7 / 113
一章
不審者
しおりを挟む
魔人召喚。
幼い頃に地下室で見つけた邪法。
自身の血で魔法陣を描き、召喚した魔人と契約をする。
そもそも魔人とは怒りや欲望等、人の負の感情から生まれる化物。500年前に出現した際は人を謀り殺め、多くの悲劇や絶望を生んだとされている。
契約出来てもこちらの願い通りに動くとは限らない。寧ろ、伝承の通りならば、魔人とは邪悪なもの。契約できずに殺されるかもしれない。操られて傀儡にされるかもしれない。
だが、追い詰められたサラにはこの方法しか思いつかなかった。
(でも大丈夫。私は一人じゃない。お父様は勿論、執事長をはじめとする当家に仕えてくれる人たち。そしてなにより私の隣には信頼できる姉がいる)
そして決死の覚悟で臨んだ魔人召喚の結果はーー
(はっ!? 数瞬、意識が飛んでいた?)
目の前には鏡の前で不思議そうにしている魔人がいる。
唐突に「サラちゃん」と呼ばれて戸惑ったが、今の所こちらに危害を加える様子はない。
(というか先ほどから鏡の前で何を?)
「お嬢様」
フローラが話しかけてくる。
「え? あぁ、ごめんなさい。フローラ。あまりの事態に驚いてしまって」
「いえ、私も混乱しております。まさか魔人への最初の供物が鏡だとは思いませんでした」
「あれ供物なの? 全身をチェックする執事にしか見えないのだけれど……」
「……確かに私にもそのように見えますが……。しかし、どんな様子でも魔人は魔人。契約した途端豹変する可能性はあります。お嬢様もご警戒を」
「そうね。わかってるわ」
サラが改めて気を引き締めると、一通り確認が終わったのか、魔人が振り返って話しかけてくる。
「二人ともお待たせしてごめんね? ちょっと状況確認に時間がかかって」
「いえ、そんな……」
「サラちゃんは魔人と契約するためにオレを召喚したんだよね?」
「は、はい。そうです。契約していただけるのですか?」
「あ、うん。いいよー。で、契約ってどうやって結ぶの?」
「えっ?」
「えっ?」
「…………」
(えっ……? 魔人との契約は召喚者が行うものなの?)
予想外の魔人の反応に、サラはますます混乱してしまう。
(力の強い魔人主体だと思っていたけれど……。それに魔人召喚の本にもそんな記述はーーあら? 魔人も焦っている? どういうこと?)
その後フローラの勧めで、とりあえずの状況説明をする。
ドゥーク侯爵に嵌められたこと。公爵家が動いても証拠が一つも出てこないこと。魔人が関わっている可能性があることだ。
魔人も特に気を悪くするそぶりもなく、素直に聞いていた。
そして、話の途中でフローラが魔人の後ろに回ったのを、サラは不思議に思いながらも話し続けた。
「以上です。いかがでしょうか」
「うん。力になりたいのはやまやまなんだけどね。そもそもオレに何が出来るかだね。ほら、こうやって空を飛べるみたいだから夜に侵入出来たりするんだろうけどーー」
――ザクッ!!――
先ほど背後に回ったフローラが魔人にナイフを突き立てる。
「フローラッ!?」
「なっ!?」
しかし魔人は特に気にした様子はない。というより透けているようだ。更に魔人は一人で考え事をはじめた。
(フローラに刺された事を気にしていない? なら今はーー)
「フローラッ!? あなた何をしているの!」
そう言いながら駆け寄ると、その場に正座して頭を下げてくる。
「も、申し訳ありません。お嬢様。しかし、やつの言動があまりにも不自然で」
「どういうこと?」
「先ほど、お嬢様はこちらの事情を伝えていましたよね?」
「そうね」
「ですが、あの魔人は何も疑問を感じることなく聞いていました。公爵家が調べても証拠が出てこないこと。そこから魔人が関わっている可能性に繋げたことにまで。
まるで、こちら側の事情を知っているかのように」
「えぇ。真面目に聞いてはいたけれど、初めて聞いたような反応では無かったわね。あの魔人は私たちにとって公爵家がどれほど力を持っているか。私たちがどれだけ魔人を恐れているかも知っているのでしょうね」
確かに彼の理解は違和感がある程にスムーズだった。
「でも、召喚したときに私たちの情報が魔人に伝わっているのではないの?」
「その可能性はあります。しかし、私たちの一般常識を理解できる知能を持っていて、魔人の一般常識を一切知らない? ましてや自分自身の事も? そのようなことがありますか?」
「でもあの魔人の仕草。嘘を付いているようには見えないけれど……」
「だからこそです。あの魔人はあまりにも得体がしれません。あれを演技でやっているのならば私たちに真偽を見分けるのは不可能でしょう。
そして極めつけは最後のセリフ。何が出来るかわからない? 私たちには時間がありません。ただでさえ信用出来るかわからないのに、何が出来るかを調べてから行動する? 話になりません。
ならば隙だらけのあの瞬間に仕留め、召喚をやり直し、より確実な魔人に力を借りるべきだと考えました」
確かにサラにとってもあの魔人は得体がしれなかった。
今も真顔で部屋、いや、恐らく屋敷中を縦横無尽に飛び回っている。かと思えば部屋に戻って頭を壁にくっつけたり、棒を拾って壁に差したあと、納得したように頷いている。その後、また天井から部屋の外に出て行った。
(……フローラじゃなくてもあの姿は不気味に感じるわね)
しかしそもそもアレは魔人で、人の尺度で判断出来る生物ではないだろうと思いなおす。
「貴方の言い分は分かったわ。幸い、あの魔人は先ほどのことを気に留めていないみたいね。嘘が通じる保証もないし、正直に話して魔人の出方を窺いましょ?」
「分かりました。お嬢様」
フローラの同意を取り、そこから数刻も立たないうちに魔人が帰ってくる。
(ともかく、魔人の機嫌を損ねず、フローラを庇うしかないわ!)
…………
部屋に戻って、フローラさんの口からオレを刺した理由を確認する。
成程。話を聞いてた時にそんなところを見られていたのか。
事情を知らずに真面目に聞いてたら、何故『公爵家が調べても何もない=魔人を疑う』になるか疑問を持つわな。調査が足りないとか、もっと上の力を借りれないかとか。だから寧ろ話を聞き流している風なら良かったのだろう。けど、サラちゃんに協力的な態度を見せたくて普通に聞いてしまっていた。
それに不気味か。言われてみれば尤もだ。真顔で部屋を飛び回り、訳の分からないタイミングで納得し、空に飛んでいく。客観的にみればサイコホラーだ。同じ空間にいたくないよそんなやつ。
オレの事だけどな!! ……はぁ……
しかし、どうしたものかなぁ……。こっちの事情を正直に説明しても、絶対に理解されない。でも中途半端な事したら、二人ともオレよりずっと鋭いから墓穴を掘る気がする。
それならば……!
…………
「あの、魔人様?」
「はい。なんでしょう……?」
先ほどのフローラさんと同じように正座し、ローテンションで返答をする。
立っていても浮いていても座っていても不審者とかもうどうしようもない。
しかしフローラさんの言うように時間もない。
だからこそ、危害を加えないことを精一杯アピールしたうえで事情を説明するしかない。
「一体どうされたのですか? 何故正座しておられるのです?」
「先ほどのフローラさんの話、尤もです。どうあがいても不信感は拭えないでしょうが、どうかこちらの事情を説明させてください。出来る限り大人しくしておりますので」
「……あの、急にそのような態度を取られるのも恐いのですが……」
でしょうね! さっきまでおかしなテンションだったからね! 情緒不安定な魔人とかホント恐いだろうね!
「わかっています。ただ、先ほどの態度にも色々と事情があるのです」
「……事情ですか?」
「はい。少し長くなりますが。ただ、多分オレ、いや私はサラちゃん……サラさん? サラ様?」
「……違和感があればサラちゃんで構いません。それと、話しやすい口調で結構です」
「すみません。えっと、サラちゃんの力になる事が出来ます。だからフローラさんも話を聞いてください」
「……良いでしょう。貴方を殺すことはどの道出来そうにありませんからね」
「ありがとうございます。それと……かなり荒唐無稽な話になります。何度も言うように、オレ自身も状況を理解できていないので、上手くお伝えできるかはわかりませんが……」
今は余計な推測はいらない。オレが体験した事実をただ淡々と伝えるしかない。
まずは情報共有。そして問題解決だ。信頼関係を築くのはそれからだ。
幼い頃に地下室で見つけた邪法。
自身の血で魔法陣を描き、召喚した魔人と契約をする。
そもそも魔人とは怒りや欲望等、人の負の感情から生まれる化物。500年前に出現した際は人を謀り殺め、多くの悲劇や絶望を生んだとされている。
契約出来てもこちらの願い通りに動くとは限らない。寧ろ、伝承の通りならば、魔人とは邪悪なもの。契約できずに殺されるかもしれない。操られて傀儡にされるかもしれない。
だが、追い詰められたサラにはこの方法しか思いつかなかった。
(でも大丈夫。私は一人じゃない。お父様は勿論、執事長をはじめとする当家に仕えてくれる人たち。そしてなにより私の隣には信頼できる姉がいる)
そして決死の覚悟で臨んだ魔人召喚の結果はーー
(はっ!? 数瞬、意識が飛んでいた?)
目の前には鏡の前で不思議そうにしている魔人がいる。
唐突に「サラちゃん」と呼ばれて戸惑ったが、今の所こちらに危害を加える様子はない。
(というか先ほどから鏡の前で何を?)
「お嬢様」
フローラが話しかけてくる。
「え? あぁ、ごめんなさい。フローラ。あまりの事態に驚いてしまって」
「いえ、私も混乱しております。まさか魔人への最初の供物が鏡だとは思いませんでした」
「あれ供物なの? 全身をチェックする執事にしか見えないのだけれど……」
「……確かに私にもそのように見えますが……。しかし、どんな様子でも魔人は魔人。契約した途端豹変する可能性はあります。お嬢様もご警戒を」
「そうね。わかってるわ」
サラが改めて気を引き締めると、一通り確認が終わったのか、魔人が振り返って話しかけてくる。
「二人ともお待たせしてごめんね? ちょっと状況確認に時間がかかって」
「いえ、そんな……」
「サラちゃんは魔人と契約するためにオレを召喚したんだよね?」
「は、はい。そうです。契約していただけるのですか?」
「あ、うん。いいよー。で、契約ってどうやって結ぶの?」
「えっ?」
「えっ?」
「…………」
(えっ……? 魔人との契約は召喚者が行うものなの?)
予想外の魔人の反応に、サラはますます混乱してしまう。
(力の強い魔人主体だと思っていたけれど……。それに魔人召喚の本にもそんな記述はーーあら? 魔人も焦っている? どういうこと?)
その後フローラの勧めで、とりあえずの状況説明をする。
ドゥーク侯爵に嵌められたこと。公爵家が動いても証拠が一つも出てこないこと。魔人が関わっている可能性があることだ。
魔人も特に気を悪くするそぶりもなく、素直に聞いていた。
そして、話の途中でフローラが魔人の後ろに回ったのを、サラは不思議に思いながらも話し続けた。
「以上です。いかがでしょうか」
「うん。力になりたいのはやまやまなんだけどね。そもそもオレに何が出来るかだね。ほら、こうやって空を飛べるみたいだから夜に侵入出来たりするんだろうけどーー」
――ザクッ!!――
先ほど背後に回ったフローラが魔人にナイフを突き立てる。
「フローラッ!?」
「なっ!?」
しかし魔人は特に気にした様子はない。というより透けているようだ。更に魔人は一人で考え事をはじめた。
(フローラに刺された事を気にしていない? なら今はーー)
「フローラッ!? あなた何をしているの!」
そう言いながら駆け寄ると、その場に正座して頭を下げてくる。
「も、申し訳ありません。お嬢様。しかし、やつの言動があまりにも不自然で」
「どういうこと?」
「先ほど、お嬢様はこちらの事情を伝えていましたよね?」
「そうね」
「ですが、あの魔人は何も疑問を感じることなく聞いていました。公爵家が調べても証拠が出てこないこと。そこから魔人が関わっている可能性に繋げたことにまで。
まるで、こちら側の事情を知っているかのように」
「えぇ。真面目に聞いてはいたけれど、初めて聞いたような反応では無かったわね。あの魔人は私たちにとって公爵家がどれほど力を持っているか。私たちがどれだけ魔人を恐れているかも知っているのでしょうね」
確かに彼の理解は違和感がある程にスムーズだった。
「でも、召喚したときに私たちの情報が魔人に伝わっているのではないの?」
「その可能性はあります。しかし、私たちの一般常識を理解できる知能を持っていて、魔人の一般常識を一切知らない? ましてや自分自身の事も? そのようなことがありますか?」
「でもあの魔人の仕草。嘘を付いているようには見えないけれど……」
「だからこそです。あの魔人はあまりにも得体がしれません。あれを演技でやっているのならば私たちに真偽を見分けるのは不可能でしょう。
そして極めつけは最後のセリフ。何が出来るかわからない? 私たちには時間がありません。ただでさえ信用出来るかわからないのに、何が出来るかを調べてから行動する? 話になりません。
ならば隙だらけのあの瞬間に仕留め、召喚をやり直し、より確実な魔人に力を借りるべきだと考えました」
確かにサラにとってもあの魔人は得体がしれなかった。
今も真顔で部屋、いや、恐らく屋敷中を縦横無尽に飛び回っている。かと思えば部屋に戻って頭を壁にくっつけたり、棒を拾って壁に差したあと、納得したように頷いている。その後、また天井から部屋の外に出て行った。
(……フローラじゃなくてもあの姿は不気味に感じるわね)
しかしそもそもアレは魔人で、人の尺度で判断出来る生物ではないだろうと思いなおす。
「貴方の言い分は分かったわ。幸い、あの魔人は先ほどのことを気に留めていないみたいね。嘘が通じる保証もないし、正直に話して魔人の出方を窺いましょ?」
「分かりました。お嬢様」
フローラの同意を取り、そこから数刻も立たないうちに魔人が帰ってくる。
(ともかく、魔人の機嫌を損ねず、フローラを庇うしかないわ!)
…………
部屋に戻って、フローラさんの口からオレを刺した理由を確認する。
成程。話を聞いてた時にそんなところを見られていたのか。
事情を知らずに真面目に聞いてたら、何故『公爵家が調べても何もない=魔人を疑う』になるか疑問を持つわな。調査が足りないとか、もっと上の力を借りれないかとか。だから寧ろ話を聞き流している風なら良かったのだろう。けど、サラちゃんに協力的な態度を見せたくて普通に聞いてしまっていた。
それに不気味か。言われてみれば尤もだ。真顔で部屋を飛び回り、訳の分からないタイミングで納得し、空に飛んでいく。客観的にみればサイコホラーだ。同じ空間にいたくないよそんなやつ。
オレの事だけどな!! ……はぁ……
しかし、どうしたものかなぁ……。こっちの事情を正直に説明しても、絶対に理解されない。でも中途半端な事したら、二人ともオレよりずっと鋭いから墓穴を掘る気がする。
それならば……!
…………
「あの、魔人様?」
「はい。なんでしょう……?」
先ほどのフローラさんと同じように正座し、ローテンションで返答をする。
立っていても浮いていても座っていても不審者とかもうどうしようもない。
しかしフローラさんの言うように時間もない。
だからこそ、危害を加えないことを精一杯アピールしたうえで事情を説明するしかない。
「一体どうされたのですか? 何故正座しておられるのです?」
「先ほどのフローラさんの話、尤もです。どうあがいても不信感は拭えないでしょうが、どうかこちらの事情を説明させてください。出来る限り大人しくしておりますので」
「……あの、急にそのような態度を取られるのも恐いのですが……」
でしょうね! さっきまでおかしなテンションだったからね! 情緒不安定な魔人とかホント恐いだろうね!
「わかっています。ただ、先ほどの態度にも色々と事情があるのです」
「……事情ですか?」
「はい。少し長くなりますが。ただ、多分オレ、いや私はサラちゃん……サラさん? サラ様?」
「……違和感があればサラちゃんで構いません。それと、話しやすい口調で結構です」
「すみません。えっと、サラちゃんの力になる事が出来ます。だからフローラさんも話を聞いてください」
「……良いでしょう。貴方を殺すことはどの道出来そうにありませんからね」
「ありがとうございます。それと……かなり荒唐無稽な話になります。何度も言うように、オレ自身も状況を理解できていないので、上手くお伝えできるかはわかりませんが……」
今は余計な推測はいらない。オレが体験した事実をただ淡々と伝えるしかない。
まずは情報共有。そして問題解決だ。信頼関係を築くのはそれからだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
選択を間違えた男
基本二度寝
恋愛
出席した夜会で、かつての婚約者をみつけた。
向こうは隣の男に話しかけていて此方に気づいてはいない。
「ほら、あそこ。子爵令嬢のあの方、伯爵家の子息との婚約破棄されたっていう」
「あら?でも彼女、今侯爵家の次男と一緒にいらっしゃるけど」
「新たな縁を結ばれたようよ」
後ろにいるご婦人達はひそひそと元婚約者の話をしていた。
話に夢中で、その伯爵家の子息が側にいる事には気づいていないらしい。
「そうなのね。だからかしら」
「ええ、だからじゃないかしら」
「「とてもお美しくなられて」」
そうなのだ。彼女は綺麗になった。
顔の造作が変わったわけではない。
表情が変わったのだ。
自分と婚約していた時とは全く違う。
社交辞令ではない笑みを、惜しみなく連れの男に向けている。
「新しい婚約者の方に愛されているのね」
「女は愛されたら綺麗になると言いますしね?」
「あら、それは実体験を含めた遠回しの惚気なのかしら」
婦人たちの興味は別の話題へ移った。
まだそこに留まっているのは自身だけ。
ー愛されたら…。
自分も彼女を愛していたら結末は違っていたのだろうか。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる