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三章

学園のクラス分け

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 二度目の説得に失敗した日の放課後。
 中間試験も終わり、オレ達は久々にゼルクさんの家に集まって訓練をしている。
 そのついでにと、サラちゃんが今日の事を全員に共有する。なんとかロイド君を仲間に加えられるように。


「ーー成程。彼がそんな事を……」

「はい。ですが確かに、今の彼には命をかけるだけの理由が存在しません」

「そうだな。彼は魔人との戦いに加わらずともあの能力だ。すぐに頭角を表すだろうね」

「えぇ。ですので、彼に魔人との戦いに加わるメリットを提示出来ればと思って」

 サラちゃんの言葉に王子が頷く。
 それにしても、サラちゃん達以上の成績という事以上に、彼女らがそこまで認めるほどの人材だというのが驚きだな。

 黙って二人の話を聞いていたゼルクさんが、顎を撫でながら王子に問いかける。

「金で解決出来ねぇものか? 単純に報奨金を与えるとかよ」

「流石に国のお金をそんなにポンポン出せませんよ。
 それに、師匠達の時は給料1年分でした。
 しかし彼の能力をかんがみた上で、彼が納得する金額となるとーー恐らく師匠達に渡した金額の数十倍近くになると思います」

「はぁ!? それほどか!?」

「えぇ。彼の能力はかなり政務や経済向きですからね。視野が広く細かいところまで見れる。勉学でも私やサラ以上の成績を誇っています。
 もし、戦いに加わらず、そちらに集中すれば……一財産築くでしょうね」

「ちっ! まためんどくせぇやつだなぁ……。だが、乗馬に弓だろ? それに話を聞くと指揮能力も高そうだ。それは確かに仲間にしときたい……」

 ゼルクさんがうーむと唸る。
 そう。彼の能力はとにかく高いのだ。ゲームでも数少ない遠距離キャラ。それに様々な支援スキルを持っていた。カイウス君や王子のような目立った強さを持っていたわけでは無いが、痒い所に手が届く性能だった。
 ゼルクさんは暫く考え込んだ後、パっと弾かれたように顔をあげる。

「お、そうだ! じゃあ玉木にソイツを調べさせるのはどうだ!? 玉木ならソイツの欲しいものがわかるだろ!」

 ゼルクさんが名案だとオレに問いかける。
 いや、まぁやろうと思えば出来るけど……。でもなぁ……。

「ピッ! ピッ! ……ピィ……」

「あん? なんだそりゃ? 否定? その他?」

 オレの歯切れの悪い回答にゼルクさんがいぶかしむ。と、すぐさまゼリカさんがフォローしてくれる。

「アレじゃないかい? 出来ればやりたくないけど状況次第では、ってことじゃないかい?」

「ピッ!」

 オレが力強く肯定を示すと、王子も理解してくれたようだ。

「なるほど。確かにそうだな。玉木ならどんな事だって調べられる。だが、味方には出来る限り避けないとな。親しき仲にも礼儀あり、ということだろう?」

「ピッ!」

 そう! そうなんだよ!
 ホントにこの場にいる人たちは理解が早い。
 オレはプライバシーを侵害しまくる変態魔人とか思われたくないのだ。ドゥークやガスクには遠慮なく調査していたが、流石に悪事を働いたわけでもない相手のプライベートを盗み見なんてしたくない。今後一緒に戦うかもしれないのだから尚更だ。
 勿論、そうは言っても魔人との戦いには備えないといけない。最悪は心を鬼にして弱みを探すしかない。

 ……スゲェやりたくねぇけど……


「シルヴァ。確かにそれも一理ある。だが、もたもたしている余裕はないんじゃないか? オレ達も大分感覚はつかめてはきた。それでも、まだまだ強くなるには時間がかかる。だからこそ、魔力の訓練には早めに参加してもらうべきだ」

「そうですね。ドリアードさんじゃないですけど、一朝一夕で出来る事じゃないですからね」

 綺麗ごとだけではいけないと理解しているのだろう。カイウス君とメルク君が、自分の意見を述べる。
 そうなんだよな。魔人との戦いは三年後。タイムリミットがあるのだ。
 その上それはゲームでの話。ここまで状況を変えてしまった以上、オレもある程度は覚悟を決めなければならないだろう。それこそ、汚名を被ってでも、だ。

「そうだな……。なら、2週間、私達だけでロイドについて出来る限りの調査をしようか」

「調査ですか?」

 王子の言葉に、クレアちゃんが首をかしげる。

「あぁ。幸い、私たちの学年は2クラスしかない。そしてロイドと同じクラスと言えばーー」

 王子がカイウス君をチラと見る。

「……そうか。オレ達か……」

 カイウス君が溜息混じりに呟く。
 そう。聖クレイス学園において、彼らの学年は1クラス40人の計2クラスしかない。
 貴族の子息だけが通う学園とはいえ少なすぎる気もする。だが、この世界は中世ヨーロッパにも似た雰囲気だというのに、出生率や家族構成は現代日本に近いらしい。

 例えばシルフォード家は早い段階でサラちゃんが王子と婚約していたのにも関わらず、養子も取らずに未だにサラちゃん一人っ子だ。
 残りのメンバーにしても、メルク君は一人っ子だし、それ以外も4人以上の兄弟持ちはいない。
 王子ですら3人しか兄弟がいないというのだから驚きだ。周辺国との戦争……とまではいかなくても小競り合いはあるらしいからそれなりに戦死者も出るだろうに、大丈夫なのか?

 ーーと、この世界について考えていたが、慌てて思考を切り替える。
 ちょっと話が逸れてしまった。えーと、サラちゃんとクレアちゃん、それに王子が同じクラス。そして残りはもう一つのクラスだ。
 だからつまりーー

「つまりカイウスさんと僕。それにマリアにリリーさんとで調査するということですね」

 メルク君が頷く。彼もカイウス君一人に調査を任せる気はないようだ。やっぱりこの二人は真面目だな。

「そうだな。だが、お前はともかくーー」

 カイウス君が隅にいるマリアちゃんとリリーちゃんに怪訝な視線を向ける。 

「ーーマリアとリリーは役に立つのか?」

 自分の婚約者だというのにあんまりな言いぐさだ。なのになんでだろうか。納得しかない。
 そんなカイウス君に、リリーちゃんは不服そうに腕を組む。

「カイウス様? マリアはともかく私までーー」

「確かに興味は微塵もわきませんね」

 リリーちゃんを遮るように、マリアちゃんがカイウス君の言葉を肯定する。否定しきれなかったリリーちゃんは何とも言えない微妙な表情だ。

「ーーマリア。貴方は少しくらい、否定をしたらどう?」

「では、リリーにはやる気があるんですか?」

「…………」

 マリアちゃんの言葉に視線を逸らすリリーちゃん。そんな彼女らの様子に、カイウス君は諦めたのだろう。メルク君の肩を掴んで神剣な顔をする。

「……メルク……頼むぞ……。お前だけが頼りだ……!」

 そんなカイウス君に、流石のメルク君もフォロー出来ないようだ。彼女らについては触れず、カイウス君に応えるようにメルク君も肩を掴み返す。

「そうですね……。一緒に頑張りましょう」

 切羽詰まったカイウス君と、困り顔のメルク君。
 逸らしていた筈の視線を彼らに向け、鼻息を荒くするリリーちゃん。
 そしてマリアちゃんはそんなリリーちゃんを不思議そうに眺めている。

 ……このメンツ……大丈夫か? 
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