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二章
幕間 主とメイドと使い魔と
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今日は学校も休みで、いつもの訓練も休みだ。そんな中、サラちゃんは天井に視線をやって、昨日の出来事を思い浮かべる。
「昨日は楽しかったなぁ。ね? フローラ?」
「はい。特にゼリカ様やウンディーネさんとは殆ど会話したことなかったですからね」
「へぇ? ウンディーネとも会話したんだ。何を話してたの?」
「色々よ。例えば彼女の恋愛経験について聞いたりね」
「へ? 守護騎士の恋愛?」
何それ。スゲー気になる。
「彼女自身は500年前のグレイクス国王に惚れていたらしいわよ? 大きく強いお方だったって言ってたわ。勿論、クレアの事も主としては好きみたいだけどね」
「へぇ。そうなんだ。でも、それってオレとかに話してもいいの?」
「えぇ。彼女自身も昔の思い出だし、恥ずべき気持ちじゃないって言って堂々としたものだったわ」
「そっか。じゃあドリアードも同じなの?」
「ううん。そこは完全に別みたい。ウンディーネの知る限りではそういう素振りはなかったって」
「ふぅん。じゃあ、彼女の話も聞いてみたいなぁ」
ゲームでは特に意識してなかったけど、完全に一つの人格なんだな。
いや、ゲームとの違いを感じるのは、この世界に来てからずっとだな。
ゲームではただのチートな男だと思っていた王子にも、彼なりの苦悩があった。
攻略キャラを落としていく筈だったクレアちゃんも、悩みながらもずっと努力を続けていた。
そして敵だと思っていたサラちゃんも、凄い所は沢山あるけれど、色んな所で年相応の女の子らしさが垣間見える。
「そっちはどうだったの?」
「うん? あぁ、こっちも色々と話してたよ。まぁ……色恋については全員が無縁だって事が分かったけどね……」
「あぁ……そうね……。それはこっちもよ……」
「あ、やっぱり……? 女子陣もサラちゃん以外、そんな気配無かったもんね……」
「そうなのよ。ウンディーネが過去の恋愛話を話してくれたから良かったけどね。それでも、もう少し恋愛トークもしてみたかったわ。
……あなたたち二人が結ばれてくれても良いんだけどね?」
「申し訳ありません」
「ゴメン」
「もう……。どうしてこういう時だけ意見が合うのよ……」
サラちゃんが項垂れる。いや……だって……。無いものは無いし……
「それで、そちらはそれ以外にはどのような話を?」
「えーと……あ、王子とカイウス君がお互いよりも強くなる事を決意していたよ。メルク君もそれにつられてやる気を出してた」
「やっぱりあのお二人は良いライバル関係なのね。メルク様も強くなってくれれば、とても頼もしいわ」
「ホントにね。あの関係は少し羨ましいや。あ、それとゼルクさんがクレアちゃんへの親バカっぷりを発揮してたよ?」
「そういえば、ゼリカ様もクレア様を溺愛しているようでしたね」
「クスクス……。親バカに溺愛って、どこかの誰かさんたちみたいね?」
オレ達の事? オレ、そこまで親バカかなぁ……?
「魔人。怪訝な顔をしていますが、貴方も大概お嬢様には甘いですよ?」
……え? マジ? フローラさんに言われるほど? でも、彼女ほどのサラちゃん信者にそう言ってもらえるのは、認めてもらえたみたいでちょっと嬉しいかも。
「……何をニマニマしているのですか?」
「なんでもないよ。そっちはどのくらいの時間まで話してたの?」
「えっと、そんなに遅くまでは話してないわよ? 日が変わったくらいかしら?」
「そうですね。あまり遅くなるのは美容の為にもよくありませんから」
「そうよね。玉木達は?」
「オレ達はーー」
ふと、メルク君の騒動が思い浮かぶ。が、流石にコレは彼の名誉の為にも言うべきではないだろう。
「……ほどほどに酔ったところで解散したよ?」
「……何を言い淀んだの?」
「ナンニモナイヨ?」
「またわざとらしい事を……。貴方、隠す気が無いのでは?」
何をバカな。メルク君だって大切な仲間なのだ。それを隠すためなら……出来る限りは努力するかな? 多分、きっと。
「ナンノコトカワカラナイヤ」
「まぁ、良いけどね……。最悪、他の人からも聞けばいいし。でも、玉木がそんな事をするなら……」
「するなら?」
「フローラの広めた玉木の悪評を、更に広めよっかなぁ?」
は? オレの悪評?
「どういうこと!? 昨日はパジャマパーティでしょ!? どうしてそこでオレの悪評が広まるのさ!?」
「いえ。初対面の時の貴方は、私がナイフを突き立てるほどの不審者だったとお話しただけですよ。む? 今も変わりませんね。失礼しました」
「オレの悪評を捏造した上で吹聴しないで!?」
「捏造は一切していませんがね」
「フローラさんの主観ではね!?」
「プッ!? プクク……」
「貴方……どこまで期待外れなんですか……。こちらの予測を超えてくることがありませんね……」
「何その反応!? オレに何の期待をしているの!? オレ、別に芸人になる為に召喚された訳じゃないよね!?」
「貴方はお嬢様のオモチャとして召喚されたのではないのですか?」
「違うよ!? アレ……違うよね……?
サラちゃん! オレを召喚したのはなんでだっけ!?」
フローラさんといつものやり取りを繰り広げ、サラちゃんに話を振る。
だがーー
「…………」
「あれ? サラちゃん? どうしたの?」
彼女の様子がおかしい。急に何かを考え込んでいる。どうしたのだろうか?何か気にかかる事でもあったのか?
「お嬢様? どうされたのですか?」
フローラさんの言葉にも反応がない。
そして少し経ってから彼女は口を開く。
「ねぇ……。玉木。貴方はどうして……召喚されたんだと思う?」
「え? そりゃあ、サラちゃんを冤罪から救う為……じゃないの? 実際、あの時サラちゃんは冤罪を晴らす為に召喚したんでしょ?」
「えぇ。けど、ドゥークの罪を暴いた後、貴方は元の世界に帰る手がかりを見つけた?」
「ううん。特にそれらしいものはないよ」
ドゥークの処刑後、オレは元の世界に帰るかと思ったがそうでもなかった。だから、オレがいつ元の世界に帰れるのか。いや、そもそも帰れるのかどうかも不明だ。
「元々、貴方の知っている知識では、貴方は召喚されるはずじゃなかったんでしょ? けれど、結果的に私達は貴方を召喚出来た。ううん。召喚、してしまった」
「サラちゃん?」
「貴方にはずっと助けてもらっているわ。この前の戦いだって支えてくれた」
「う、うん。そりゃあね」
「けど……だからこそ、私は恐いの。貴方が急にいなくなることが。召喚された理由が分からない以上、いつ消えるかもわからない」
「それは……」
「そして何より、貴方にはきっと……寿命がないわよね?」
「……そうかもね」
そう。それはまだ仮説でしかない。それでも、ほぼほぼ間違いないだろう。食事も睡眠もいらず、必要なのは魔力だけ。そして神剣や神鏡。それに敵の魔人の事を考えれば、寿命が無い。若しくは、人とは違う長い時間を生きるであろうことは容易に想像出来る。
「貴方は……私とフローラ以外に認識されない。今は良い。けど、100年後は? その先は? 誰にも見てもらえず、誰にも聞いてもらえない。なのに……寿命で死ぬことも出来ない。
私は……貴方にそんな運命を押し付けた事を……どう、償えばいいの?」
「お嬢様……」
そう言ってサラちゃんは俯く。
……彼女は冤罪が晴れてから、ずっとこの事が頭をチラついていたのかもしれない。
ふっとフローラさんに目を向けるが、彼女も言葉を失い、その表情は暗い。サラちゃんの言葉に驚かないという事は、きっと彼女も同じ事を考えた事があるのだろう。
「……サラちゃん」
「っ!」
オレが言葉を発すると、サラちゃんの体が震える。きっと……この話をオレに黙っているのも、オレに話すのも、どっちも恐かったんだろう。それは、オレを大切に思ってくれているからこそだ。だからーー
「まず、いつ消えるのか。これに関してはオレも明言出来ない」
「…………」
「けど、それは別にオレだけじゃないよ?」
「……え?」
「サラちゃんだってフローラさんだって、あの王子だって。明日には病気になるかもしれない。事故にあうかもしれない」
「それは……」
「だからさ? 毎日を大切に過ごそう? 何気ない一日だって、そもそも生まれてきて、ここまで生きて来れたことが奇跡みたいなものなんだから。学校生活だって、魔人との戦いの訓練だって、今みたいな時間だって、大切にして日々を過ごすしかないよ」
「わ、わかったわ……」
「次に、二人がいなくなった後の話だ」
「……うん」
「オレもさ。召喚初日、途中でその事がとても恐くなったんだ。魔人による命の危険だけじゃなく、その先の未来への恐怖も加わった。不安でいっぱいになったオレは、あんなにも取り乱した。
今思えば、だから君たちにすがったんだろうね。唯一オレがすがれる相手だったから」
「……そう……よね……」
「けどね? 昨日、ゼルクさんはオレの為に席を用意してくれた。王子はオレとの会話が楽しいと言ってくれた。カイウス君もメルク君も途中から自然にオレと会話してくれた。久しぶりだったよ。あんなに楽しいお酒の席に参加したのは」
「…………」
「だからさ。サラちゃん。オレはもう、この世界での未来に恐怖していない。勿論、相手を選んで関わる必要はあるけどね?
けど、オレのこの力はきっと、色んな人の力になれる。そうしていればきっと、オレが孤独に苦しむ事はない」
「玉木……」
「ね? だからサラちゃんも、オレへの罪悪感に苦しまないで? オレはやっぱり……君のことが好きだからさ? 君が幸せになっている姿を見たいんだよ」
そう言って、優しく抱きかかえる。彼女があの日、オレにそうしてくれたみたいに。
「玉木……ゴメンね……ゴメン……。それと……ありがとう……」
「うん。どういたしまして」
「魔人……」
「どう? フローラさんもこっちに来る? 優しく抱きしめてあげるよ?」
「死んでもゴメンですね」
「あはは。酷いなぁ」
「ですが……」
「ん?」
「玉木、本当に……ありがとうございます」
「……どういたしまして」
頭を下げてくるフローラさんに、オレは右手で頬をかきながら応える。
そうしてその日、オレは覚悟を決めた。もし、元の世界に帰れなかったとしても、この世界で最後まで生き抜くことを。オレを召喚した事を、二人に後悔させないように。
「昨日は楽しかったなぁ。ね? フローラ?」
「はい。特にゼリカ様やウンディーネさんとは殆ど会話したことなかったですからね」
「へぇ? ウンディーネとも会話したんだ。何を話してたの?」
「色々よ。例えば彼女の恋愛経験について聞いたりね」
「へ? 守護騎士の恋愛?」
何それ。スゲー気になる。
「彼女自身は500年前のグレイクス国王に惚れていたらしいわよ? 大きく強いお方だったって言ってたわ。勿論、クレアの事も主としては好きみたいだけどね」
「へぇ。そうなんだ。でも、それってオレとかに話してもいいの?」
「えぇ。彼女自身も昔の思い出だし、恥ずべき気持ちじゃないって言って堂々としたものだったわ」
「そっか。じゃあドリアードも同じなの?」
「ううん。そこは完全に別みたい。ウンディーネの知る限りではそういう素振りはなかったって」
「ふぅん。じゃあ、彼女の話も聞いてみたいなぁ」
ゲームでは特に意識してなかったけど、完全に一つの人格なんだな。
いや、ゲームとの違いを感じるのは、この世界に来てからずっとだな。
ゲームではただのチートな男だと思っていた王子にも、彼なりの苦悩があった。
攻略キャラを落としていく筈だったクレアちゃんも、悩みながらもずっと努力を続けていた。
そして敵だと思っていたサラちゃんも、凄い所は沢山あるけれど、色んな所で年相応の女の子らしさが垣間見える。
「そっちはどうだったの?」
「うん? あぁ、こっちも色々と話してたよ。まぁ……色恋については全員が無縁だって事が分かったけどね……」
「あぁ……そうね……。それはこっちもよ……」
「あ、やっぱり……? 女子陣もサラちゃん以外、そんな気配無かったもんね……」
「そうなのよ。ウンディーネが過去の恋愛話を話してくれたから良かったけどね。それでも、もう少し恋愛トークもしてみたかったわ。
……あなたたち二人が結ばれてくれても良いんだけどね?」
「申し訳ありません」
「ゴメン」
「もう……。どうしてこういう時だけ意見が合うのよ……」
サラちゃんが項垂れる。いや……だって……。無いものは無いし……
「それで、そちらはそれ以外にはどのような話を?」
「えーと……あ、王子とカイウス君がお互いよりも強くなる事を決意していたよ。メルク君もそれにつられてやる気を出してた」
「やっぱりあのお二人は良いライバル関係なのね。メルク様も強くなってくれれば、とても頼もしいわ」
「ホントにね。あの関係は少し羨ましいや。あ、それとゼルクさんがクレアちゃんへの親バカっぷりを発揮してたよ?」
「そういえば、ゼリカ様もクレア様を溺愛しているようでしたね」
「クスクス……。親バカに溺愛って、どこかの誰かさんたちみたいね?」
オレ達の事? オレ、そこまで親バカかなぁ……?
「魔人。怪訝な顔をしていますが、貴方も大概お嬢様には甘いですよ?」
……え? マジ? フローラさんに言われるほど? でも、彼女ほどのサラちゃん信者にそう言ってもらえるのは、認めてもらえたみたいでちょっと嬉しいかも。
「……何をニマニマしているのですか?」
「なんでもないよ。そっちはどのくらいの時間まで話してたの?」
「えっと、そんなに遅くまでは話してないわよ? 日が変わったくらいかしら?」
「そうですね。あまり遅くなるのは美容の為にもよくありませんから」
「そうよね。玉木達は?」
「オレ達はーー」
ふと、メルク君の騒動が思い浮かぶ。が、流石にコレは彼の名誉の為にも言うべきではないだろう。
「……ほどほどに酔ったところで解散したよ?」
「……何を言い淀んだの?」
「ナンニモナイヨ?」
「またわざとらしい事を……。貴方、隠す気が無いのでは?」
何をバカな。メルク君だって大切な仲間なのだ。それを隠すためなら……出来る限りは努力するかな? 多分、きっと。
「ナンノコトカワカラナイヤ」
「まぁ、良いけどね……。最悪、他の人からも聞けばいいし。でも、玉木がそんな事をするなら……」
「するなら?」
「フローラの広めた玉木の悪評を、更に広めよっかなぁ?」
は? オレの悪評?
「どういうこと!? 昨日はパジャマパーティでしょ!? どうしてそこでオレの悪評が広まるのさ!?」
「いえ。初対面の時の貴方は、私がナイフを突き立てるほどの不審者だったとお話しただけですよ。む? 今も変わりませんね。失礼しました」
「オレの悪評を捏造した上で吹聴しないで!?」
「捏造は一切していませんがね」
「フローラさんの主観ではね!?」
「プッ!? プクク……」
「貴方……どこまで期待外れなんですか……。こちらの予測を超えてくることがありませんね……」
「何その反応!? オレに何の期待をしているの!? オレ、別に芸人になる為に召喚された訳じゃないよね!?」
「貴方はお嬢様のオモチャとして召喚されたのではないのですか?」
「違うよ!? アレ……違うよね……?
サラちゃん! オレを召喚したのはなんでだっけ!?」
フローラさんといつものやり取りを繰り広げ、サラちゃんに話を振る。
だがーー
「…………」
「あれ? サラちゃん? どうしたの?」
彼女の様子がおかしい。急に何かを考え込んでいる。どうしたのだろうか?何か気にかかる事でもあったのか?
「お嬢様? どうされたのですか?」
フローラさんの言葉にも反応がない。
そして少し経ってから彼女は口を開く。
「ねぇ……。玉木。貴方はどうして……召喚されたんだと思う?」
「え? そりゃあ、サラちゃんを冤罪から救う為……じゃないの? 実際、あの時サラちゃんは冤罪を晴らす為に召喚したんでしょ?」
「えぇ。けど、ドゥークの罪を暴いた後、貴方は元の世界に帰る手がかりを見つけた?」
「ううん。特にそれらしいものはないよ」
ドゥークの処刑後、オレは元の世界に帰るかと思ったがそうでもなかった。だから、オレがいつ元の世界に帰れるのか。いや、そもそも帰れるのかどうかも不明だ。
「元々、貴方の知っている知識では、貴方は召喚されるはずじゃなかったんでしょ? けれど、結果的に私達は貴方を召喚出来た。ううん。召喚、してしまった」
「サラちゃん?」
「貴方にはずっと助けてもらっているわ。この前の戦いだって支えてくれた」
「う、うん。そりゃあね」
「けど……だからこそ、私は恐いの。貴方が急にいなくなることが。召喚された理由が分からない以上、いつ消えるかもわからない」
「それは……」
「そして何より、貴方にはきっと……寿命がないわよね?」
「……そうかもね」
そう。それはまだ仮説でしかない。それでも、ほぼほぼ間違いないだろう。食事も睡眠もいらず、必要なのは魔力だけ。そして神剣や神鏡。それに敵の魔人の事を考えれば、寿命が無い。若しくは、人とは違う長い時間を生きるであろうことは容易に想像出来る。
「貴方は……私とフローラ以外に認識されない。今は良い。けど、100年後は? その先は? 誰にも見てもらえず、誰にも聞いてもらえない。なのに……寿命で死ぬことも出来ない。
私は……貴方にそんな運命を押し付けた事を……どう、償えばいいの?」
「お嬢様……」
そう言ってサラちゃんは俯く。
……彼女は冤罪が晴れてから、ずっとこの事が頭をチラついていたのかもしれない。
ふっとフローラさんに目を向けるが、彼女も言葉を失い、その表情は暗い。サラちゃんの言葉に驚かないという事は、きっと彼女も同じ事を考えた事があるのだろう。
「……サラちゃん」
「っ!」
オレが言葉を発すると、サラちゃんの体が震える。きっと……この話をオレに黙っているのも、オレに話すのも、どっちも恐かったんだろう。それは、オレを大切に思ってくれているからこそだ。だからーー
「まず、いつ消えるのか。これに関してはオレも明言出来ない」
「…………」
「けど、それは別にオレだけじゃないよ?」
「……え?」
「サラちゃんだってフローラさんだって、あの王子だって。明日には病気になるかもしれない。事故にあうかもしれない」
「それは……」
「だからさ? 毎日を大切に過ごそう? 何気ない一日だって、そもそも生まれてきて、ここまで生きて来れたことが奇跡みたいなものなんだから。学校生活だって、魔人との戦いの訓練だって、今みたいな時間だって、大切にして日々を過ごすしかないよ」
「わ、わかったわ……」
「次に、二人がいなくなった後の話だ」
「……うん」
「オレもさ。召喚初日、途中でその事がとても恐くなったんだ。魔人による命の危険だけじゃなく、その先の未来への恐怖も加わった。不安でいっぱいになったオレは、あんなにも取り乱した。
今思えば、だから君たちにすがったんだろうね。唯一オレがすがれる相手だったから」
「……そう……よね……」
「けどね? 昨日、ゼルクさんはオレの為に席を用意してくれた。王子はオレとの会話が楽しいと言ってくれた。カイウス君もメルク君も途中から自然にオレと会話してくれた。久しぶりだったよ。あんなに楽しいお酒の席に参加したのは」
「…………」
「だからさ。サラちゃん。オレはもう、この世界での未来に恐怖していない。勿論、相手を選んで関わる必要はあるけどね?
けど、オレのこの力はきっと、色んな人の力になれる。そうしていればきっと、オレが孤独に苦しむ事はない」
「玉木……」
「ね? だからサラちゃんも、オレへの罪悪感に苦しまないで? オレはやっぱり……君のことが好きだからさ? 君が幸せになっている姿を見たいんだよ」
そう言って、優しく抱きかかえる。彼女があの日、オレにそうしてくれたみたいに。
「玉木……ゴメンね……ゴメン……。それと……ありがとう……」
「うん。どういたしまして」
「魔人……」
「どう? フローラさんもこっちに来る? 優しく抱きしめてあげるよ?」
「死んでもゴメンですね」
「あはは。酷いなぁ」
「ですが……」
「ん?」
「玉木、本当に……ありがとうございます」
「……どういたしまして」
頭を下げてくるフローラさんに、オレは右手で頬をかきながら応える。
そうしてその日、オレは覚悟を決めた。もし、元の世界に帰れなかったとしても、この世界で最後まで生き抜くことを。オレを召喚した事を、二人に後悔させないように。
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