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一章

戦い終わって

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「サラ!」

「お父様!」

 サラちゃんのお父さんが駆け寄っていった。ここ数日拘束された挙句、娘とは会えていなかったのだ。当然だろう。

「サラ……良かった……。本当に良かった……」

「お父様、ご心配をおかけしました。それと、拘束されておられる中、私の要望を聞いていただいてありがとうございます」

「いや、寧ろあんな事しか出来なくてすまなかった。サラ、今回の事は殿下が全て教えてくださった。……魔人と契約したことも」

「はい。勝手な真似をして申し訳ありません。しかし、あの男の企みを阻むためには、どうしても必要なことでした」

「そうだな。そのことも殿下からお聞きしている。にわかには信じがたい話だったが……」

 そうか。移動中、馬車の中でオレの事を話していたのか。確かにこの人は公爵家の長。この人の協力が得られれば、これからも出来ることは増えていくからな。

「えぇ。魔人の存在は私達にとっては超常のものですからね。それでも、この結果は魔人の力によるところが大きいのも事実です」

「……分かっている。だが、それよりもまず、皆様への御礼が先だ」

「勿論です」


 親子での会話を終え、サラちゃんがその長い髪を横にまとめて頭を下げる。

「皆様。この度は私の冤罪を晴らしていただいたこと、本当にありがとうございました」

 サラちゃんからの謝礼に、双竜の二人と王子が応える。

「ま、何とかなってよかったなサラ嬢」

「アンタが魔人と契約したお陰で解決した事件だしね」

「その通りだ。魔人をこちらに引き入れてくれたこと、大いに感謝する。シルフォード嬢。これからも魔人共々、力を貸してくれないか?」

 王子の言葉にサラちゃんが顔を上げる。
 そしてその青い目に視線を合わせ、真っすぐな瞳で口を開く。

「勿論です。殿下からの主命、謹んでお受けいたします」

「ありがとう」

 サラちゃんの返答に王子も真面目な表情で応える。
 だがその言葉の後、王子の雰囲気が変わった。それは先ほどまでの固いものではなく、いたずらを企む子供のようだ。

「さて、ところでシルフォード嬢。君は今、魔人共々力を貸す。そう言ったね?」

「はい。勿論です」

「私は神剣の使い手。そして君は魔人の使い手だ。国を守るにあたってこの二つに違いはない。そうは思わないか?」

「殿下?」

「私と君は対等な仲間だ。だから、これからも私のことはシルヴァと。君の事はサラと呼び合いたい。構わないだろうか?」

 そう言って笑顔を向ける。サラちゃんは口を覆うが、声は震え、瞳は潤んでいた。

「私は……また、シルヴァ様とお呼びしてもよろしいのですか?」

 その言葉に王子は嬉しそうに頷く。

「あぁ。これからもよろしく頼む。サラ」

「っ……。はい……勿論……です……シルヴァ様……」


 サラちゃんが感極まって泣いている。良かった……。オレは、サラちゃんの力になれたんだ。


「あ、あの。サラ様……」

 涙を流すサラちゃんに、クレアちゃんが遠慮がちに声をかける。

「あ、あぁ。ごめんなさい。クレアさん。つい、涙が出てしまって。貴方も本当にありがとう。私の冤罪を晴らせたのは貴方のお陰だわ」

「そんな……! 私のせいで、サラ様をどれだけ傷つけたか……。それにあの時、サラ様が伸ばしてくださった手を……私は……!」

「……そうね。あの時は正直、貴方を憎む気持ちもあったわ」

「っ……。はい。本当に……申し訳ありません。サラ様。学園でもサラ様には助けていただきました。それを……私は……」

 クレアちゃんはずっと悲痛な顔をしている。守護騎士を召喚出来なかった時もずっと思い詰めていたが、恐怖だけでなく、サラちゃんへの罪悪感もあったのか。けど、きっとサラちゃんならーー

「ーーえぇ、貴方の謝罪を受け入れます。クレアさん、私は貴方を許します」

「うぁ……う……。サラ様……ありがとうございます」

「ただし!」

「え?」

 俯きかけたクレアちゃんの前に人差し指を立て、それを止める。

「ただし、それはあの日、貴方が私の手を避けた事について。神鏡に選ばれた事や、シルヴァ様との婚約について謝ってはダメよ?」

「え……? でもーー」

「神鏡に選ばれなかったのは私の力不足。貴方がそれを申し訳なく思うのは寧ろ失礼な事なの。だから、貴方は神鏡に選ばれた事を誇りに思いなさい。貴方が選ばれたことは当然だと、示しなさい」

 そこまで言って微笑みーー

「ーーそんな姿を見れば、私だって悔しくなんかなくなるわ」

「サラ様……。わかりました。私、頑張ります!」

「ええ。よろしい」

 サラちゃんはクレアちゃんを優しく諭す。こうしてみると本当にこの子は公爵令嬢だ。自分に厳しく人に優しい。理想の貴族だ。


「それで……シルヴァ様? 私と貴方は対等とのことでしたよね?」

「ん? ……! ……あぁ。そうだな」

 サラちゃんがニヤリと口端を上げる。王子も何を言いたいか察したようで同じ表情で返す。

「神剣に選ばれた者と魔人を操る者。そしてもう一人、対等であるべき人物がいますわね?」

「そうだな。君もそう思うだろう? クレア嬢?」

「えぁっ!?」

 クレアちゃんが驚いて変な声を出している。この子の背中は丸まったり伸びたり忙しそうだ。

「対等という事は私たちも呼び方を変えるべきね? クレア」

「そうだな。呼び方は勿論、態度もそうだな。どう思う? クレア」

「あ、いや。そんな……私は……えっと……」


 二人の言葉に困惑している。まぁ、自国の王子と姫から対等を迫られる平民なんてそうなるわな。あの立場。オレだって嫌だ。

「クスクス。ごめんなさい。からかいが過ぎたわね。でも、対等な立場というのは本当よ? だからクレア、貴方さえ良ければ友達になってくれない? 私、対等な立場の友達が少ないの」

「私もだ。話し方は君が喋りやすいやり方で構わない。だが、これからも共に魔人と戦う以上、私たちは仲間だ。だから、後は君の気持ち次第だ」

 そう言って、二人は手を差し出す。自分に差し出された二つの手。それを見たクレアちゃんの目からは涙が溢れ出す。それでも、なんとか言葉を振り絞る。

「うぁ……。わ、私……平民ですよ……?」

「そうだな。それでも君は神鏡に選ばれ、責務を果たしている」

「学園でも身分の違いに負けず、頑張っていたわね」


「友達だっていなくて……」

「私も多くはないな」

「私もよ」


「なのに……良いんですか? 私なんかが、お二人の友達になっても?」

「何度も言わせないで? 立場は同じ。そうでしょ?」

「そうだ。何も遠慮することはない」


 クレアちゃんは何度も確認をする。だが、返ってくるのは温かな返答だけだ。そんな二人の差し出した手を、素直に握る。クレアちゃんの表情はもう、涙でボロボロになっている。

「うっ……グスッ……。お、お二人とも……よろしくお願いします」

「えぇ、よろしく」

「あぁ、よろしく頼む」


 そんな姿にふと、後ろをみると大人組が涙ぐんでいる。
 ……こういうのは、やっぱりいいものだよね。
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