるんだろうが……。まぁ、そこは成り行き次第なんだろう。観戦する側としてはこのメンバーでの戦いが見てみたいんだけどな。

「シルヴァ。そういえば最後の仲間、スレイヤについてはどうなっている?」

「それが……彼は今、休学届を出しているそうなんです」

「休学届?」

「はい。詳細については教師陣も把握していないようですがーー1ヵ月程は学校に来ないようです」

「そうか……。だがまぁ、1ヵ月なら後回しでも構わんか。おし、じゃあお前ら! 今日の分の訓練を始めるぞ!」

「「はい!」」


 こうして、最後のメンバー、スレイヤ君の勧誘の延期と、近日行われる体育祭にクレアちゃんが出場することが決まった。
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