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二章
国教と五爵
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「じゃあ、フローラ。行ってきます」
「行ってきまーす」
「お嬢様、行ってらっしゃいませ」
「あの、フローラさん? オレも行くんだけど?」
「それで? 貴方への言葉など必要ないでしょう。貴方はお嬢様のげぼーー使い魔なのですから」
「下僕って言おうとしたよね?」
「おや失礼。事実がつい口から洩れてしまいました」
「そんな事実はどこにもないよ!?」
「おや、そうですか? では私が見ているのは幻覚ですかね? 幻覚魔人の仕業かもしれませんね」
「フローラさん!? 困ったら魔人のせいにしとけばいいと思ってない!?」
「ほら、二人とも。キリがないからそこまでね」
サラちゃんと共に校門をくぐる。今日は3年後に向けた、戦闘メンバーのスカウトだ。だが、先日のドゥークのように、既に魔人が接触している可能性もある。その為、オレが対象の周囲を確認し、洗脳や幻覚などを受けてないかを確認するのだ。
因みに、魔人との戦い等の情報は、全て守護騎士から聞いたこととして説明する。オレの存在がバレてないのはこちらの大きな強みだ。オレのことは出来るだけ隠しておくべきだろう。
「今日は誰を確認するんだっけ?」
「カイウス様とメルク様ね。カイウス様はシルヴァ様のご友人だから、後でシルヴァ様と合流しましょ」
「うん。わかった。じゃあまずはメルーー」
そこまで話したところで、クレアちゃんの姿が目に入る。が、様子がおかしい。どう見ても襲われているようにしか見えない。
……学園内で? 皆スルーしてるんだけど? 明らかに怪訝な目で見てるから見えてないわけじゃないんだろうけどーー
「離してください! お願いですから離してくださいぃぃぃ!!」
「話す!? えぇ、構いませんよ! あなたの話を聞くためなら私、知っていることはなんでも喋っちゃうわ!!」
「違います! この状況でなんでそうなるんですか!? ちょっと!? 馬乗りしないでください! 誰か助けてぇぇぇ!!」
「……サラちゃん。アレ、何?」
「……心配しないでいいわよ玉木。アレ、一応は私の知り合いなの」
話しながら、二人に近づいていく。すると、クレアちゃんもこちらに気づいたようだ。
「あっ!? サラ様! お願いします! 助けてくださぁぁい!!」
「んん? あら、サラ様。ごきげんよう」
クレアちゃんの反応に、彼女もサラちゃんに会釈する。……マウントポジションのままで頭を下げるなんて貴族でなくても問題だろう。
彼女の髪色はサラちゃんと同じブロンドだが、短髪なのにまとまりがない。いわゆる天然パーマだ。流石にキノコ頭ではないが、オシャレにはあまり興味もなさそうだ。
「……馬乗りしながら挨拶されたのは初めてだわ。マリア。今日はどうしたの?」
「えぇ! 風の噂で、クレアちゃんが神鏡の守護騎士を召喚したと聞きました! 私、是非見てみたくて! でも、お願いしても召喚してくれないんです! だからこうして話を聞こうと」
「……それは話を聞こうとしてるんじゃなくて、聞き出そうとしていると言うんじゃない?」
「同じ事ではありませんか? 過程は大した問題ではないと思います」
うわぁ……大真面目に言ってるよこの子。そりゃあこんな所で守護騎士の召喚なんて出来ないわな。目立ってしょうがない。
「ほら、いいからクレアを開放してちょうだい? この子、馬乗りされちゃうと喋れないから」
「なんと!? 喋ってくれないと思ったらそんな理由が!? それはごめんなさい。すぐに退くわね」
「ザラざまぁぁ……あ゛りがどうございまずうぅぅぅ……」
「はいはい。朝から大変だったわね」
クレアちゃんは半泣き状態でサラちゃんに抱き着き、慰められている。ていうか相手を組み伏せて尋問するとかどんなお嬢様だよ。
「さぁ、クレアちゃん! 貴方の守護騎士について是非! お話をーー」
「ちょっとマリア……。何をしているんだよこんな朝から」
尋問の続きをしようとした彼女に声がかかる。黒髪眼鏡の温厚そうな男子……あれ? というか彼はーー
「あらメルク様。どうしてこちらへ?」
「どうしてもこうしてもないよ……。朝から騒がしいなと思っていたら君がクレアさんに絡んでいるって聞いてね。慌てて飛んで来たんだよ……」
「絡んでいるとは失礼ですね。私はただ、彼女にお話しを聞きたかっただけですよ?」
「……とのことですが、どうだったんですか? サラ様?」
「メルク様……。この状況で本当にそう思われますか……?」
サラちゃんはクレアちゃんの頭を撫でながら呆れたように返す。そして、彼はやはりメルク君か。
彼は杖術と医術を使う、所謂ヒーラーだ。まぁ、ゲームとは違う事も色々あるだろうが。ゲームの終盤では、全回復スキルを覚えたりしていたが、流石にそんな事は出来ないだろう。
また、メンバーの中では最弱のキャラではあったが、最終戦にも参加するような男だ。多分、現時点でもかなり強いんだろう。
ぱっと見はひ弱な草食男子にしか見えないが、服の下はムキムキだったりして……。
「まぁ、そうですよね……。誰がどう見たってマリアが暴走したとしか思えません。さ、マリア。とりあえず行こう」
「そんな!? まだ何も話を聞けていないのに……!?」
「どの道授業もある。長時間の話は出来ないよ? それに、無理に聞き出して嫌われたら、今後の聞き取りにも関わるよ?」
「……成程。確かにそうですね。クレアちゃんに聞きたいことはまだまだありますから」
「でしょ? ほら、クレアさんも怯えてるから、謝ったら教室に向かおう」
「わかりました。クレアちゃん、ごめんなさいね。でも、授業が終わったら教えてね?」
そう言って立ち去る二人。嵐のような令嬢だったな……
「うぅ……怖かった……」
「そうね。でも多分、教えるまでずっとまとわりつくわよ?」
「ひぃ!? そ、そうですね。……サラ様、付き合ってくれますか?」
「え~? どうしようかしら? もう充分力になったと思うんだけどなぁ~?」
「そんなぁ!? 意地悪しないでくださいよぉ!!」
「クスクス……ごめんなさい。クレアの反応が可愛いからつい、ね? さ、とりあえず教室に向かいましょうか」
「う~……。ホントに付いてきてくださいね?」
サラちゃんがクレアちゃんをからかっている。この子も割とお茶目さんだよな。
「はいはい。そう言えば玉木? あれがメルク様だけど、何か違和感はあった?」
「え? そこに玉木様もおられるんですか?」
「えぇ。一応、洗脳や幻覚の気配が無いか確認してもらおうと思って」
「うん。特にそんな気配はなかったよ? ……まぁ、あのマリアちゃん? はアレが素だっていうのも驚きだけど」
言動は凄まじかったが、それでも些細な所作にも品があった。多分、かなりいいとこのお嬢さんだろう。
「あの子はね……。決して悪い子じゃないんだけど、興味を持つと止まらないのよ。彼女は侯爵家出身なんだけど、あの性格でしょ? 実家からも煙たがられてて、厄介払いのようにメルク様と婚約することになったのよ。
まぁ、本人は気にしていないし、メルク様も優しい方だから特に問題にはなってないんだけど」
……あれ、侯爵令嬢なのか。そりゃあ煙たがられるわ。ん?
「厄介払い? てことはメルク君の立場も高い訳じゃないの?」
「う~ん……。爵位で言えばね。彼、男爵の跡取りなの」
マジ? 爵位は上から 公・侯・伯・子・男 となっている。基本的に同格同士でしか結婚しない筈じゃないのか? そりゃあ、多少は例外もあるんだろうがーー
「いくら厄介払いといっても、そこまで離れた相手とよく婚約させたね?」
「そこが少し複雑なの。メルク様の実家は確かに男爵なんだけど……彼のお父様がね。国教の枢機卿にまで登り詰めた方なの」
「国教?」
「そう。我が国では、2神教といって、文字通り神剣と神鏡を崇めているの。ドゥークの時にもそれが勝機になったでしょ? その枢機卿だもの。かなりの力を持っているわ。だから、お互いの家としても都合が良かったんでしょうね」
はー……。そんな事もあるのか。政略結婚にも色々あるんだなぁ。
「でもある意味、そんな彼と思わぬ形で接点を持てたのは幸運だわ。授業終わりにクレアを出汁に話を聞きましょ?」
「サラ様!? 私は餌なんですか!?」
「クレア? 国の為だもの。やってくれるわよね?」
「うぅ……うぅぅぅぅ……」
「もう、冗談よ。だけど、どの道守護騎士について教えないと纏わりつかれるし、メルク様とお話しする必要があるのはホントよ? まぁ、それも昼休憩か放課後ね。
さ、流石に授業が始まっちゃうから急ぎましょ」
「あ! 待ってくださいサラ様!!」
こうしてまずはメルク君の話を聞くこととなった。
「行ってきまーす」
「お嬢様、行ってらっしゃいませ」
「あの、フローラさん? オレも行くんだけど?」
「それで? 貴方への言葉など必要ないでしょう。貴方はお嬢様のげぼーー使い魔なのですから」
「下僕って言おうとしたよね?」
「おや失礼。事実がつい口から洩れてしまいました」
「そんな事実はどこにもないよ!?」
「おや、そうですか? では私が見ているのは幻覚ですかね? 幻覚魔人の仕業かもしれませんね」
「フローラさん!? 困ったら魔人のせいにしとけばいいと思ってない!?」
「ほら、二人とも。キリがないからそこまでね」
サラちゃんと共に校門をくぐる。今日は3年後に向けた、戦闘メンバーのスカウトだ。だが、先日のドゥークのように、既に魔人が接触している可能性もある。その為、オレが対象の周囲を確認し、洗脳や幻覚などを受けてないかを確認するのだ。
因みに、魔人との戦い等の情報は、全て守護騎士から聞いたこととして説明する。オレの存在がバレてないのはこちらの大きな強みだ。オレのことは出来るだけ隠しておくべきだろう。
「今日は誰を確認するんだっけ?」
「カイウス様とメルク様ね。カイウス様はシルヴァ様のご友人だから、後でシルヴァ様と合流しましょ」
「うん。わかった。じゃあまずはメルーー」
そこまで話したところで、クレアちゃんの姿が目に入る。が、様子がおかしい。どう見ても襲われているようにしか見えない。
……学園内で? 皆スルーしてるんだけど? 明らかに怪訝な目で見てるから見えてないわけじゃないんだろうけどーー
「離してください! お願いですから離してくださいぃぃぃ!!」
「話す!? えぇ、構いませんよ! あなたの話を聞くためなら私、知っていることはなんでも喋っちゃうわ!!」
「違います! この状況でなんでそうなるんですか!? ちょっと!? 馬乗りしないでください! 誰か助けてぇぇぇ!!」
「……サラちゃん。アレ、何?」
「……心配しないでいいわよ玉木。アレ、一応は私の知り合いなの」
話しながら、二人に近づいていく。すると、クレアちゃんもこちらに気づいたようだ。
「あっ!? サラ様! お願いします! 助けてくださぁぁい!!」
「んん? あら、サラ様。ごきげんよう」
クレアちゃんの反応に、彼女もサラちゃんに会釈する。……マウントポジションのままで頭を下げるなんて貴族でなくても問題だろう。
彼女の髪色はサラちゃんと同じブロンドだが、短髪なのにまとまりがない。いわゆる天然パーマだ。流石にキノコ頭ではないが、オシャレにはあまり興味もなさそうだ。
「……馬乗りしながら挨拶されたのは初めてだわ。マリア。今日はどうしたの?」
「えぇ! 風の噂で、クレアちゃんが神鏡の守護騎士を召喚したと聞きました! 私、是非見てみたくて! でも、お願いしても召喚してくれないんです! だからこうして話を聞こうと」
「……それは話を聞こうとしてるんじゃなくて、聞き出そうとしていると言うんじゃない?」
「同じ事ではありませんか? 過程は大した問題ではないと思います」
うわぁ……大真面目に言ってるよこの子。そりゃあこんな所で守護騎士の召喚なんて出来ないわな。目立ってしょうがない。
「ほら、いいからクレアを開放してちょうだい? この子、馬乗りされちゃうと喋れないから」
「なんと!? 喋ってくれないと思ったらそんな理由が!? それはごめんなさい。すぐに退くわね」
「ザラざまぁぁ……あ゛りがどうございまずうぅぅぅ……」
「はいはい。朝から大変だったわね」
クレアちゃんは半泣き状態でサラちゃんに抱き着き、慰められている。ていうか相手を組み伏せて尋問するとかどんなお嬢様だよ。
「さぁ、クレアちゃん! 貴方の守護騎士について是非! お話をーー」
「ちょっとマリア……。何をしているんだよこんな朝から」
尋問の続きをしようとした彼女に声がかかる。黒髪眼鏡の温厚そうな男子……あれ? というか彼はーー
「あらメルク様。どうしてこちらへ?」
「どうしてもこうしてもないよ……。朝から騒がしいなと思っていたら君がクレアさんに絡んでいるって聞いてね。慌てて飛んで来たんだよ……」
「絡んでいるとは失礼ですね。私はただ、彼女にお話しを聞きたかっただけですよ?」
「……とのことですが、どうだったんですか? サラ様?」
「メルク様……。この状況で本当にそう思われますか……?」
サラちゃんはクレアちゃんの頭を撫でながら呆れたように返す。そして、彼はやはりメルク君か。
彼は杖術と医術を使う、所謂ヒーラーだ。まぁ、ゲームとは違う事も色々あるだろうが。ゲームの終盤では、全回復スキルを覚えたりしていたが、流石にそんな事は出来ないだろう。
また、メンバーの中では最弱のキャラではあったが、最終戦にも参加するような男だ。多分、現時点でもかなり強いんだろう。
ぱっと見はひ弱な草食男子にしか見えないが、服の下はムキムキだったりして……。
「まぁ、そうですよね……。誰がどう見たってマリアが暴走したとしか思えません。さ、マリア。とりあえず行こう」
「そんな!? まだ何も話を聞けていないのに……!?」
「どの道授業もある。長時間の話は出来ないよ? それに、無理に聞き出して嫌われたら、今後の聞き取りにも関わるよ?」
「……成程。確かにそうですね。クレアちゃんに聞きたいことはまだまだありますから」
「でしょ? ほら、クレアさんも怯えてるから、謝ったら教室に向かおう」
「わかりました。クレアちゃん、ごめんなさいね。でも、授業が終わったら教えてね?」
そう言って立ち去る二人。嵐のような令嬢だったな……
「うぅ……怖かった……」
「そうね。でも多分、教えるまでずっとまとわりつくわよ?」
「ひぃ!? そ、そうですね。……サラ様、付き合ってくれますか?」
「え~? どうしようかしら? もう充分力になったと思うんだけどなぁ~?」
「そんなぁ!? 意地悪しないでくださいよぉ!!」
「クスクス……ごめんなさい。クレアの反応が可愛いからつい、ね? さ、とりあえず教室に向かいましょうか」
「う~……。ホントに付いてきてくださいね?」
サラちゃんがクレアちゃんをからかっている。この子も割とお茶目さんだよな。
「はいはい。そう言えば玉木? あれがメルク様だけど、何か違和感はあった?」
「え? そこに玉木様もおられるんですか?」
「えぇ。一応、洗脳や幻覚の気配が無いか確認してもらおうと思って」
「うん。特にそんな気配はなかったよ? ……まぁ、あのマリアちゃん? はアレが素だっていうのも驚きだけど」
言動は凄まじかったが、それでも些細な所作にも品があった。多分、かなりいいとこのお嬢さんだろう。
「あの子はね……。決して悪い子じゃないんだけど、興味を持つと止まらないのよ。彼女は侯爵家出身なんだけど、あの性格でしょ? 実家からも煙たがられてて、厄介払いのようにメルク様と婚約することになったのよ。
まぁ、本人は気にしていないし、メルク様も優しい方だから特に問題にはなってないんだけど」
……あれ、侯爵令嬢なのか。そりゃあ煙たがられるわ。ん?
「厄介払い? てことはメルク君の立場も高い訳じゃないの?」
「う~ん……。爵位で言えばね。彼、男爵の跡取りなの」
マジ? 爵位は上から 公・侯・伯・子・男 となっている。基本的に同格同士でしか結婚しない筈じゃないのか? そりゃあ、多少は例外もあるんだろうがーー
「いくら厄介払いといっても、そこまで離れた相手とよく婚約させたね?」
「そこが少し複雑なの。メルク様の実家は確かに男爵なんだけど……彼のお父様がね。国教の枢機卿にまで登り詰めた方なの」
「国教?」
「そう。我が国では、2神教といって、文字通り神剣と神鏡を崇めているの。ドゥークの時にもそれが勝機になったでしょ? その枢機卿だもの。かなりの力を持っているわ。だから、お互いの家としても都合が良かったんでしょうね」
はー……。そんな事もあるのか。政略結婚にも色々あるんだなぁ。
「でもある意味、そんな彼と思わぬ形で接点を持てたのは幸運だわ。授業終わりにクレアを出汁に話を聞きましょ?」
「サラ様!? 私は餌なんですか!?」
「クレア? 国の為だもの。やってくれるわよね?」
「うぅ……うぅぅぅぅ……」
「もう、冗談よ。だけど、どの道守護騎士について教えないと纏わりつかれるし、メルク様とお話しする必要があるのはホントよ? まぁ、それも昼休憩か放課後ね。
さ、流石に授業が始まっちゃうから急ぎましょ」
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