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一章

作戦会議

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「ただいまー」

「あ、おかえりなさい。玉木。入っていいわよ?」

 返答をもらって部屋に入る。

「あ、良かった。フローラさんもいたんだね。無事、王子に協力してもらえたよ。今日はもう遅いし、詳細報告は明日にする?」

「うん。そうしましょうか。玉木はまた地下室に?」

「いや、一応屋敷の周りを飛んで警戒しておくよ。魔人は睡眠が必要ないみたいだから。まぁ、暫く手出しはして来ないだろうけどね」

「ありがとう。ごめんね? 休みなしで働かせてしまって」

 サラちゃんはオレをねぎらってくれる。優しい上司のいる職場でありがたい。メイド服の同僚はともかく。

「構わないよ。明日も部屋の外から声をかければいい?」

「えぇ。それでお願い。使用人には寝室の周りに来ないように、って言付けてあるから、周囲は気にしなくても大丈夫」

「はい。お嬢様は『私』以外には憔悴した姿は見せたくない、と伝えてあります。……ウフフ……」

 『自分だけは例外』という言葉にほくそ笑んでいる。この人のサラちゃん愛は本当に凄い。けど、正直ストーカーっぽくて若干恐い。しかも有能なのが輪をかけて恐い。

「じゃあ、紙はここに置いとくよ。明日、また声をかけるね。二人とも、お休み」

「えぇ、お休みなさい」

「えぇ。……就寝中、余計な事をしたら殺しますからね?」

「しないしない、そんなこと」

「そんなこと? 貴方はお嬢様の魅力を理解していないのですか?」

「ベタな返しを……。ていうかまさかフローラさん、ここで寝るの?」

「当然でしょう。今は警戒しすぎて困ることはありません。……フフ……お嬢様と一緒のベッド……」

 ……オレよりフローラさんの方がずっと危ないんじゃないか? まぁいい。警戒中もオレなりに今回の事件の解決方法を考えておこう。


 …………


 朝、改めて王子からの情報を確認する。
 しかし凄いな……襲撃の詳細から誰に聞いた情報か、そしてその聴取方法まで書いてある。
 その上、自爆に使われた火薬の詳細まで。

「流石はシルヴァ様ね。ここまで調べてくださっているなんて」

「そうですね。しかし、ここまで調べても矛盾が出ないとは……。魔人の力は凄まじいですね」

「あ、そういえば昨日はスルーしたけど、サラちゃんの印は手元にあったんだね?」

「えぇ。冤罪をかけられたあの日、すぐに確認したの。けれど、元の場所に置いてあったわ。襲撃当日は昼すぎまで仕事をしてたから、盗まれたとしたらその後から夜までの間ね」

 成程。寝ている間に侵入されても机が漁られれば気づくはず。と、すると部屋にサラちゃんがいない間か。

「朝見たら机が動いていたんだよね? 使用人が触ったりしてる?」

「ええ。私が確認したところ、昼から夕方にかけての時間、掃除の為に机を動かしたそうです」

「そっか……。それだと魔人が取っていったかもわからないね。誰も触っていなければ確信できたのに」

「玉木は姿を隠す……透明魔人が印を持って行ったと考えているの?」

「うん。その可能性も考えてる」

「まるで他の手段があるかのような言い草ですね?」


 そう。魔人はあいつ一人じゃない。ゲームに出てきたのは何人もいるし、もしかしたらゲームに出てきていない魔人もいるかもしれない。……オレのように。

「前にも話したように、オレは敵の魔人を何人か知っている。能力の詳細までは分からないけど、概要なら把握している。今回の件に関わっていそうなのは、洗脳が出来る魔人と、幻覚を見せる魔人だね」

「やっぱり洗脳が出来る魔人もいるのね。どうやって洗脳するの?」

「ごめん。その詳細までは……。オレが出来るのは推測までなんだ」

 ゲームでも味方ユニットが操られたり、敵の幻影が現れたりしていた。だが、あくまでシミュレーションゲームの戦闘画面。能力の使い方まではわからなかった。ストーリーでは描写されていたのだろうが、ここにきて、ストーリーを見なかった弊害が現れる。

「いいわ。推測でも構わないから教えて」

「わかった。
 まず、洗脳が出来る魔人は、額に3つ目の眼があった。恐らく洗脳にはこの眼が関わっている。と、なると洗脳の条件は『3つ目の眼の視界に入る』もしくは『眼を合わせる』等が考えられる。
 次に幻覚を見せる魔人。こちらは片手にベルのようなものを持っていた。ということはそのベルが幻覚を見せる為の道具。もしくは、音で幻覚を見せるんだと思う」

「それだけ聞いても魔人の恐ろしさがわかりますね。情報が無ければ手も足もでないでしょう」

「うん。オレの情報だけで考えると、サラちゃんの印を利用するパターンは5つ
 1、透明魔人が持って行った
 2、洗脳魔人がサラちゃんを洗脳して持ってこさせた
 3、印はそもそも奪われておらず、全て幻覚魔人の幻覚だった
 4、1~3の複合。例えば持っていったのは透明魔人。元の場所に戻したのは洗脳魔人
 5、それ以外の魔人の存在 」

「……5つ目のパターンが考えられるなら、方法を絞るのは無理ではないですか?」

 そう。これだけなんでもアリな魔人だ。決めつけで行動出来ない。だが、それでは推測も出来ない。

「そうだね。けど、オレ達の目的はサラちゃんの冤罪を晴らすこと。『印がどう利用されたか』はあまり重要じゃない」

「でも、襲撃について考えても、同じじゃない? 透明魔人はともかく、それ以外のパターンが全て考えられるわよ?」

「うん。ただ、昨日考えていたんだけど……もしかしたら、オレなら幻覚を見破れるんじゃないかな? 透明魔人を見たとき、ドゥークには見えないのに、オレには見えていたからね」

「しかし、透明魔人が透明になっていた時、貴方は気づけなかったのでしょう? では、現場に行っても違いがわからないのではないですか? 私やお嬢様が現場に行くことはドゥークに妨害されるでしょうからね」

 確かにそうだ。もし、透明魔人と同じように幻覚が効かないとしても、オレだけでは幻覚を判別できない可能性が高い。

「待ってフローラ。ねぇ、玉木。貴方のゴーストは触れた者も一緒にゴースト化出来るのよね? なら、私やフローラを抱えていけないの?」

「お嬢様!?」

「あ、そうだね。サラちゃん、試しにおんぶさせてもらってもーー」

「おい貴様ぁ!! 何を訳のわからないことを言っている!! お嬢様と密着などさせるわけがないだろうが!!」

「フローラさん!? 口調がおかしなことになってるけど!?」

「フローラ。学園寮まではそれなりに距離がある。ここから向かえば多少の時間がかかるわ。そしてその間、玉木にはずっと背負ってもらう必要がある。なら、体格の小さな私が適しているわ」

「ぐっ!? ……グギギギギギギ……」

 ……フローラさんが魔人よりずっと恐い事になっている。ただ、彼女も自分の我儘を通しても、サラちゃんの為にならないと判断しているのだろう。溢れんばかりの憎悪と嫉妬を押し殺している。……これ、後で全部オレに飛んでくるな。

「じゃあ玉木? 失礼するわね」

「あ、はいはい」

 そうしてオレにおぶさってくる。

 ……本当に軽い。サラちゃんはこんなにも小さいのか。それでもこれほどの運命に抗っているんだ。改めて尊敬の念が湧いてくる。

「じゃあ、ゴースト化して少し屋敷の周りを飛んでみようか」

「!? え、えぇ。最初はゆっくり飛んでね?」

 そう言われ、ゆっくりと天井を超える。問題なく透過出来ているようだ。

「わぁ、凄い!! これがいつも玉木が見ている景色なのね?」

「気分はどうですかお嬢様?」

「それ、フローラの真似? そうしてると本当に執事みたいね。……フフ、ええ。最高よ!」

 上機嫌でニコニコしている。高い所も特に恐くはないのだろう。
 
「じゃあ、オレの筋力耐久テストも兼ねて周囲を飛び回ってみようか」

「そうね! 玉木、色々と飛んでみて!!」

「おおせのままに。お嬢様」

 そうしてしばらくサラちゃんとの空中散歩を楽しんだ後、部屋に戻った。
 サラちゃんはオレの背から降りてからもご機嫌のようだ。一方、フローラさんのテンションはダダ下がりしている。


 ーーだが、そこまで検証した所でオレはふと、とんでもない可能性に気づいてしまった。

「問題なさそうね! どうする? すぐに学生寮に向かう?」

「ごめんサラちゃん……。オレ、思ったんだけど……」

「なに?」

「ゴースト化してるときってーーサラちゃんも透明魔人、見えたりしないかな?」

「え? あっ!!」

 そう。もしも、ゴースト化中、透明魔人がサラちゃんにも見えるようになるとしたら、幻覚も効かないかもしれない。そうなれば、見極めも出来ない。

「そっか……。下手に学生寮でゴースト化を解除して、私の姿が見られても不味いから……」

「うん。だから今回はーー」

「おい貴様ぁぁぁぁぁぁ!! 何故今気づく!? わざとか!? わざとなのか!? お嬢様とキャッキャウフフしている姿を私に見せつけたかっただけなのか!?」

「えぇぇ!? いや、ちがーー」

「ぶち殺してやるからとっととゴースト化を解けクソ魔人!!」

「待って! ホントに待って! たまたま、たまたまだから!」

「……玉木だけに?」

 サラちゃん!? なに言ってるの!?

「よくもくだらない事を言えるなクソ魔人がぁぁぁ!!」

「いや!? 言ってない! オレそんな事言ってないよ!?」

「玉木。さっきのお空の旅、楽しかったからまた私を連れて行ってね?」

「サラちゃん!? 君、楽しんでるよねこの状況!? フローラさんの怨嗟がオレに向かってくるんだけど!?」

「殺す! 殺すぅぅぅぅぅぅ!!!」

「待って! やめて! 落ち着いて!!」



 …………その後も色々とあったが、なんとか話を再開した。その結果、学生寮に入れるであろう王子と共に、二人で現場に向かうことが決まった。
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