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俺は歩いていた。暗い道を、行くべき場所へと向かうために。追手は全員殺した。だが、右腕の感覚はなくなっており、左側は何も見えやしない。それに歩けば歩くほど激痛が体中を走るように感じていた。だが、その痛みも今やほとんど感じなくなってきた。そもそも自分がまっすぐ歩けているのかすらわからない。
俺はあの日を思い出す。あのキリングを殺し、森の中をさまよった時のことを。あの日と同じように感じられた。だけど、違うと思う。
なぜなら、あの時はなぜ生きているかすらわからなく、なぜ歩いているのかもわからなかった。
だけど、今の俺には理由がある。歩き続ける意味が、理由が。
俺はクリスの下に戻る必要がある。なんとしても、絶対に。
俺は歩きながら、クリスと初めて会った時のことを思い出す。あの時、俺は彼女の話を聞いて、同じだと実は思った。復讐に囚われているように感じられた。俺と同じで、いずれ破滅するだろうとも思っていた。
だが、少し違ったのだろう。彼女は俺よりも強かった。復讐心を押さえつけて、むしろ死のうとしていた。俺は復讐にすべてを捧げ、駆け抜けた。だが、これは俺が弱かったからだ。俺の心は弱かった。
そう思えば、クリスはすごかった。俺よりも辛い目にあいながら、その復讐心を抑え続けていた。俺なんかとは違う。
しかも、彼女は本来自分のことで精一杯だったのに、俺を助けてくれた。俺を助けることが自分に不利益を生むとわかっていても。復讐を果たした男の話を聞きたいと言っていたし、カーヒルと名付けたように自分のためではあったのかもしれない。
だけど、俺は結果として救われた。自らの間違いを知った。自らの愚かさを知れた。
俺はまだ恩を返しきれていない、彼女に。
俺には彼女に伝えきれてない思いがある。
それに約束したのだ。必ず戻ると、嘘にはしない、と。
俺はそう言った。そう決めたのだ。だから、ここで歩みを止めるわけにはいかない。ここで死ぬわけにはいかない。
俺は歩みを進める。だが、突然足の力が失われて、俺は地面に倒れ伏す。もう限界だ、と俺の体は告げていた。
俺はまだだ、と思いながら体に力を入れる。だが、体はピクリとすら動かない。俺はここでもう死ぬのだろうと思った。意識も朦朧としてきた。
「すまない、クリス」
俺の口は勝手に謝罪の言葉を紡ぐ。俺はもうここで死ぬのだ、と本格的に感じていた。俺は最低な人間だ。約束をしておいて、それを守れずに死ぬのだ。一個だけはなく、何個の約束を破ることになる。
一緒にいる約束を。
一人にはしないという約束を。
必ず戻るという約束を。
約束したことを、嘘にはしないという約束を。
だけどしょうがないことなのかもしれない。俺は復讐者だ。所詮自らの復讐のために、人を殺めた人物だ。だから、俺はここで死ぬのだろう。約束を破り、彼女を傷つけて。
その時、目の前にクリスがいるように感じられた。俺は最後の力を振り絞ってクリスがいるように感じられる方向に向けて手を伸ばす。ゆっくりとだが、そちらに向けて。
「クリス」
俺は手を伸ばしながら、最後に彼女の名を呼んだ。そして、次の瞬間、俺の意識は失われた。
俺はあの日を思い出す。あのキリングを殺し、森の中をさまよった時のことを。あの日と同じように感じられた。だけど、違うと思う。
なぜなら、あの時はなぜ生きているかすらわからなく、なぜ歩いているのかもわからなかった。
だけど、今の俺には理由がある。歩き続ける意味が、理由が。
俺はクリスの下に戻る必要がある。なんとしても、絶対に。
俺は歩きながら、クリスと初めて会った時のことを思い出す。あの時、俺は彼女の話を聞いて、同じだと実は思った。復讐に囚われているように感じられた。俺と同じで、いずれ破滅するだろうとも思っていた。
だが、少し違ったのだろう。彼女は俺よりも強かった。復讐心を押さえつけて、むしろ死のうとしていた。俺は復讐にすべてを捧げ、駆け抜けた。だが、これは俺が弱かったからだ。俺の心は弱かった。
そう思えば、クリスはすごかった。俺よりも辛い目にあいながら、その復讐心を抑え続けていた。俺なんかとは違う。
しかも、彼女は本来自分のことで精一杯だったのに、俺を助けてくれた。俺を助けることが自分に不利益を生むとわかっていても。復讐を果たした男の話を聞きたいと言っていたし、カーヒルと名付けたように自分のためではあったのかもしれない。
だけど、俺は結果として救われた。自らの間違いを知った。自らの愚かさを知れた。
俺はまだ恩を返しきれていない、彼女に。
俺には彼女に伝えきれてない思いがある。
それに約束したのだ。必ず戻ると、嘘にはしない、と。
俺はそう言った。そう決めたのだ。だから、ここで歩みを止めるわけにはいかない。ここで死ぬわけにはいかない。
俺は歩みを進める。だが、突然足の力が失われて、俺は地面に倒れ伏す。もう限界だ、と俺の体は告げていた。
俺はまだだ、と思いながら体に力を入れる。だが、体はピクリとすら動かない。俺はここでもう死ぬのだろうと思った。意識も朦朧としてきた。
「すまない、クリス」
俺の口は勝手に謝罪の言葉を紡ぐ。俺はもうここで死ぬのだ、と本格的に感じていた。俺は最低な人間だ。約束をしておいて、それを守れずに死ぬのだ。一個だけはなく、何個の約束を破ることになる。
一緒にいる約束を。
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だけどしょうがないことなのかもしれない。俺は復讐者だ。所詮自らの復讐のために、人を殺めた人物だ。だから、俺はここで死ぬのだろう。約束を破り、彼女を傷つけて。
その時、目の前にクリスがいるように感じられた。俺は最後の力を振り絞ってクリスがいるように感じられる方向に向けて手を伸ばす。ゆっくりとだが、そちらに向けて。
「クリス」
俺は手を伸ばしながら、最後に彼女の名を呼んだ。そして、次の瞬間、俺の意識は失われた。
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