上 下
1 / 113
プロローグ

主人公 玉木・隆之介1

しおりを挟む
 困惑する公爵令嬢。サラちゃんが質問する。

「何故そこまでしてくださるのですか?」

 何故、オレがこの子を助けるのか。当然、オレにも理由があった。

「打算的な話をすると元の世界に帰れる可能性があるからです。サラちゃんは今回の冤罪を晴らす為にオレを召喚したのでしょう? なら、それが晴らせなかった時、オレは帰れなくなるかもしれない」

 そう。元の世界に帰れないのは困るのだ。
 そして、大事な理由がもう一つ。

「それに、オレは元の世界でサラちゃんに感情移入していました。それこそ、サラちゃんグッズを買いまくろうと思うほどに」

「「……サラちゃんグッズ?」」

 ……余計な事を口走った。


~~~~~~~~~~~~~


 さて、そもそも何故こんな状況になったのか?
 まずは今日の1日を振り返ろう。





「ようっっっっやく終わったぁぁぁぁぁ!!!」

 この1年、かかりきりだったプロジェクトが遂に受注された。
 目の下に隈を作り、何度も資料を修正し、クライアントへの説明に行っては蹴られ、行っては蹴られ、を繰り返した日々。……今思い出しても泣きそうになる。

 しかし、その苦労も遂に報われた。

 さて、こうして区切りがついたのだ。小さな事で良いから自分にご褒美が欲しい。

「お、そうだ。アイツに声をかけるか」

 この1年、バタバタしていたからな。久しぶりに友達と呑みにでもいくか。





「……いや、ほんっとこの1年大変だったわ」

「タマキンお前、ずっと遊べなかったもんな。でも落ち着いてよかったじゃんか」

 彼はオレの高校時代のクラスメイト。友人Aだ。こいつはオレの事をタマキン (玉木)と呼んでくる。
 30過ぎの男がタマキン連呼すんなや。

「まぁな。もう少ししたらまた忙しくなるだろうけど。それまではゆっくりするわ」

「じゃあ今日は帰ったらすぐに寝るんか?」

「いや、今日は久々にゲームだ」

「ゲーム?」

「あぁ、前に話した事があるだろ? シミュレーションRPGで」

「前? あぁー……。そういやなんか言ってたな。ゲーム性が面白いんだったか?」

「そう。主人公の能力が状況によって変わるのよ。複数ルートがあるから攻略方法も色々あってさ」

「へぇ、複数ルートのあるシミュレーションRPGっていうと、『タクティクス〇ウガ』か?」

 意外と詳しいな。結構好きなのか?

「いや、『School Life』ってタイトルのゲーム」

「随分シンプルな名前だな。学園モノか? シミュレーションで学園? あ、でもそういえば『ファイアーエ○ブレム』も学園モノで出たな。しかも面白かった」

 こいつマジで詳しいのな。

「そうだな。でもこれ、本来は乙女ゲーム」

「乙女ゲーム?」

 固まる友人A。流石に予想外だったか。

「乙女ゲームっていうと、女子用のギャルゲ? お前、そういうの好きだったか?」

「いや、そうそうバカにしたもんじゃねーぞ? この作品はRPG部分が面白いって言われてる。だから寧ろ男性ファンが多いらしい」

「へぇ。でも、乙女ゲームでシミュレーションRPGなぁ……。どんなストーリー?」

「さぁ? よくわからん」

「は?」

 再び固まる友人A。ハマってるゲームのストーリーを知らないって言われればな。でもなぁ……

「このゲームはストーリーが微妙って評判でさ。貴族が通う学園にただ一人、平民の主人公が入学する。彼女が攻略キャラ達と恋愛していくんだ」

「王道だな」

 そう。ここまではいいのだ。

「だけど途中で、魔人とかいうのが世界征服を企んでいるのが判明。攻略キャラと共に魔人と戦うんだ」

「急に少年漫画だな。ギャルゲーだとそういうのもあるけど乙女ゲーだろ? 女子に需要あんのか?」

「さぁな。でもそのせいか、ストーリーは人気がないみたいでさ。サラっと見たけどあまり面白くなさそうだったから、ストーリーは全部スキップしてた」

 ストーリーがどうであれ、スキップすればメインは戦闘パートだけ。そして、面白いのはそこなのだ。

「それでシミュレーションRPGって言ってたのか」

「いや、でもホント面白いから今度やってみろって。ソフトも本体も貸すからさ」

「分かった分かった。また機会があったら借りるわ」

「それ絶対やらないやつじゃん! クソ! 次合う時は必ず魅力を伝えてやるからな!」


 …………


「ただいまー。おし、早速やるか」

 独り帰宅して、ゲームの電源を点ける。

「この面白さ、もっと広めたいなぁ。でも、確かに詳細を知らないと人に勧めづらいな」

 先ほどの会話を思い出す。
 ゲーム部分が面白いので是非プレイしてもらいたい。しかし、ざっくりしたあらすじしか説明できないのだ。

 話が面白くないにしても、どう面白くないかを語らなければ興味も持たれまい。今後の布教の為にも確認しておかなければ。


「仕方ない。ストーリー、きちんと見ておくか」

 早速ゲームを開始する。


==プロローグ===

 遥か昔、大戦によって数多の悲劇や絶望がまき散らされた。

 この時、人々の感情が魔力によって形を成し、魔人と呼ばれる者達が誕生した。

 負の感情によって生まれた魔人達は、それが生きがいと言わんばかりに人を謀り殺め、より多くの悲劇や絶望を生んでいった。

 だが、そんな世界を変えようと一人の英雄が立ち上がった。後の初代グレイクス国王である。

 彼は右手に神剣、左手に神鏡を持って魔族を討ち滅ぼし、グレイクス公国を立ち上げた。

 この物語はその500年後のお話である……

==========


 ふむ。最初から魔人の説明はあったのね。

 そもそも大戦の原因なんだよとか魔力ってなんだよとか気になるけど、今はとにかく話の確認だ。


==学園======

 ここは貴族の子女が通う、聖クレイス学園。

「ここが、貴族様が通う学校……」

 桜色の髪を大きなリボンで束ねた、見るからに気弱な少女。

 この学園は貴族の子女が貴族社会のルールを学ぶ、数少ない場である。
 しかし今年は、試験的に平民も通わせることとなった。

 そこで選ばれたのが彼女、クレアである。

「うぅ……。なんか視線を感じる……。同じ制服を着てる筈なのに皆さん堂々としてるし……。う、ううん! 私もこの学校の一員。頑張らなきゃ! ますば寮に荷物を置きに行こう! えぇっと、寮の場所は――」

「おや? 君は確か……」

「え? あっ!? 銀髪に碧眼、それに帯剣ってーーまさか、シルヴァ王子!?」

 クレアは驚きの声を上げる。だが、それも無理はない。

 彼は皇太子 シルヴァ・グレイクス。
 国1番の騎士に師事しており、剣の腕前も高い。更に3年前、神剣の使い手に選ばれた。その上、柔らかな微笑みは男女問わず人気を集める。
 彼は神剣に選ばれたことで英雄のように扱われており、その特徴は国王のそれよりも知られている。

「あぁ、初めまして。シルヴァ・グレイクスだ。君は、クレアさんだったかな?」

「えっ……!? あっ、し、失礼しました。シルヴァ皇太子殿下!」

 皇太子の口から自分の名前が出たことに驚く。だが、周囲からの怪訝な視線に気づき、慌てて頭を下げる。

「そんなに畏まらなくていいよ。学園では私と君は同じ立場。呼び方もシルヴァで良い」

「い、いえ、そんな事は……。その、私の名前をご存じなのですか?」

「勿論。平民がたった一人でこの学園に通う。しかも何百倍もの競争を勝ち抜いて。学園でもその噂でもちきりだ。まぁ、私も将来は国を背負う身だ。負けるつもりはないからね?」

「そんな、私が皇太子殿下と勝負なんて……。というか、やっぱり目立ってるんですね……」

 自分の噂でもちきりと聞き、恥ずかしそうに俯くクレア。その姿を微笑ましそうに笑いながらも、ポツリとこぼす。

「……野心家ではなさそうだね。親交を深めても問題ないかな?」

「え? あの、すみません。よく聞き取れなくて」

「あぁ、いや。何でもないよ。それよりその荷物を寮に置いてくるといい。寮まで案内しよう」

「えぇっ!? 皇太子殿下にそんなことをさせるなんてーー」

「言っただろう? ここでは皇太子じゃなくシルヴァ。荷物は私が持つ。さぁ、行こう」

「えっ!? ま、待ってください皇たーーシルヴァ様!」


==========


「これが最初の出会いかぁ」

 そういえばこんなプロローグだったな。
 しかしよく考えたらなんだこのクソデカリボン。目立ちたくないなら外しなよ……。

 王子もなんで学園内で帯剣してんだ? どこで何と戦うつもりだ。
 それに設定もチートかよ。謙虚で国一番の騎士の弟子で神剣に選ばれてイケメンで優しくて? 夢盛りすぎだろ。そら人気も出るわ。

 ……ギャルゲの攻略キャラも女子から見たら同じなんだろうな。なんか虚しくなってくる。

「まぁいい。続き続きっと」

 気を取り直してストーリーを読み進める。だが、すぐに後悔する事になる。
 知ってしまうからだ。オレの主となる、悪役令嬢・サラちゃんと、毒舌メイド・フローラさんの事を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

(完)私を捨てるですって? ウィンザー候爵家を立て直したのは私ですよ?

青空一夏
恋愛
私はエリザベート・ウィンザー侯爵夫人。愛する夫の事業が失敗して意気消沈している夫を支える為に奮闘したわ。 私は実は転生者。だから、前世の実家での知識をもとに頑張ってみたの。お陰で儲かる事業に立て直すことができた。 ところが夫は私に言ったわ。 「君の役目は終わったよ」って。 私は・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風ですが、日本と同じような食材あり。調味料も日本とほぼ似ているようなものあり。コメディのゆるふわ設定。

処理中です...